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Chapter-53

 さて。


 俺ことマイケル・アルヴィン・バックエショフは、ドラゴン退治の功績を讃えられ、準男爵の爵位と、それにしては不釣り合いな規模の下賜領地を賜った。


 以前にも少し説明したが、未成年のうちにそれらを受けた俺だが、実際の治権の行使の権限と責任は、この世界、と言うかこの国、アドラーシールム帝国の成年、数えで15の歳の翌年から、ということになっている。


 ただ、それは、領地に張り付いている必要はない、といった程度のもので、領主としての権限は実際に行使できるし、それに伴う責任もまた負わなければならない。


 子爵以下の中・下級の貴族は、伯爵以上の上級貴族の寄騎となって、バックボーンになってもらうことになる。

 ……のだが、いくつかの事情から、授爵の推薦状を書いてくれたブリュサンメル上級伯爵との縁を断って、ローチ伯爵家の寄騎となった。

 そんな理由で、ブリュサンメル上級伯領の領都・ブリュサムズシティにちょっと居続けるのが気まずい俺は、ブリュサムズシティの冒険者養成学校を卒業すると同時に、自分の領地に入ることにした。


 まぁ、理由は、他にもあるんだが。

 特に、領地が現状どうなっているのかは、早くこの目で見たかったしな。


 前世ではしがないデジタル土方だったとは言え、一応プロジェクトリーダーをやったこともある身としては、プロジェクトの現状把握がどれだけ重要なことか理解している。

 ついでに、放置しておくと、切羽詰まった時に大変なことになることも。……あ、このやらかしは俺じゃないぞ、念の為。


 情報収集は、実兄で三男のセオと、その同僚だった……つか、今も同僚か。──まぁ、とにかくそれが縁で知り合ったアイザックに仕官してもらって、冒険者養成学校にいなければならなかった3ヶ月の間に、それを頼んでおいた。


 そうそう、話は少し逸れるが、アイザックと言えば……


「ごめんな、アイリス。こんな辺境より、帝都の方が過ごしやすかっただろう?」

「そんな事はありません! 私も、アルヴィン様にお使えする身ですから!」


 と、言うわけで帝都屋敷の管理については、ローチ家と聖愛教会に紹介してもらった人間に新たにやってもらうことになり、アイリスは領地の方の屋敷の世話をしてもらうことになった。


 あんましでかい声で言うのも馬鹿らしいが、旧マークル子爵家のそれである屋敷は、無人となっていたので手入れは必要なものの、俺の元実家であるクリストファー・オズボーン・バックエショフ子爵のそれより、遥かに豪奢だった。

 だから、当然のことだがアイリスの他にも、農民の子女などから使用人を雇うことにした。


 ただ、ここで識字率の低さに閉口することになった。

 日本は、近代化直前で男子13%、女子2%だったらしいが、それですら産業革命直前のヨーロッパに比べると群を抜いてるんだよね。

 最初、読み書きと四則演算を採用の条件にしたんだが、まぁそれだとろくに応募者もこない始末。結局、採用してから教育する、ということになった。


 ちなみにアイリスも、当然っちゃ当然だが文盲だった。が、帝都屋敷の管理に必要だと感じたらしく、自らある程度学習してくれたとのこと。

 向上心があるのはいいことだ。


 で、まぁ、ちょうど講師役にもいい人材がいるし。

「ミーラ、お願いできるかな?」

「わかりました。教会の教えを広めるためにも、聖典が読めるに越したことはありませんから」

 というわけで、ミーラにひとまず使用人の読み書きと四則演算の教育を頼んだ。


 実際のところ、アイリスも聖愛教会の宣教師に頼んで教えてもらったらしい。

 ミーラの口添えもあったしな。


 しかし……正直、学校建てたていなー……2年程度でいいから、義務教育の。

 とは言え、それには先立つものが必要なわけだが……


「ひとまず、領都の名前はどうする」


 セオ兄がまず提案してきたのは、準男爵とその領地としての体裁を整えることだった。


「バックエシス、だと実家と被ってしまうから、アルヴィンス、と言ったところか?」

「うーん……今のまま、マークリスのままでいいと思うんだけど、そう言うわけには行かないの?」


 俺は、腕を組んで考えてしまう。

 別に俺の名前なんて、入ってなくたっていいじゃない、慣れ親しんでる地名でさ。


「直近に例はないと思いましたが、別に、領都を領主の名前に合わせること自体、慣例的なものですから、別にアルヴィン卿がそうしたいのであれば問題ないかと」


 アイザックが、そう答えてきたので、この話は終わり。今まで通り、領都はマークリス。

 以上、閉廷、解散!


「それじゃあ、次に家紋と家印を決めなければならないが」


 セオ兄が言ってくる。そう、それもあるんだよね。貴族家の旗真っ白、ってわけには行かないし。


「それなんだけど、叩き台の案はあるんだけど、この領地が、どんな場所なのか、それを構図に加えたいと思って」

「なるほど、それもいい案だな……」


 俺が言うと、セオ兄も顎を抱えるようにして言う。


「だから、まずは2人の、詳細な報告を先に聞きたいかなって」

「わかった。なら、こっちの資料を見てくれ」


 セオ兄は、そう言って、俺の前に、書類の束を差し出してきた。


 実際のところ、アルヴィン・バックエショフ準男爵領は、旧マークル子爵領よりちょっと東に広がってて、そこで、海岸線に行き当たっている。


「主要な農作物は小麦だけど、西部では稲作の地帯もある。その他に、大規模な農地があるものは、ジャガイモと、イチゴかな」

「イチゴ」


 ジャガイモは想定の範囲だったが、イチゴがあるとは。


「南部の農地に多い。それから、ジャガイモだけど、この地で生産されているのは、サツマイモのように赤紫になるものが主流なんだとか」

「ジャガイモが赤くなるの!?」


 と、驚いた顔をしたのはキャロだった。

 俺の正妻候補婚約者として、先程から俺の座る座席の斜め背後に控えていた。


「カロチン──人参が赤くなるのと同じ成分を蓄えようとする品種があるんだよ」

「アルヴィン卿は、ご存知だったのですね」


 俺がキャロに説明すると、アイザックが、感心したようにそう言った。

 この2人も、赤紫のジャガイモが成ると聞いて、最初は驚いていたらしい。


「それから、東部の沿岸地帯では、大豆の農園も存在している」

「大豆」


 俺は、意外そうな声を出した。

 大豆は別段潮風に強いという話もなかったと思うし、意外な……──


 いや、待てよ、海岸地帯で大豆栽培って、もしかすると!?


「ひょっとして、その近くで、独特の調味料と言うか、ソースと言うか、そんなものを作っていたりしない?」

「よく解ったな」


 セオ兄が、意外そうな声を出した。


 海岸部、大豆、と来れば間違いない。


「アル・ソルという、サラサラとしたソースが作られている」


 呼び方は違うか……だが、サラサラとしたソース、と言う時点で、あれの可能性が高いだろう。


「それ、手に入れてここまで持ってこれないかな?」

「少量なら、大した手間にはならないと思うが」


 俺が言うと、セオ兄はそう答えた。


「とりあえずサンプル程度でいいんだ、お願い」

「解った、それなら手配しよう」


 俺が、頭を下げるようにして言うと、セオ兄はあっさりとそう言った。


「ひょっとして、それにもなんだか解ったりするの!?」

「まだ、確信はないけど、多分、そうじゃないかな……と、思うものはある」


 キャロの、驚いたような言葉に、俺は苦笑しながら、そう答えた。


「農作物の状況はこんな感じだが」


 セオ兄が言う。まぁ、他にも雑多なものを生産しているみたいだが、それはリストにまとめられている。

 そして、そのセオ兄が、あまり芳しくなさそうな顔で、続ける。


「やはり水が度々問題になっているな。去年はそれほどでもなかったらしいが、川の水面が低くて、少し日照りが続くと、厳しいことになるみたいだ」


 川の水面が低い……土壌に砂礫が多くて、川底が侵食してしまったのかな?

 いずれにせよ、何らかの対策は必要そうだ。


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