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Chapter-49

俺が、きっぱりと言った後、僅かに沈黙が流れる。馬車を挽く馬の蹄鉄の音、馬車の懸架装置が軋む音だけが、響いてくる。


「って、そんな」

「アルヴィンを置いて逃げるなど」

「考えられない」


 真っ先にキャロが沈黙を破ると、次々と、ミーラ、エミが、次々に言う。

 そう言ってくれるのは有り難い、有り難いが……


「みんなの気持ちは嬉しい。でも、俺や姉弟子がどうにもならない相手なんて、そうするしかないんだ。俺は、いや、俺だって死にたくはないが、みんなを道連れになんてそれこそごめんだ」


 そう。

 今までは、()()()()()()()()()()が使えた。たとえイベント自体は原作にはないものであっても、知識の応用でなんとでもなった。


 だが、今回のイベントは違う。俺の原作知識が枯渇してきているところなのだ。

 しかも、原作でも確かに、古代遺跡探索イベントはあった。

 だが、エバーワイン男爵領で見つかったものではない。今回のそれとは、また別のものだ。

 しかもそのあたりから、ちょうど知識が怪しくなってくる。

 つまり、今回の探索は、どれほど俺の想像を超越した物が出てくるか、わからないってことだ。


「悪いけど」


 キャロが、言う。


「私はアルヴィン、アンタに付き合うわ。アンタやリリーさんの足元程度にしか役に立たないけど、稼げる余裕は増やせるはずよ」


 そう言って、キャロは不敵に笑った。


「キャロ……」


 俺は、その顔を、まじまじと見てしまう。


「いえ、それなら、私も戦います!」

「私も、アルヴィンも、キャロも見捨てて逃げるなんてできない」


「それは駄目」


 ミーラとエミが、やはり、険しい表情をしてそう言ったが、キャロは、きっぱりと拒絶の声を出した。


「私と違って、ミーラは祖父を通して帝国中央にもある程度顔が利くし、エミのローチ伯家の力もある。アルヴィンやリリーさんでどうにもならないような相手なら、もっと本格的に国を動かすしかないわ」


 キャロは、不敵に笑い直し、そう言った。


「第一、正妻はとしての婚約者は私なのよ。そのくらいの権利はあってもいいと思うわ。それに、上級伯に無断で独自の調査隊を出した、エバーワイン家としての責任もね」


「キャロ……」


 これは、まぁ……何があっても……


 ────なんとか、するしか、ねぇか。



「これはこれは、ようこそいらっしゃった、こんなところで出迎える形になって申し訳ない、アルヴィン・バックエショフ卿、それに、シャーロット・キャロッサ卿も」


 俺達が、現場について馬車を降りると、ティナ夫人より少しだけ年上そうな男性が、そう言って俺達を出迎えてくれた。

 ヴィクター・ホワイト・アトリー・エバーワイン男爵、本人だ。


 貴族らしく、多少はゴテゴテとしているものの、実戦的な装備をつけていた。


「状況は、よくないですか」


 俺は、キャロの婚約者としての挨拶もそこそこに、エバーワイン男爵に、状況の確認の話題を振った。


「既に到達済みの場所までは、今でも問題なく入れるのだが……」


 男爵は、マッピングされた、地下空間の白地図を指差しながら、言う。


「ただ、ここより先に入った調査隊が……」

「音信不通、ということですね」


 男爵の言葉に、俺はそう言った。


「ああ」


 男爵は、そう答える。


「娘やその婚約者をそんなところに送り込むのは、本来なら心配なことだが、アルヴィン・バックエショフ卿や、シャーロット・キャロッサ卿は、あの大賢者ディオシェリルの直弟子とのことだからな。情けない話かもしれないが、それに縋らせていただく形になる」


 男爵は、少し情けないような表情をしつつも、頼もしそうに、俺や姉弟子を見た。


「いえ、あなたの娘、キャロルさんも、立派なドラゴン・スレイヤーの1人ですよ」


 俺は、苦笑交じりに、そう言った。

 その勇敢さは、あの場にいた、そして助けられた俺が一番良く知っている。


「それに、他のメンバーも。いずれ劣らぬ、本来なら冒険者養成学校の学生の身分で、こんな事を言うのはおこがましいかもしれませんが、一騎当千の猛者であることは間違いありません」


 俺が言うと、エミは剣を、ミーラはロングメイスを手繰り寄せるようにし、かすかに頷いた。


「上級伯の信頼も高い…………どうか、よろしく頼む」


 多少、申し訳無さそうな様子で、そう言った。



 早速……と言っても、男爵の宿営地に荷物を降ろさせてもらってからだが──俺達は、件の古代遺跡につながる洞窟へと降りることになった。


 最初の階層は、天然の洞穴のようにも見えたが、それにしては、天井がそれほど高くない割に、だだっ広いホールのように開けている。


 この階層は、探索が既に済んでいる。と言うか、まぁ実際、なにもない広いだけのフロアだった。

 篝火、というか、ドライ・マナの照明塔があちこちに立てられており、探索用の光源を準備する必要もなかった。


「たしか、第2の階層までは、探索は済んでいたはずだが……」


 姉弟子が、そう言いながらも、俺達は進む。

 防御の硬いミーラを先頭に、前方警戒にキャロ、俺、後方警戒にジャックと姉弟子、最後尾にエミが付くかたちだ。


「…………これ……は……」

「どうか、しましたか?」


 第2の階層へと降りる通路、そこに至って、俺は思わず、呟いていた。

 その通路は、


 明らかに、()()()()()()で、できていた。


 実は、コンクリート自体は、この世界にもある。

 いや、それどころか、前世の世界にも、ローマ帝国の時代には存在したのだ。

 ローマン・コンクリートと呼ばれ、性質的にも後に建設資材として使われる現代のコンクリート(ポルトランドセメント)と大して変わらなかったと言う。


 しかし、前世の世界では一旦、切り出し石による石造りへと後退してしまう。

 最大の理由は、コンクリートの弱点、引っ張り強度の不足を補う、強度のある骨材がまだ出現していなかったためだ。

このため、A.D.5~6世紀頃、一旦コンクリートは文字通りの遺失(ロスト)技術(テクノロジー)となる。


 が、この世界ではそれに当たる時期を過ぎてもコンクリートは使われ続けたようだ。

 骨材として、脆い煉瓦に代わり、竹を使うことで引張強度が確保された、と、師匠のところで呼んだ資料には記されていた。


 だが、目の前に出現した階段……それは、確りとした強度を持ったそれは──


 明らかに()()コンクリートでできていた。


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