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Chapter-31

 ミーラに意見と言うか、行動の判断を委ねたのは、当然なんだけど、ミーラの方が、こうした場面の、専門家だからだ。


 俺も、死霊術(ネクロマンシズム)も師匠のところで一通り教わりはしたが、魔導師として防御的な(すべ)を身に着けただけだった。

 スピリチュアル系は俺よりミーラの方が詳しいことが言えるかも知れないわけだ。


「そうですね……だいたい、こういう場合はだいたい地縛霊の類だと思うんですが」


 ミーラはそう言って、俺より屋内の奥に入り、吹き抜けのエントランスホールを見回す。

 室内はランタンの光が届く範囲だけが明るく、薄暗かった。さっきからいろいろあったところもあって、不気味に感じられる。


 まぁ、地縛霊だって言うのはだいたい俺にも想像はついたが……──


「多数の霊がすべてここに括られていると言うよりは、ひとつの強力な地縛霊がいて、他の霊が巻き込まれているという感じだと思います」

「うん……そこまでは俺も何となく解るんだけど、それをどうしたら除霊……浄化できるものかなと思って」


 ひとつの地縛霊が、他の浮遊霊を巻き込んで、大きな霊障を生み出す。

 実際それが、だいたい、霊障のある瑕疵物件の、パターンなんだけど。


 ただ、俺がやるとなると、力技で、全部の霊を倒すしかなくなる。


「そうですね、では、私がやってみます」


 ミーラは、そう言って、メイスを左腕の脇で抱えて、右手で、眼前で印を括ろうとする。

 そこで、一旦手を止めた。


「すみません、アルヴィン、少し明かりを抑えてもらえますか?」

「あ、了解」


 俺は、ランタンの出力を調整して、ロウソク1本分程度よりやや暗めの明るさに絞る。


「それでは……」


 改めて、ミーラは印を括った。


ソウル・ストーカー(光霊追跡)


 ミーラの右手から、青白い光が、まるで雫のように、床に滴り落ちる。

 すると、そこから……そう、前世で見た電子機器のプリント基盤のように、青白い光の線状の模様が、床に浮かび上がり、広がっていく。


「すっげ……」

「ああ、これ、使えるのか……」


 ジャックと2人して、その光景を凝視してしまっていた。


 俺は、呪文自体は知っていた。だが使えるところまで行っていない。


 その回路模様の上を、光の、そう……脈のような輝点が、行き来していた。

 それは、床一面に広がった回路模様の上を、全体的に行き来しているのだが、エントランスホールから左右に存在する階段の上に向かって、特に激しく、流れていた。


「これは……元凶は、2階ってことか?」

「どうやら、そのようです」


 俺が言うと、ミーラも、同意の声を出した。


 ランタンの明かりは絞ったままだが、床が全体的に淡く光っている感じなので、足元が覚束ないということはなかった。

 俺達は、やはりミーラを先頭にして、キャロ、俺、ジャック、エミの隊列で、向かって左側の階段を、上っていく。


 暗い中で、青白い光の回路模様を、輝点が言ったり来たりするのは、ちょっとなんか、神々しい美しさも感じる。

 だが、これは、禍々しいなにかに通じているわけで、それを、放っておくわけにも、行かなかった。


 2階の踊り場に上がると、左右の階段から繋がってきている光の回路模様が、中央に集まってきていて、中央の通路から、奥へと向かっていた。


「あっちに行けばいいってことかな?」

「あちらに、この霊障の元凶があるのは、間違いないようなんですが……」


 ミーラのどこか濁したような言葉を聞いて、俺は、キョトン、とした。


「間違いないようなんだけど?」

「はい、なんか、地縛霊の禍々しさとは、少し、違うような気がします」


 うーん……

 俺には、そう言う感知はできないからなぁ……ミーラの言葉を信用するしかないんだが。


「ただ、それが、この屋敷の霊障に繋がっていることは、間違いないようです」

「排除するしかない……ってことか」

「はい」


 ミーラの言葉に、俺が言うと、ミーラは同意の声を出してきた。


 中央の、廊下の奥へと進んでいく。

 また、先程のような、攻撃が降り注いでくるかもしれないと、備えていたが……


 バンッ!


「きゃっ!」


 キャロが、悲鳴と言うか、驚いた声を上げる。

 通路の左右にある燭台が、次々に破裂した。


 飛んでくる破片を、俺とミーラが盾を使って退ける。


「!」


 正面に、半分透き通った、巨躯のゴリラみたいな化け物が現れた。

 亡霊が集まって、巨大な一体の怪物になった感じだ。


「はぁっ!」

「はっ!」


 ジャックが矢を放ち、キャロとエミが、速攻をかける。矢は突き刺さった感じになり、エミが斬りつけた跡は、一度は裂けた。

 だが、矢はまるで押し戻されるように抜けて床に落ち、エミが斬りつけた跡も、すぐに再生してしまった。

 キャロに至っては、槍の穂先を、怪物の身体に取り込まれてしまい、それを引き戻そうとして、四苦八苦している。


「キャロ!」


 俺は、それに気がついて、声を上げていた。怪物が、キャロが槍で斬りつけた肩口とは、反対側の腕で、キャロを殴りつけようとしている。


 ガキッ!


 キャロは、左腕に付けたバックラーで、辛くもそれを受け止め、受け流した。


「たぁっ!」


 その、キャロを殴りつけようと、身体を乗り出してきたところを、ミーラが、光を帯びたメイスで、脳天から叩きつけた。

 その脳天が、凹んだようになったかと思うと、光が霧散するかのように、半透明の怪物は、分解して、消え去った。


「すみません、追尾の魔法を維持していたので、反応が遅れてしまいました」

「あ、ううん、大丈夫よ、助かったわ」


 キャロに謝罪するミーラに対して、キャロは、クスッと微笑みながらそう言った。


「ちょっと、待ってくださいね」


 ミーラが言い、メイスを構えたまま、軽く目を閉じて、精神を集中させるようにする。

 すると、一度、消えかかっていた床の回路模様が、先程にも増して、輝き始めた。


 その輝点の脈流が、廊下突き当りひとつ手前の、左側の部屋の、扉の下へ向かって、特に、激しく出入りしていた。


「あそこかな……?」

「はい、どうやら、そのようです」


 俺が言うと、ミーラは肯定の言葉を出した。


「よし、強襲をかけよう。二組に分かれて、扉の左右の壁に隠れてくれ」


 俺が言い、皆は、それぞれ、こくん、と頷いて、ジャックとキャロが扉の左側、エミとミーラが、扉の右側の、それぞれの壁に、張り付くようにして、構えた。


 実は、俺と言うか、俺達は、ここで、ちょっとしたミスを犯していた──


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