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Chapter-28

 俺は下賜領地を受けることになったわけだが、実際に下賜される領地についてはまだしばらく決まるまで時間がかかるだろう。

 ローチ伯爵家の寄騎になったから、その近接地になるはずだ。


 それにしても、10万5千(ごく)って……

 正直、新参の準男爵の領地じゃないよなぁ。


 あ、ちなみにこの石高(こくだか)制、小麦の平均収穫量が基準になっていて、日本の明治維新前のそれとは、数値の基準は異なる。

 まぁ、この世界、というか、アドラーシールム帝国には、稲作の習慣もあるんだが、あくまで主体は、パンを作る小麦。


 あと、ブリュサムズシティのような重商都市を持つ領地の場合は、金銭での税収を、小麦の価値に換算することもある。


 で、ジャックのスチャーズ準男爵家が3万石。キャロのエバーワイン男爵家が、6万石ぐらい。

 姉弟子なんかは、1万500石ほど。


 エミのローチ伯爵家なんかは、名門だけあって、25万石超えてるんだけど。


 ちなみに現世での我が実家、と言うか()実家、バックエショフ子爵家の領地は、面積じゃローチ伯領を上回っているが、辺境すぎて開発が進んでいないので、石高としては9万石にも至っていない。


 これだけ見ても、新参の準男爵に下賜される領地として、10万5千石ってのが、どれだけ破格かわかると思う。

 なるほど、俺を囲い込みたい高位貴族はいくらでもいるわけだ。


 だからってわけでもないだろうが、


「なるほど、エミにライバルが増えたってことだね」


 と、俺が、ローチ家の人間にミーラのことを紹介しても、ウィリアムは、そうは言いはしたものの、俺を問い詰めるようなことはせず、穏やかな表情のままだった。


「すみません、俺の優柔不断さでこんな事になってしまって」


 俺は、申し訳なくてそうは言ったものの、


「おいおい、別に、君を責めているわけじゃないよ」


 と、ウィリアムは笑い飛ばすように、苦笑しながら言ってきた。


「たしかに私はまだ、アイヴィの他に序列夫人や妾は取っていないがね、そもそも、エミが私達の母とは違う、父上が妾にした女性の子なんだ、我々が君をどうこういう筋合いはないよ」


 あ、そうか……言われてみりゃそうだな。


「それより、さしあたっての問題があるだろう」


 ウィリアムが、話題を変えるようにして、そう言った。

 うん、まぁ、そうなんだよね。


「我が家としては、君達にいつまで滞在してもらっても構わないんだが……そう言うわけにも行かないだろう」


 そう、俺も領地持ちの貴族となったからには、帝都屋敷というものを持つ必要がある。

 いつまでもローチ家に居候しているわけにも行かないのだ。


「そのことで相談できればと思ったんですが、いい心当たりはありませんか?」


 俺は、リビングでウィリアムと向かい合ってソファに腰掛けながら、そう訊ねた。


「ううん……貴族街は結構、過密だからな……紹介できるような物件は、今はないんだ」

「そうですか……」

「役に立てなくて、申し訳ない」

「あ、いえいえ。別に、謝ってもらうようなことじゃないですから」


 他に伝手がそんなにないのも事実だが、だからといってローチ家に我儘を言ったってなんとかなるって話じゃない。

 そんなことぐらいは、理解している。


 姉弟子……が、こういう時に頼りになるとは思えないしなぁ。

 まぁ、相談するだけはしてみてもいいかもしれないが。


 と、そんな事を考えていると。


「あー、ミーラさん、結構強いー」

「いえいえ、そんな。キャロさんやエミさんも、かなりの腕とお見受けしましたよ」


 ローチ家の中庭で手合わせしていた、キャロとミーラ、それにエミが、屋敷の中に入ってきて、そんな事を言う。


 実際、ショートランス程の柄のあるロングメイスを、ミーラは器用に扱う。キャロが上から、下、へのクイックでの二段突きをしたのを、ミーラはどちらもメイスで弾いてしまったのを、俺も目撃していた。


 物理戦闘の能力は、キャロやエミと伯仲するところ、と言ったところか。


 その上で、光属性の魔法も使える。支援系も、ある程度は攻撃系も。

 パーティーバランスを考えた時、奇数パーティーになってしまうことを考えると、1人が前衛後衛の両方の能力を持っているスイッチャーというのは、丁度いいかもしれない。


 と、……話が脱線した。


「ミーラ、少し相談があるんだが、いいかな」


 俺は、タオルで汗を拭くミーラを、そう言って呼び止めた。

 ちなみに、教会のホーリーシンボルの入ったブレストプレートに、布ではあるがある程度防御力の期待できそうな、法衣である厚手のスカートを着けている。それと、頭にフードと一体になった、金属製のヘッドガード。


「はい、なんでしょう?」


 ミーラが返事をして、俺の方を向く。キャロと一緒に、こちらに近付いてきた。


「実は、俺も準男爵になった以上、帝都屋敷を持たなきゃならないんだが」

「あ、確かに、そうなりますね」

「そのアテがなくてさ、ミーラには、なにかないかな」


 一応、帝国で第2位の宗派のトップの孫だ、なにか心当たりはあるかもしれない。


「うーん、すみません、私は特に、そう言うのは存じ上げていませんが……」


 ミーラは、少し申し訳なさそうな苦笑で言う。まぁ、そうだよな。


「あ、いや、別に……」

「あ、でも」


 俺がミーラに詫びの言葉をかけようとしたのを、ミーラ自身が、遮るように声を上げた。


「お祖父様だったら、不動産屋とも伝手があるかもしれません」


 あ、そうかセニールダー主席宣教師か。

 確かに、それならコネクションも期待できそうだな。


「そっか、じゃあ、相談してみるか」

「はい、お祖父様も、頼られた方が、喜ぶと思いますし」


 呟くような俺の言葉に、ミーラは、可愛らしいツリ目の笑顔で、そう言った。


 どうせ、他にそれほど選択肢はないんだ。

 いきなり行った不動産屋に、ふっかけられる事を考えたら、ワンクッション入れられるなら、その方がいい。



 それで、キャロやミーラ達が一休みして、午後になってから、俺達はアドラス聖愛教会を訊ねた。

 早速、ミーラに、セニールダー主席宣教師を呼び出してもらう。


「これはこれは、アルヴィン殿、よくぞ参られました」


 主席宣教師は、なんか知らんがニッコニコ顔で、愛想を振りまくようにしながら、俺の前に出てきた。


 ちなみに、ルイス・モーリス・セニールダー主席宣教師は、一応、貴族でもあって、爵位は、伯爵になる。

 法衣貴族……なんかと思ったら、祭事で奉納する作物を作るため、5千石ほどの農地を持っているらしい。


 帝国中央としても、これで、法衣侯爵である本祖派のジジィと、バランスをとってるんだろうな。

 官僚ってのは、どの時代、どの世界でも、大変なものだ。


 などと考えつつも。


「あの、実は、折り入って相談したいことがありまして」

「ミーラから聞かせていただきました、帝都屋敷をお探しとのことですな?」


 俺が声をかけると、主席宣教師は、そう言ってきた。

 まぁ、ミーラは話すよな。別にそれで困るわけでもなし、むしろ、話が早くていい。


「懇意にしている不動産屋もあるにはありますが……なにせ、貴族街は土地が足りませんからな、いい物件がありますかどうか……」


 そうなんだよね……貴族街って、旧城塞の内側の、ただでさえ狭い土地に存在してるから、新しく建物を建てる余裕がない。

 俺としては、新参の準男爵らしく、他の新参貴族や法衣の男爵・準男爵がしているように、平民街に新しい屋敷を建てることも考えていた。

 多少、官庁街との行き来は、不便になるが。


 しかし、主席宣教師は、別の提案をしてきた。


「どうでしょう、教会で預かっている物件を、お譲りするというのは」

「教会で預かっている物件、ですか」


 不動産屋ではなく、教会が預かっている物件。

 それがどういうものか、なんて、決まっている──



 ────事故物件だぁ!


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