表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/119

Chapter-11

 本来は、(いにしえ)の時代の魔導師が、その生命の根源まで再構成するため、超高温を発生させる目的で作り出されたという、大灼熱魔法。


 俺、アルヴィンが放ったそれは、まず、ドラゴンの顔面を灼き尽くした。


 それは、明確な指向性を持って、ドラゴンの肉体を包み込み、洞窟の、ヤツがやってきた方、その身体から尻尾の方へと向かって、流れていった。


 自身が高温のブレスを吐くドラゴンであっても、こいつの熱には、いくらなんでも、堪えられないはずだ。


 炎の奔流が晴れた後、果たして、ドラゴンの姿は、まだそこにあった。


「そん……な……」


 キャロルは、一瞬、絶望のような顔をした。

 ジャックも、同じような表情をして、2本目の矢をつがえた弓を、呆然と持ち続けていた。

 だが、


「ううん、()まっている」


 エミが、そう言った。


 ドラゴンは、原型はなんとかとどめていた。


 だが、それだけだった。


 超高温に全身を灼かれたドラゴンは、既に息絶え、ただ、グラリと、その巨体を崩れ落ちさせた。


「やった…………」


 呆然としながら、ジャックが、ようやく絞り出すように、呟いた。


「やった…………」


 キャロルもそう声を出す。


「やった! やったわ! アルヴィン! あなた、ドラゴンを倒したのよ! 凄いわ! やっぱり、あなたは天才なのよ! アルヴィン!」


 喜びに歯止めが効かないのだろう、キャロルは、跳ねるようにしてはしゃぎながら、俺に抱きついてきた。


 だが、俺は────


「はは……そうか……やった……のか……はは……」


「アルヴィン?」


 目はしっかり開いているはずなのに、視界が急激にぼやけていく。

 この、感覚は……


「アルヴィン!!」


 ぐらり、と、全身の力が抜け、倒れかけながらも、自分の身体が、まるで浮いているかのような、感覚。

 直ぐ側で叫んでいるはずなのに、遠ざかっていくキャロルの声を最後に、その意識を、手放そうとしていた。


 ──まぁ、今度は、皆、助けられたし、まぁ……いいか……────





 ……

 …………

 ……………………

 見慣れぬ、天井。


 その視界の中に、見慣れた存在が飛び込んできた。


「あ……姉弟子」


「『あ……姉弟子』、じゃあない」


 姉弟子は、ベッドに横たえられた俺を覗き込むようにしつつ、ため息まじりに、呆れたような声を出した。


「まったく、無茶をする。いくらお前でも、あの魔法を、ドラゴンへの攻撃に使うだなんて」


「すいません、他に、方法が思いつかなくて……」


 どこか憤ったような姉弟子の言葉に、俺はただ、そう言うしかなかった。


「まる2日、眠り続けていたんだよ? その間、お前さん達の仲間が、どれだけ心配したことか……」


 ため息まじりに、姉弟子は言う。


「そうだ……皆は……無事……ですか? って、あれ……? ここは……どこですか?」


「質問は一度にひとつにしろ」


 そう言いつつ、姉弟子は、穏やかに苦笑する。


「ここはダールグーン代官の屋敷さ。流石にここの安宿に、お前さんをほっぽりだしてはおけなかったからね」


 姉弟子は、まず、その問いに答えてから、


「お前さんの仲間については……ま、見れば解るよ」


 苦笑交じりにそう言うと、姉弟子は、部屋の扉の方に向かって、


「おおい、アルヴィン、目を覚ましたよ、皆、入っておいで」


 と、声を張り上げた。


 すると、扉がそっと開き、キャロルにエミ、それに続いてジャックが、入ってきた。


「ごめんなさい……アルヴィン……あなたに無理をさせてしまって」


 キャロルが、開口一番、しょげたような様子で、そう言った。


「いや……いいんだよ。それしか皆が助かる道はなかったんだしさ、それに、俺もちゃんとこうして生きてるみたいだし」


「でも、私達のために、アルヴィンが無理をしたのは、事実」


 エミが、自分を責めるかのように、そう言った。


「そうだな……結局、俺達、お前に頼ってばかりだってことだしな……」


 ジャックまでもが、珍しく、神妙な顔で言う。


「ジャックがそこまで言うなんて……こりゃ、天気でも崩れるのかねぇ」


「って、どういう意味だよ、そりゃ!」


 俺が苦笑しながら言うと、打てば響くかのように、相棒は、ツッコミを返してくれた。


「でも、そうは言うけどよ? 無茶してたのは、皆だって一緒だろ?」


「え……?」


 俺の言葉に、3人が揃って、キョトン、とする。


「俺が魔法を発動させるまでの間、結構無茶苦茶なことやって、時間稼いでくれたじゃないか」


「それは……なんって言うか……」


「私達も、ドラゴンを倒すのは、アルヴィンにしか出来ないと思っていたから……」


「俺なんか、結構後ろに下がってたしな……」


 キャロル、エミ、ジャックが、それぞれきまり悪そうに、そう言った。


「いや……皆がいなきゃ、俺1人じゃどうにもならなかったさ。……うん、皆のおかげで、あのドラゴンは倒せたんだ。皆も引け目なんか、感じる必要ないよ」


 俺は、力が入らないまま穏やかに笑いながら、そう言った。


「けど……」


「ああ、もう」


 キャロルがさらに何か言おうとした時、焦れたような声を出したのは、姉弟子だった。


「4人とも無茶苦茶してるんだよ、その事を自覚しろ、何度もこんな事態になってたら、生命がいくらあっても足りないよ? いくら冒険者でも、命あっての物種なんだからね」


「…………はい」


 姉弟子の、少し説教じみた言葉に、俺は、というか、俺達は、神妙な面持ちで、そう返事をしたのだった。


「でも」


 俺達を叱り飛ばしていたかのような姉弟子の顔が、ぱっと綻ぶ。


「よく帰ってきたよ、4人共……よくやった」


 姉弟子は、そう、俺達を労うように、褒めてくれた。



 その後。

 俺はまだ全身に力が入らず、もう2日ほどダールグーン代官の屋敷に厄介になることになってしまった。


 でも。


 これで俺達、ドラゴン・スレイヤーなんだよな。


 そう、()じゃなくて、()()が。


 原作──『転生したら辺境貴族の末っ子でした』では、マイケル・アルヴィンが最初に対峙するドラゴンは──アンデッド・ドラゴンだったんだから。


 そう、以前説明しかけた、エンシェントドラゴンが厄介な存在になる事象──それは、エンシェントドラゴンが、リッチのようなノーブルアンデッドになってしまった存在だ。

 こうなると、周囲の生けとし活ける者すべてからその精気を吸い尽くしながら、移動し続ける、…………ちょっと他に例えが見つからない、惑星規模の大災厄となってしまう。

 もちろん物理攻撃なんて効きゃしないし、魔法攻撃も、……いわゆる事象を具現化する現理属性魔法では、炎の魔法なら、まったく無力ではないかな、程度の勢い。


 原作のマイケル・アルヴィンは、虚理属性魔法とされる、光属性の魔法にもそこそこ長けていて、それを駆使して、いきなりアンデッド・ドラゴンと戦う羽目になるんだが……

 実は、()はこれがそれほど得意ではなかったりする。いや、まったく使えないわけじゃないんだが。

 ちなみに言うと、姉弟子も似たようなもん。


 で、そんな相手だから、マイケル・アルヴィンは、他の仲間の力を借りずに、ほとんど1人で、このドラゴンを対峙する事になるんだ。


 でも、()は違った。確かに倒したのは下位種のドラゴンかもしれない。でも、仲間と……皆の力を借りて、あのドラゴンを倒したんだ。


 俺のことを信じて、飛び出して行った皆。

 皆のことを信じて、究極魔法に賭けた俺。


 なんか、なんか、面倒くさいのは嫌だな、って、現世ではそれを避けるつもりで生きてきたけど。


 まぁ、でも、こんなのも、悪くないかな……


 そう思いながら、俺は、再び微睡みの中に落ちていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ