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Chapter-113 / 第二部・完

「ああ……疲れた……」


 俺の帝都屋敷。

 俺はリビングスペースのソファに、横から突っ伏すように倒れ込んだ。


 帝国再編の大勅令に伴う作業で、俺は自領に帰る暇もなく、帝都で制度づくりの相談役として、毎日皇宮やいろんな役所やらを巡って歩く日々が、ここ何週間か続いている。


 まぁ、前世での社畜っぷりに比べたら、それでも日が暮れた頃には帰れる分、だいぶマシなんだが。

 この世界、まだ電球が発明されてないからな。マナ・ランプはあるが、あれは魔導師がいないと使えないし。


「お疲れ様」


 部屋着姿のキャロが、苦笑しながら言い、ソファの背ズリ越しに俺の頭を撫でてくる。


「なんで現世でもこんな忙しいことすることになっちゃったんだろうなー」

「んー……、まぁ、私としては悔しいんだけど……」


 俺が呟くように言うと、キャロは口元に人差し指を当てて、言う。


「悔しい? キャロが?」

「あー、それは私も同じ」


 俺が身を起こして聞き返すと、傍にいたエミまで、なんだか俺をヤブニラミするようにしながらそう言ってくる?


「? ??」

「アルヴィンが私達を軽んじてるわけじゃないってのは分かってるんだけどね?」


 俺がキョトンとしていると、キャロが苦笑しながら言う。


「以前も話してた」


 エミが言い。キャロが頷く。

 その背後で、なんかミーラが気まずそうにしている。


「そうそう、ミーラと出会ってから変わったなーって」

「そ、そうか?」


 キャロに言われて、俺は少し考え込むようにしてしまう。


「そうよー、今回のことだって、最初言ってたとおり、アルヴィンは『面倒くさいから逃げる』つもりだったんでしょ」

「まぁ、それは確かにそうなんだけど」


 キャロに、ソファの背ズリ越しに言われて、俺はきまり悪そうにしつつ頬を掻く。

 実際、そうなんだよなぁ。

 なにか厄介事が起きたら、それに首突っ込む気なんて全く無かったはずなんだけど。


「今回のことだって、ミーラがなんとかならないか、って言い出したら、自分から面倒事の方に突っ込んでいったじゃない」

「あ……うん……まぁ……確かに」


 言われてみれば、そうなんだよなぁ。

 最初に逃げるって言った時、反対したのはミーラなわけで、俺はそれを嘆く彼女を放っておけなくて、こんな騒動に首突っ込んだことになるわけで。


「け、けれどそれは!」


 キャロの背後から、ミーラが声を上げてくる。

 俺、それにキャロとエミも、ミーラの方に視線を向けた。


「それだけのことをするのは、やはりみなさんを信頼しているから、思い切ったこともできるのでは……」

「うーん、それはどうかなぁ」


 どこか気まずそうな様子で言うミーラの言葉に、俺は腕を組んで考え込んでしまう。


「実際、割と俺1人で何とかなっちゃう、最悪姉弟子いれば、なんて俺自身は考えてることがあるんだけどな」

「そうなんですか?」


 苦笑する俺に、ミーラは意外そうな視線を返してくる。


「そ、割とね。でも意外と計算違いがあるっていうか、キャロ達に助けられてるんだよなぁ、これが。ドラゴン2匹呼び出されたりしたときとかな」

「ま、ね、いくらアルヴィンが凄腕の魔導師だからって、身体はひとつしかないわけだし」


 俺が苦笑したまま言うと、キャロは「しょうがないわねー」という感じで笑って、そう言った。

 そしてキャロは、ミーラの方を向くと、胸のあたりに手を当てて、言う。


「そこを補うのは、正妻である私の役目だと思ってるわ」

「私もそれは、負けてないつもり」


 エミまでそう言い始めた。


「私達3人の間じゃ前にも言った話だけど」


 そう言って、キャロは俺の首に腕を回して抱きついてきた。

 いや、その、キャロって結構豊かなものをお持ちだし、そうされるとその豊かな部分が顔に押し付けられて、俺もドキドキしてしまうわけなんですがね?


「私はミーラのこと認めてるけど、だからといってこっちから譲るつもりはないから」

「私も」

「おいおい……」


 エミに左腕に抱きつかれる。エミはエミで、身長高いせいもあって割と着痩せするタイプなんだよなぁ。


 以前なら、ここでジャックのやつの僻み混じりのツッコミが入るところだが、あいつはあいつで、今は姉弟子の帝都屋敷でよろしくやってんだろうし。

 まぁ、とりあえず1人に絞れなかったことに、未だに罪悪感とか背徳感みたいなものは感じるものの、この3人は俺が大事にしていかなきゃなとも思うし、逆に3人に大事にされている気もするのであった。



 で、結局どうなったのかと言うと。


 ベイリーはオズボーン・バックエショフ家の家督相続権を剥奪されたが、正式に領主を相続する前だったので、オズボーン・バックエショフ子爵家のお取り潰しは免れた。

 他の南方正義連帯軍に参加した領主は、爵位を剥奪された者は少なかったが、逆に転地を言い渡された領主は少なくなかった。

 また、帝都でシーガート神官長の尻馬に乗ろうとしていた法衣貴族連中は、面積だけは広い開拓領を与えられて帝都から遠ざけられた者が多く出た。


 新たに任命されたマッキンタイア軍務相のように、今まで密室政治の中枢とは距離を置いていた人間を中心に、内閣が組閣された。

 とは言え、その指名権、任命権は結局、皇帝陛下が握ることになり、まだまだ陛下の親政である事に変わりはない。

 民主主義への道のりは、まだ始まったばかりだ。

 しかも、その道程は、果てしない程遠い。


 サッチュス侯は当然、宰相の地位から初代内閣総理大臣にスライドするものと思っていたが、実務大臣職は辞退し、陛下のお側付きである内大臣になった。


「帝国が生まれ変わろうとしている今、この老いぼれがいつまでも政治の中枢にいるのは好ましくありますまい」


 との事。

 うーん、サッチュス候程陛下に忠誠を尽くして、逆に陛下からの信頼も厚い人間という点では、もったいない気もするんだがなー。

 実際、陛下もギリギリまでその事にこだわってたみたいだし。


 そして、教育院が新たに設置され、全国画一義務教育の準備が始まった。

 教育要員の確保と指導から始めなければならない以上、完全にそれが行き届くまでには、まだしばらくの時間が必要だと思うが……

 とにかく、道筋自体は整ったわけだ。


「まぁ、これで帝国もしばらくは安泰だな、安心して酒も飲めるというもの」

「姉弟子は帝国が安泰かどうかに関わらず呑んでる気がするんですが……」


 まーったくこのへべれけ合法ロ、いや親友の嫁さんを悪く言うのもやめとくか。


 アドラーシールム帝国では数えの15歳が成人。明文化されているわけではないが、この歳から酒やタバコも解禁になる。

 帝都での作業を終えて、ようやく自領に戻った頃、キャメリア達のアクアビットの、試作品の蒸留が終わり、俺達もその試飲をすることになったわけだが。

 まぁ、俺は前世で飲酒経験があるわけなんだけど。


 ちなみに、タバコは前世でも吸わなかったし、現世でも吸うつもりはない。

 酒は適量飲めば百薬の長とも言われるが、タバコは文字通り百害あって一利なし、だからな。


「ま、とりあえず一番の厄介事は片付いたってことなんスから、今日はその祝い酒も兼ねてってことで」


 キャメリアが、アクアビットの注がれたコップを俺達に回しながら言う。

 現時点では樽熟成を行っていない、ホワイトスピリッツの状態だが。


「そうだな、ひとまずは」


 俺は、苦笑交じりにしながら、言う。

 姉弟子は一足先に入っちゃってるけど、まぁいいか。


「カンパイ」


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