Chapter-09
キャロルが先頭、俺がその次でランタンを掲げて周囲を照らしながら、次にジャックが弓をいつでも射れるようにして、最後尾をエミが警戒しながら、洞窟の中を進んでいく。
と言っても、別に深い地下迷宮ってわけじゃない。通路のようになっている入口部分から徐々に中に向かって広くなっていき、すぐに急に広くなって、ちょっとしたホールのようになっている。
どうやら深度的にもそんなに地中深くないところらしく、小さなドームのようになった天井から、ところどころ明かりが差し込んできている。
湿度は外より高いのが、肌にも感じられる。
苔類、分けてもマンゲツツユコケが自生するのに、丁度いい環境だった。
入ってきた入口の方よりは、だいぶ広い、通路のような洞窟が、丁度ほぼ直角に、入ってきた方角から見て左手に向かって、伸びていた。
「別に……何も出てこないわね」
拍子抜けしたように、軽く腕をだらんとさせて、キャロルがそう言った。
「いや……」
そう小さく言ったのは、ホール状の部分に入ってきて、俺とジャックを追い抜く形で、前に出たエミだった。
「気配、する」
エミは、その片刃の剣をいつでも抜けるように構えたまま、そう言った。
エミが気配を感じられる程度だから、まぁちょっと奥まったところまでか……
「カンスシオスネス・サーチ」
ランタンを持っていた左手に代わり、魔法発動体の腕輪を嵌めた右手を掲げ、気配探知の魔法を飛ばす。
「ん……確かにいるな」
俺が言うと、エミが、コクリ、と頷いた。
「でも、暴れだす気配はなさそうだ。とりあえず、ほっといても大丈夫そうだが」
「なんだ……もう収まってたってことなのか?」
ジャックが、やはり拍子抜けしたように言う。
「でも、まぁ、いるっていうんなら、用心に越したことはないわね。私とエミ、それにジャックで周囲を警戒するから、とりあえずアルヴィンは苔を採取できるかどうか、やってみて」
キャロルは、適度に緊張感を取り戻しつつ、槍を構え直しながら、そう言った。
「解った」
俺は、そう言って、ランタンで近場の岩を照らしつつ、屈んでそこを確認する。
実際、ダールグーン代官が言っていたように、目立つような場所の岩と言うか、石からは、苔を削り取った跡があった。
それでも、まだいくらかは、密生しているので、それを、木製のスプーンですくい取って、陶器製の採取瓶に入れていく。
「………………」
ヒュゥゥゥゥゥ……
「あれ? おかしいな」
それに気がついて、俺は、一旦顔を上げた。
「どうしたの?」
キャロルが、真剣な表情で、訊いてくるが、俺は、気の抜けたような感じで、あたりの様子をうかがう。
「風が抜けてくるな……」
「え……? あ、確かに……」
洞窟の奥の方から、確かに風が抜けてくる。
「でも、それがどうかしたの?」
「いや、風通しがいいって、マンゲツツユコケにはあんまりいい環境じゃないんだよなぁ」
いくらか緊張を緩めて、問いかけてくるキャロルに、俺はしかし、さらにあんまり緊張せずに、ただ意外な感じがして、そう言った。
「それって、生えないってこと?」
「いや、胞子が飛んできてれば生えることは生える。でも、密生できないんだよな。残っている部分だけでも、かなり密生している環境じゃなきゃおかしいはずなんだが……」
俺が、そこまで言った時だった。
「来る!」
エミが、そう言って、剣の柄に手をかけた。
ズバッ
洞窟の奥の方から現れたそれを、エミが、剣で一刀両断した。
ドサッ、と落ちたのは、岩ウサギ、と呼ばれる小型の魔獣だった。
あまり凶暴性はないが、毛足の長い毛皮に石を纏っていて、怒らせたりすると、その身体で突進して体当りしてきたりする。痛いで済めばいいが、骨折ぐらいは軽くさせてくる。
とは言え、硬いことは硬いが、鋼の剣や槍を防げるほど、ガチガチに硬いってわけじゃない。
「でぇーぃっ!」
ランタンの明かりの中に、飛び込んでくる岩ウサギの群れを、キャロが槍で叩きつけるようにして倒し、あるいは、エミが次々に両断していく。
「くそっ、明かりの範囲が狭すぎて、狙いが付けられねぇぞ!」
「待ってろ!」
ジャックが、弓を構えながら、毒ついたので、俺は一旦採取を中断して、右手で魔法を発動させる。
「ライティングボール!」
単純なライトの魔法に対して、多少の時間持続する、発光弾みたいな感じの魔法だ。これで奥に続く洞窟を照らせば、ジャックが弓で2人を援護……する……ことも…………
「ウソ……」
キャロルが、呆然として、呟いた。
いや、それは、俺も含めた、全員の代弁だった。
岩ウサギ共は、俺達なんか構うものかと言うばかりに、洞窟の入り口に向かって、飛び去っていく。いや、逃げているんだ。
俺が投げた、光の中に現れた、それから────
テラテラと光る、鱗に包まれた身体。
見るからに凶悪な、鋭く巨大な爪の生えた前足。
背中に、肩甲骨のあたりから生えた、両の翼。
そいつは、魔獣の中でも、その大きさも、脅威度も、間違いなく上から数えた方が、圧倒的に早い存在。
気丈なキャロルが、4人の中で唯一、その名を、声にして、口から出した。
「ドラ……ゴン…………」
「いけね!」
俺は、慌てて声を上げる。
「皆! 岩陰に隠れるんだ、ブレスくるぞ!」
俺の声に、我に返ったように、俺とキャロル、ジャックとエミが、それぞれ、ドラゴンの正面から左右に分かれて、大きめの岩の岩陰に隠れる。屈んで、頭を低くする。
凶悪な高温のドラゴンブレスが、俺達のすぐ脇を通過していった。
「なんで、なんで、なにが、どうなってるのよ!」
身を低くしてブレスをやり過ごしながらも、キャロルが、混乱しかけた声を上げた。
「くっそ、岩ウサギ共は凶暴性を増して、村人の採取人を襲ってたんじゃねぇ! 最初から、ただ、あいつから逃げてただけなんだよ!」
軽く混乱しているかのようなキャロルに、俺は、そう言った。
────。
俺は、原作ルートから外れるつもりで、ユリアとルイズではなく、キャロルとエミとパーティーを組んだ。
それで、結局、原作ルートからは見事に外れたってわけだ。
原作じゃ、こんなところで、学校斡旋の依頼なんかで、ドラゴンなんかに出くわしたりしないんだからな!
ああ、原作ルート、さようなら!
ついでに、現世での俺の安泰な人生も、ここでサヨナラですかぁ!?




