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影を繰り  作者: まぐろしすてむ
一章 夢現の住人
5/12

「第四幕:異端考察」

三幕までを少々手直ししました。良かったらご覧ください。

そろそろ投稿時間をバラけさせてみようかな~とか考えています。

 意識が浮上する。

 感覚は未だ戻らないものの、自分の身体が残っているという実感にとりあえず安心する。


 さて、ここは一体どこなのか。遅れて戻り始めている感覚は、なにやら狭苦しい場所に敷き詰められたような窮屈な感覚ばかりを再現させる。全く、こういう時こそ普段は封じられている身体のリミッターが解かれてなんとやらってシチュエーションなのでは無かろうか。


 いきなり訪れた初めての魔術師との戦闘にびっくりしたとは言え、いくら何でも狂いすぎだ――。






 「――――っ!!!」


 起きた。

 今度こそ。いや今更、基本的に心と身体は繋がっているという事実を自覚できたようだ。


 身体は初めから何一つ狂ってなどいなかった。ありのままの事実だけを、ずっと伝えてきていた。

 倒され、意識を手放したことも。現に窮屈な場所に敷き詰められた状態であるということも。


 この町にあった噂が、魔術が絡んだとんでもない異常事態という事実として浮かび上がった事も。


 とにかく動かなくては。そう思い至った途端、空間が、全てが傾いた。

 とうに感覚は残っている。ならば、これは――――。






 「痛っっっっってぇぇ!!!」


 とんでもない衝撃が回復したての全身を襲う。

 それを合図と言わんばかりに、収まっていたモノから上半身が飛び出した。


 「っぐ………ここは…公園か?」


 意識を失う前に戻ろうと踵を返した公園。

 そこの縦長のゴミ箱から、百年ぶりに目覚めたリビングデッドのようにぎこちなく這い出る。

 内側は小汚いが、自分の他に何も入っていなかったのはせめてもの救いか。


 薫の姿は無かった。恐らく自力で目覚めて帰ったのか、かすかに足跡が見える。

 彼女には昨夜だけでかなりのトンデモ体験をさせてしまったので、全て夢オチとして処理してくれるか心配だが…。

 

 「えーと…六時まえ…か。今から帰って風呂に入ったらギリギリ…。」


 いや、やめだ。

 全身を痛めているようだし、何よりこのまま再び夜の街に繰り出すには、とてもじゃないが情報が少なすぎる。


 学校は休んで、午後の特に出歩いても怪しまれない時間帯から、調査を始めるとしよう。








 商店街へ来た。今日はバイトのシフトではないからじっくり聞いて回ろう。

 ここで学校の知り合いに会うと少々やっかいだが、そこは何とか言いくるめるしかなさそうだ。

 大丈夫だ、少々早めに来たつもりだから余り学校の連中も多くはないはず――。



 「あり?智晴じゃねーか。何だよホントにサボってたのかよ~?」



 最初からクライマックス。

 こういった隠し事に敏感、かつダントツに遭遇率の高い天敵が駆け寄ってくる。これは終わったかも知れない。


 「お、えと、いっ、一茶か。ドウシタンダーコンナとこロでー。」

 「どうしたも何もバイトだっつの。今回は古本屋のじじいの荷物整理。」


 一茶は人なつっこく商店街で顔が広いため、バイトとして本来働いているたこ焼き屋以外にも様々な所へ駆り出され、荷物運びなどをしている。

 俺も週末は同じたこ焼き屋でバイトをしているが、一茶はシフトに組まれているんだかいないんだかと言ったレベルのガバガバな立ち位置だ。先月からはシフト票に「殿堂入り」とか書かれていたが、ちょっと意味が分からない。 


 「あー、古本屋の。」

 「そんでお前はよ?俺はてっきり薫とお忍びデートでもしてるものかと…。」

 「何でだよ…あっ!」

 「あん?」

 「薫は今日学校来てないのか?」

 「ああ。だから、そういう事かと。なんで?」


 少々心配だ。が、今はそれよりやるべき事をやらなくては。

 

 「いや、こないだ見かけたとき体調悪そうだったからさ。そんだけだよ。」

 「おお、そか。それで…あ、おい!どこ行くんだよ!」

 「あいにく今は忙しいんでね!お前も仕事中だろ?」

 

 謙虚さを3%ほど含んだ駆け足で退散する。すまん一茶。よし、これで15%くらいだろう。

 路地裏で今一度計画と呼吸を整えて、そっと聞き込みを開始する。






 日が暮れるまで3時間ほど聞き込みを続けたが、実に様々な情報を集める事が出来た。

直接目撃したという人にも数人話を聞けた事で、どのような魔術行為によって子供が連れ去られているのか、俺の半端な知識でも大体掴めてきた。



「園長先生」と名乗るあのやさぐれた(様に見えた)魔術師が使う魔術は主に三つ。子供を連れ去るのに使う催眠効果を混ぜた結界術。蛇を操ってみせた使い魔の魔術。そしておそらく一番の得意分野であろう、モノによっては本物以上の性能を発揮できるほどの生物を創り出す、あれは錬金術の類だ。

初めに出会った双子も、恐らくはそうして造られた者達だろう。

あれからは、ひと目みたときからおよそ人の気配を感じなかった。



彼は使い魔によってなるべく隠密に、時には素早く強硬的な手段を用い子供達を攫い、最も目撃情報の多かった上空の結界へと誘導した後にどこかの別空間へ子供を運び続けている。という仮説が今の所は最有力だ。

しかし、魔術の素養も何も無いただの子供達を無差別に攫う理由が分からない。何かの人体実験にでも使われているというのだろうか。




あれこれ考えているうちに、本日最後の目的地へ到着する。

ハラツカ商店。俺、いや俺達の思い出の場所だ。



「ん、何だィ来てたのか?ホラ、入りな。」

「あ、おう…。」


こちらからはまだ何も言っていないにも関わらず、ここの主――原塚春代は俺の姿を見るなり奥へ入ってお茶の準備を始める。


「何か話があってきたんだろう?一茶や幸樹に連れられでもしない限り、あんたは意味無くココへは来ないからね。」


相変わらず何もかもお見通しである。今まで晴代さんには、一度たりともウソが通った試しがない。

故に彼女は、四条の家の事についてもよく知っている。影のことも。


ここまでに見て、聞いた、ありのままを話す。

彼女に話をするならば、そうして隅から隅まで話しておかないと気が済まない。彼女を慕う、この商店街全ての人が思っている事でもある。


最後まで静かに話を聞いたあと、晴代さんはそっと口を開いた。



「穢れを嫌う魔術師は、ここへは近付かない。」

「…ああ。その筈だ。」

「アンタん家のジジイの言葉だったね。アンタら影の術者と、都会の魔術師は相容れないっていう。」

「…でも、今回関わってきてる魔術師はきっと…。」

「そうだね。やってる事といい、本堂家のガキの仕業じゃあないね。」


本堂、と名乗る魔術師の家を大層忌み嫌っていたウチの爺さんは、今でも事ある毎にそこの愚痴をタレては、かの格言をしつこく言い聞かせてきた。

正直俺も、この先魔術師と一悶着あったとしても、その本堂とかいう家との縄張りをかけた口喧嘩に巻き込まれる位なのではと密かに思っていた。

それが――。


「だがお前は、まだ首を突っ込む気なんだろう?」

「それは…うん。このままにはしておけないからな。」

「だったら、しっかり仲間を頼りなよ?」


仲間。

俺達は幼少期に、ハラツカ防衛軍と称したチームを組んでいた。

メンバーは俺、一茶、幸樹に薫。暇さえあれば原塚商店にたむろしていただけの、小学生にはありがちなヤツである。平和なチームだ。

誰一人、魔術なんかに関わってなどいない。関わらせてもいけない。


「ダメだ。アイツらは」

「何も全部洗いざらいあの子たちに話せなんて言ィやしないよ。ただ、あの子達は今も昔もお前の力になってくれる。そこは何がなんでも変わらないサ。」

「晴代さん…。」

「家の約束もあるだろう。秘密は守るものだ。でもね、仲間がいざと言う時に傍に居てやれなかった事を、後で一生悔やみ続ける人間もいる。」


ぼんやりと古い映画でも観るように、晴代さんは暖かく眼を細める。


「あんたは昔ッから本当に守ってばっかりだ。懲りない男だよ。」

「あいにくコレしか取り柄が無くってさ。晴代さんもだろ?」

「フン。あんたと一緒にするなよ。こっちゃ息の抜き方を知ってんだ。」

「え?」

「いや忘れな。とにかく、それとは一人で戦うんじゃあないよ。」


再び釘を刺される。密かに感じていた危機感も全てお見通しなのか。

しかし別れ際には、俺の意思を少し汲んだような言葉で見送られた。


「皆で頑張りな。最後に少し無理をするのがアンタの仕事さね。」



商店街の人々と智晴達について、いつかもう少し掘り下げていきたいなぁ。

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