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科学と魔法

非常に遅い更新で申し訳ございません。

 朝食後、片付けをする母に付き添い私も手伝う事にし、食器を拭く為の布を受け取った。

 母が瓶のような容器から出る液を四角い塊にかけて握るとみるみる泡立った。恐らく液は石鹼の(たぐい)だと思うが、塊の方は不思議な事に柔らかいのに形が崩れない。どんな素材なのだろう?


「それは?」


「これは"スポンジ"って言って食器を洗うモノよ。あとでムメイにも使わせてあげるわ。」


 そう答えて母はスポンジで食器を磨いていく。色の濃い汚れも初めからなかったかのように消えていく。そして、泡を洗い流したのを受け取って拭くと新品同様の輝きが戻ったではないか。

 元の世界ではどんなに洗っても落としきれない汚れが残る。しかし、ここまで汚れを残さず落とせるなら半永久的に綺麗なまま使い続ける事も出来るのではないか。


 そんな事を考えながら半分ほど片付けたところで、


「はい、今度はムメイが洗ってみて。」


 母からスポンジを受け取る。場所を代わり、実際に使ってみると本当に面白いように綺麗になる。油のべたつきまで綺麗に落ちるのは石鹸に加えてこのスポンジの力なのだろう。洗浄の魔道具みたいだ。


 片付けを終えて2階に行くと、兄が昨日気になっていた黒くて巨大な板…だった筈だが今はどういう訳か動く人の絵を見ていた、しかも音や声まで出ている。


「ねぇ、これどうなってるの?」


「あぁ…これはテレビっていうんだけど、説明が難しいな。まぁ電気の力で絵と音を操ってると思えばいいよ。」


 昨日も聞いた”電気”。弱い雷の魔力らしいが、それでどうやって魔道具を動かしているのか原理が全く想像がつかない。そこに、

 

「この際はっきり言っておくと、この世界に魔法は存在してないんだよ。」


 兄が尽きない疑問に追い打ちをかけるように耳を疑う事を言って来た。魔法は存在しない?そんな筈はない、今もこうして魔道具が動いているのに。これが魔法じゃなくなんだというのか。


「魔法がない代わりにこの世界で発達して来たのが()()っていう力なんだ。」


 科学…聞いた事がない力だが、魔法とは何か違うのだろうか。考えていると、兄は手の平ほどの大きさの板を見ながら、


「えーと…科学は学問の一種で、この世界の人間が長い歴史の間で研究して受け継がれて来た知識や経験の事を言うみたいだ。」


「つまり、魔法みたいに今まで受け継がれて来た力って事?」


「まぁ魔法とは似て非なるモノだけどね、歴史上で培われた力って意味では同じかもしれないけど根本は違うし。」


「難しいわね…」


「そうだなぁ…ムメイの元いた世界の魔法で属性ってあった?」


「えぇ、魔法だけじゃなく物理の攻撃スキルでも火とか水とかあって魔物の弱点になる属性で攻撃するように。」


「そう、それ!その弱点属性を突く攻撃っていうのも一種の科学を利用してるんだ。例えばトレントみたいな植物の魔物は火の属性が弱点じゃなかった?」


「うん、それがどうかしたの?」


「植物ってのは火でよく燃えるって事だよ。あとは武器を作るのに鉄を打ったりするのなんかも科学なんだ。ムメイの世界でも科学と知らないだけで、科学は使われてたんだよ。ただ、この世界ほど発達しなかったんであって。」


「なるほど。それじゃ、さっき魔法がない代わりにって言ってたけど私のいた世界でも魔法がなかったら科学が発達してたのかしら?」


「その可能性は高いかもね。あと一応訊くけど、魔法には魔力が必要だよね?」


 本当にわざわざ訊くのかと思う質問だ。


「もちろん、それがなきゃ魔法は使えないし、エルフも魔物も生きれない…あっ…もしかして。」


 答えていて気付いた。それを確かめる為に指を立ててある事をしてみた。


「ねぇ。今、魔法使おうとしてる?」


「うん、でもやっぱり無理だわ。」


 魔法が存在しないのはその為に必要な魔力がこの世界に存在しないから。魔物がいないのもそれによるモノだ。力がなければ使う事は出来ないという事だ、こんな単純な事に気付かないとは。

 言い訳になるかもしれないが、この世界に来て驚いた事が多過ぎて思考が鈍っていた。いや、そもそも人間に生まれ変わって魔力を失っていたときに真っ先に気付くべきところだったか。


「地球にも魔力があればムメイの世界みたいに魔法が使えて魔物もいたかもしれないけどね。無から有は生み出せないというかな。あと、俺が読んだ御伽噺(おとぎばなし)で魔法は世界の道理から外れた力としてる話があったんだよね。でも科学はあくまで世界の道理の中に限られてる力だし。そこが科学と魔法の一番大きな違いかな。」


「どういう事?」


「なんて言えばわかるかな…

ちょっと勝手なイメージだけど、魔法は魔力さえ操れればいろんな形に具現化出来るよな?」


「えぇ、魔力を変化させて魔法として放出するわ。」


「その魔力は本来ならあり得ない事象を起こす力って事だよ。例えば火を起こす為には普通は火打石や薪を使ったりするよな?

これは科学に該当するんだ。逆にそういう火を起こす為に必要なモノがない中で火を起こすのは魔法でもなければ無理なんだよ。」


「うーん…魔力を使うか使わないかって事?」


「だね、そう考えれば一番わかり易いかな。魔力を使った力が魔法、使わない力が科学って感じで。」


 魔力を使わない力…という事は魔法が使えない人にも使えるかもしれない。いや、それとも魔力とは違う別の力がないと使えないのだろうか。


「科学は魔法と違って誰にでも使う事が出来るんだ。ムメイがこの世界に来てから色々やってたようにね。仮にムメイの世界の人が他にこの世界にいたとしてもね。自然の摂理に沿った誰もが平等に使える力とでも言えばいいかな。」


 私の疑問を一蹴するかのように説明して来た。それが本当なら元の世界より圧倒的に便利なのは間違いない。この世界に来てまだ一日足らずだが、十分過ぎるほど実感出来る。


「まぁ俺もこの世界の全てを知ってる訳じゃないから説明するにも限界があるけど、少なくともムメイの世界よりは楽に生きれる世界だと思うよ。たぶん…いや間違いなくこれからも驚きの連続になるだろうしね。」


「お兄ちゃんでもこの世界についてわからない事があるんじゃ、私なんてついていけるかしら…でもそれだけ文明が発達して知識が溢れてるって事よね。」


「それはそうだろうな。科学もだけど、歴史なんかも知れば面白いかもな。」


「確かに言われてみれば、歴史も凄く興味深いわね。学べる機会があればいいんだけど。」


「ムメイはちゃんと日本語も読めるし、その点に関しては問題ないと思うよ。あ…でも書くのはどうかな…そこから練習すべきかも。」


 そう言えば、この世界の文字に関して読む事は出来たが書いた事はなかった。マンガを読んでいたときも数えきれないほど様々な文字があったが、どれも書けるかというと自信がない。


「すっかり忘れてたわ。そりゃ字が書けないと学ぶどころじゃないものね、読めるだけじゃダメよね。」


「心配する事はないさ。字の練習をする為の本だってあるし、ムメイならすぐ習得出来るよ。」


 兄は私にとても期待してくれているが、それに応えられるかどうか…いや弱気になってはこの世界で生き抜けない。不安と覚悟が交錯する思いを抱きながらも次にすべき事が決まった事に楽しみを感じた。

更新は遅いですが、放置するつもりはないので何卒ご了承下さい。

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