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団欒

忙しい身の為、執筆ペースがかなり遅くなっています。

ご了承ください。

村が壊れていく…家も…家族も…何もかも…


『そんな…こんな事…』


 そして、私にも魔の手が迫って来る…


『嫌、来ないで…いや…イヤ……』


「はぁ…はぁ…」


「おい、おい、ムメイ?」


「はっ!?」


「大丈夫か?かなり(うな)されてたぞ。」


「お…お兄ちゃん…」

 

 夢…だったようだ、目の前にはぼんやりとだが兄の心配する顔が。周りは寝る直前同様に暗く、恐らく寝付いてからさほど時間は経っていないように思う。私は悪夢に震えながら必死に兄にしがみついた。


「怖い夢見たのか?やっぱりムメイの言う通り一緒に寝て正解だったかな、大丈夫だから安心しな。」


 そう言って兄は私の髪を撫ででくれた。


「ありがとう…」


 兄の温もりに安心し、私はすぐにまた眠りについた。

                 ・

                 ・

                 ・

「ん、んん…」


 目を覚ますと私を抱えたまま先に目覚めていた兄が日差しと共に視界に入った。


「起きたか?」


「おはよう、お兄ちゃん。」


「あぁ、おはよう。あれからよく寝れたか?」


「うん、夢も見ないで今まで完全に意識なかったわ。」


「そうか、よっぽど深く寝れたみたいだな。良かった。」


 あのあと悪夢を見たのが嘘だったようによく寝れた。兄がついていてくれた事ももちろんだが、ベッドも寝心地が良かった。今目覚めて改めて感じる柔らかくて体によく馴染む枕と板に肌触りが良くて暖かい布の感触、このままずっとこうしてベッドにいたいと思ってしまう。


「ちょうど今日は仕事も休みだし、もう少しゆっくりしててもいいかな。この時間なら父さんも母さんもまだ寝てるかもしれないし。」


 兄がベッド際の数字が書いた置物に目を移して言った。明るくなって眼鏡をしていない素顔を見ると、本当に実兄の若い頃の顔そのものだ。

 私は童心に帰った気分になり、


「こうしてると子供の頃に実のお兄ちゃんと一緒に寝てたのを思い出すわ。」


「そういや俺ってムメイの実の兄貴が若い頃そっくりなんだよな?大人になったその兄貴の顔がどんなだったのか凄く気になるな。」


 実兄の話題を出した事で兄から当然とも言える疑問が出て来た。


「うーん…どう言えばいいかな…今でもお父さんに似てるとは思うけどより近い感じになるというか。」


「まぁやっぱりそうなるんだな、なんとなく予想は出来るが。」


「ごめんね、上手く言えなくて。」


「いや俺の方こそ悪かったよ、答え(にく)い事訊いちゃって。」


「「あはは」」


 ベッドでそんな他愛もない事を話して笑い合っているうちに時間は過ぎ、


「そろそろ起きるか。たぶん飯も出来てるだろう。」


「うん。」


 兄の言葉に従い、一緒にベッドから起きて下の部屋へと向かうと、


「あら、おはよう。」


「起きたか。」


 テーブルに料理を並べる母と灰色の大きな紙を読む父が同時に挨拶して来た。私と兄もテーブルの前に座り、朝食の準備が整うのを待っていると、


「ムメイは()よりスプーンとフォークの方がいい?」


 母が訊いて来た。

『”ハシ”とは何だろうか?』

フォークならわかるし、スプーンは昨日の夕飯で使った。箸というのが何なのかわからないので、取り敢えず後者を選ぶ。


「えぇ、それでお願い。」


 スプーンとフォークを受け取り、母も座った。すると兄が私に聞こえないくらいの小声で親に何かを話した。そしてみんな手を合わせ、


「「いただきます。」」


と声を合わせて言った。見た事も聞いた事もない動作に私は尋ねた。


「今のは?」


「この国で食前にする挨拶だよ。律儀にやってる人はあまりいないかもしれないけどムメイがいるからちょっとやって見せたんだ。確か”食事が出来る事に感謝する”って意味が含まれてるんだったか。ちなみに食後にもまた別の挨拶があるんだけど、それは食ってからまたやって見せるよ。」


 兄が答えた。挨拶と言うが、生きる(かて)を授かる感謝の意味があるのであればこの国でのお祈りのようなものなのだろう。


「それじゃ私も。」


3人がやっていたのと同様に手を合わせて、


「いただきます。」


 微笑(ほほえ)む家族達と共に食を進める。昨日のカレー同様、米に加えて味わった事のない…しかしどれも美味な料理だ。特にこのスープ、飽きの来なさそうな身に染みる味わいだ。たまらず母に言った。


「これ、凄く美味しいわ。」


「そう?味噌汁の味がわかるのね、良かったわ。」


 味噌汁…それを聞いて昨日の兄の言葉を思い出した。


「昨日お兄ちゃんから少し聞いたけどこれが味噌汁なのね。大豆はわかるんだけど味噌っていうのは知らなくて。」


 そこに今度は父が口を開いた。


「ほう、大豆は知ってるのか。味噌もそうだが大豆から出来てるものは色々あってな。()()()()()()()()()()()()どれも日本を代表するモノばかりだ。」


「そうなんだ、今言ったのは()()()()()()()けど味噌がこんなに美味しいならそれも絶対美味しいわよね。」


 すると父はフッと鼻で笑い、


「今まさに食ってるんだがな。」


「え?」


「味噌汁に入った白い塊が豆腐、その糸を引く豆が納豆、そしてこの黒いソースが醤油だ。」


「これが…」


 味噌汁の味がよく染み込んだ豆腐、兄がこうするんだと言って醤油をかけて混ぜた納豆。元が大豆だと言われても信じられない。


「大豆って凄いのね、こんなに色々美味しいモノが出来るなんて。」


「確かに当たり前のように食ってたが、改めて言われてみると凄い事だよな。」


 賑やかに会話をしながら、親と兄は二本の棒を片手だけで持って器用に料理を掴んで食事をしている。


「ところで、それは何?」


「あぁ、これは箸だよ。」


 兄が答えた。さっき母が言っていた箸とはそれの事だったのか。


「私も使ってみていい?」


「えぇ、初めてだと難しいと思うけど。」


 母から箸を受け取り、見様見真似で掴もうとするがやはり上手くいかない。


「難しい…」


 難儀する私の様子を見る親が、


「そうね。ここに住む以上、箸には慣れておいた方がいいと思うし、これから練習していきましょう。」


「えぇ、ここの文化とかも色々知っていかなきゃいけないものね。」


 初めて触れた文化を前に、この世界で生きる為の意思を改めて固めた。

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