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情報整理

「ここが俺の家だよ。」


タカシの家は目と鼻の先で30歩も歩いたかどうかというほどだった。すぐ近くとは言っていたがまさかここまで近いとは良い意味で予想外だった。元々人通りも少ない場所だったようで、幸いにも他の人の目にはつかずに到着出来た。


「凄い…」


 家の外観は二階建てと貴族ほどではないが、平民に比べると大きな家で窓は木組みがない吹き抜けに見えたがよく見ると透明な壁が張られていた。入口も前後ではなく左右に開く変わったドアだった。入ってすぐの床には靴が並んでいて、タカシもまた靴を脱いで入って行く。


「靴を脱ぐんですか?」


 このときは裸足だったので大した問題ではなかったが、寝るとき以外に靴を脱ぐ事はまずなかった私にとってはとても目新しい光景だった。


「あぁ、この国では家には靴を脱いで入る習慣なんだ。まぁここの習慣とかはそのうち色々覚えていけばいいよ。それじゃ部屋に案内するね。」


 そう言われ、私はタカシについて行く。その途中には見た事もない道具で溢れかえっていた。色々と気になるものは多かったが今は状況を把握する事を優先として、その辺はあとで聞いてみる事にしよう。階段を上がり、案内された部屋に入った。


「これは…」


 部屋には多くの本や精巧な作りの人形、色彩豊かな絵など様々なものがあった。


「サイズ合わないと思うけど、()()えずこのジャージ着て。」


 数々の芸術品に見惚(みと)れているうちにタカシは別の服に着替えていたようで、私にもクローゼットからジャージなる服を出して来た。受け取って見ると、材質はわからないが肌触りが良くて伸縮性がある服だった。ボタンとは違う金具がついた少し厚手な服とベルトもないのに腰にぴったりフィットするズボンとサイズは大きくて合っていないがとても着心地の良いものだ、きっと高級品だろう。


「あ、これはチャックって言ってこうするんだ。」


と言って、タカシは服の金具を繋ぎ合わせるように前を締めてくれた。


「狭いし床で悪いけど、ここに座って。」


そう言われて座り込むと、その向かいにタカシも座る。


「それじゃ、情報整理といこうか。改めて俺は神宮(かみや) 貴志(たかし)。えーと、君はムメイって名前なんだよね、(おぼ)えてる限りの事を話してくれるかい?あ、あとさっきから気になってたけど敬語でなくていいよ、普通に話してくれれば。」


「わかりま…いやわかったわ、これでいいかな?うーんと、どこから話せばいいかな…私は村に魔物が襲って来て戦ってたの。でも歯が立たずに気を失って目覚めたときには村は跡形もなくなって生き残ったのは私だけだったわ。それから生き延びる為に街まで向かおうとしたんだけどそこも飛龍に壊滅させられてたの。私はその飛龍の攻撃を受けて死んだと思ったんだけど、目覚めたらさっきあなたと会った場所にいて。」


 我ながら話していて現実味のない話だが、それに対してタカシは、


「なるほど。それが本当ならここはムメイがいた世界とは違うし、やっぱり異世界転生したって事で間違いなさそうだね。まさか本当にこんな事があるとは。」


 完全には信じていないが、話自体は理解した様子だった。


「異世界転生…それじゃやっぱり私は生まれ変わったのね。」


 私はここでやっと確信が生まれた。タカシは少し驚いたように、


随分(ずいぶん)()み込みが速いね。転生はこっちの世界でも御伽噺(おとぎばなし)としてはよくある話なんだけど現実ではあり得ない事の(はず)だったのに。」


 空想上とはいえ転生という概念は考えられているようだ。そこで私が過去に耳にした話もしてみる。


「実は伝承で聞いた事があるの、”世界はひとつじゃない”って。世界は無数に存在していて平和な世界もあれば、私がいた世界以上に争いが激しい世界もあるって。それで命を落としたときに別の世界のどこかに生まれ変わる事がごく(まれ)にあるそうなの。」


「そうか、ムメイのいた世界では転生は起こりうるものだと言われて来てたんだね。」


「えぇ、あくまで伝承だから確信があった訳じゃないけど、こうなった今ならそれが持てるわ。」


 大方理解したところで私から一番気になっていた事を聞いてみる。


「それで、ここは一体どこなのかしら?」


「地球という世界でここは日本って国だよ。この世界には魔物もいなければ獣人や()()()とかの亜人もいないんだ。」


 気になる言葉が出て来た。


「え?今エルフはいないって…」


「うん、いるのは人間と魔物じゃない動物や虫と植物だけだよ。」


 どうやら聞き間違いではないようだ。


「エルフはいないって…それじゃ()()()()()はこの世界にいて大丈夫なのかしら?化物(ばけもの)扱いされたりしないかしら?」


 この上ない不安に冷や汗が垂れる。しかし、タカシは心底不思議そうに


「ん?ムメイってエルフだったの?確かに凄く美人でスタイルもいいけど、耳も()()()()のかな?」


 嬉しい事を言ってくれたが同時に引っ掛かる事も言って来た。『長()()()』?

耳に触れようとしてみると、あった(はず)の場所に触れる感触がなく、少し頭に近い位置に手を寄せると長く尖ってはいない曲線に触れる感触だった。

 この時点でほぼわかったが、確証を得る為に、


「ねぇ、何か鏡になるものはあるかしら?水を張った桶とか板状の金属とか。あったら貸して欲しいんだけど。」


「あぁ、鏡ね。それなら…はい、これ。」


 タカシが鞄から取り出して来た四角い板を見ると、(ゆが)みなく綺麗な平面の金属らしきものに異常なほど鮮明に自分の顔が映し出された。


「これが…私?」


 元の金に近い茶髪と家族同様に黒に近い茶色の瞳、顔立ち自体に大した変化はないが一ヶ所だけ大きく違っていた。

 なぜ今まで気付かなかったのか不思議だった。さっき触れて感じた通り、耳が丸くなっていたのである。まるで人間のように…人間…


「まさか…」


『私、人間になってる?』


 耳もそうだが、思い返してみれば魔力が完全に失われているのに動けるのも不思議だった。エルフは常に魔力を源にしている為、その魔力が完全に失われたとあっては即刻意識を失い寝た切りになってしまう。


 しかし、人間の場合は魔力がなくても体力さえあれば()()()()()()()()動く事は出来る。


 考えているところにタカシが口を開いた。


「どうやらムメイはエルフから人間に転生したようだね。実は俺が見た転生の御伽噺でも前世とは違う姿になってるのはよくある話なんだ。もちろん前世の姿のまま転生する話もあるけど、別の人間になる話もあれば魔物になるなんて話もあるし。」


 転生自体には私より驚いていたが、姿が変わっている事には関しては当事者でないせいもあるかもしれないが私より冷静だった。


「あと凄く今更なんだけど、ムメイって日本語がわかるんだね。」


 全然気にしていなかったが、言われてみると一番不可解な事であったところを突いて来た。ニホン語?恐らくこの世界の言語の事を言っているのだと思うが聞いた事がない言語だ。なのに確かになぜか話せている。


「読む事も出来るのかな?ねぇ、この字読める?」


と、タカシが純白な紙に『ムメイ』と書いた字を見せて来た。見た事もない字である、その筈なのに、


「これは…『むめい』でいいのかしら?私の名前よね?」


「正解、やっぱり読めるんだね。」


 なぜか読めた。ふとタカシの部屋にあった本の背表紙の字を見てみると、どれも私のいた世界にはない字なのに全て読める。助かるがあまりにも不思議だ。


「それともうひとつ。つかぬ事を訊くけどムメイは元の世界で死ぬ直前まで戦ってたって言ったよね?それならやっぱり武器や防具を装備してたよね?」


 至極当然な事を訊いて来た。


「え?えぇもちろん。それがどうかしたの?」


「そうだよね、やっぱり。うーん、もしかすると…」


 何か考えついたようで、


「この世界で最低限の順応が出来る状態に転生したって事かもしれない。あくまで憶測なんだけど、そう考えれば全てに辻褄(つじつま)が合う。ムメイが人間になってるのも日本語がわかるのも下着姿になってたのも。」


 タカシが立てた推測に沿って考えれば、人間になってるのはエルフがいない世界だから、日本語がわかるのはこの世界で円滑に情報を得る為、確かに説明はつく。


 しかし、下着姿になっていたのに関しては説明がつけられない。タカシは理解しているようだが。そこについて尋ねると、


「実はね、この国はとても平和なところなんだ。その平和を守る為に武器や防具は持ってるだけで犯罪として処罰されるんだよ。だからそうならない為になくなってたんじゃないかと思って。」


 驚いた、そこまで厳しい規制があるとは。でも確かにそうなれば争いや殺しなどは減るだろうし、その上で魔物もいないのなら平和なのも(うなず)ける。


「良かった、私は平和な世界に転生出来たのね。それに人間になれたのも嬉しいわ。」


「人間がそんなにいいの?」


 タカシが疑問に思っている様子なので、元いた世界での人間について話してみる。


「私のいた世界では人間っていうのは他種族からすればみんな憧れるものだったのよ。エルフは魔力や知力面に優れてても更に高い能力を持った賢者や特別な力を持つ聖職者は人間だけがなりうるものだし、ドワーフは手先が器用で武器や防具の作成に優れてるけど魔力を込めたような高度なものではドワーフより魔力の扱いに()けた人間には及ばなかったりね。それに多くの国家を持っていてどの種族よりも高い組織力を持ってるし、何と言っても魔王や龍とかの最強とされる存在を倒しうる勇者は必ず人間なの。だからこそ人間は最強で至高の種族と(うた)われてるの。」


「あー…確かに俺が見た話でも賢者や勇者はみんな人間だったし、言われてみれば納得。でもエルフは不老で()寿()なのは羨ましいけどなぁ。」


 少し誤解しているようなので弁明しておく。


「あー、えーとね…エルフは確かに成人してからは見た目こそ変わらない不老ではあるんだけど、寿命は人間と同じくらいなのよ。不老なせいで長寿と思われてるけど。ちなみに他の種族の寿命もみんな同じくらいよ。」


「え?そうなんだ。やっぱり同じ種族でも世界によって違うもんだね。俺の見た話でも種族は同じでも話によって特徴は微妙に違ってるし。エルフの場合だと、野菜しか食べないとか人間を蔑んでるとか。」


 タカシの見た御伽噺というのは恐らくこの部屋にある本に書いてある事なのだろう。


「私も他の世界のエルフは永遠に近い寿命を持ってて1000年以上生きてるなんて話を聞いた事があるわ。でもあなたは私以上に色々な話を知ってそうね。この部屋の本に書いてある事なんでしょう?」


 タカシは微笑んで、


「あぁ、ムメイなら日本語もわかるし、見れば楽しめると思うよ。」


「うん、今すぐにでも見たいのは山々なんだけど…」


「ん?どうかした?」


 ここで少し前から言いたかった事を正直に話す。


「トイレ…あるかしら?」


人間を美化し過ぎた描写かもしれませんが、ご了承くださいm(__)m

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