出会い
その男性は黒い光沢のある靴に黒い上下の服、美しい柄の帯のようなものを首から下げていた。そして手には珍しい形をした鞄を持っている。顔を見るとエルフとしては珍しい黒に近い茶色の髪と眼鏡越しに髪と似た色の瞳が輝く。眼鏡という違いはあれど間違えようのない見覚えのあるその若い顔立ちに
「お兄ちゃん!?」
「えっ!?お…お兄ちゃん!!?」
「あ…す、すみません。人違いですよね、あまりにも似てたもので。」
顔立ちは成人する以前の若い頃の兄そのものと言って良いほど似ていた。さらに顔のみならず声までもがそっくりでまるで生き写しのような人間であった。立ち上がってよく見ると耳は丸く、背も兄より幾分高い。
「そ、そうなんだ。えーと…取り敢えずその格好じゃマズイからこれ着て。」
と、私に着ていた黒いマントのような服を肩にかけて来た。それをよく見ると非常に編み目の細かい生地で精密な仕立てがされており、恐らくどこの貴族が着ているものよりも上質なものであろう気がした。また、彼が脱いだ事で露わになった白い服も神官が着ているローブ以上の純白さだった。
「俺は神宮 貴志、君は?」
聞き慣れないタイプの名前だが、苗字持ちという事はどこかの貴族なのだろうか。
「私はムメイといいます。」
「無名?名前がないのかな?まぁいいや、それでこんなところでどうしたの?」
「それが私にも何が何だか…目が覚めたらここにいて。飛龍のブレスを受けて死んだと思ったんですが。」
「飛龍?まるでファンタジーみたいな…死んだってまさか転生、そんな事が…」
「え?何かわかるんですか!?」
少し希望が見えて来た。同時にこの人に縋るしかどうにか出来る術はないと悟った。
「あ、いやわかるってほどの事じゃないんだけど…差し出がましいかもしれないけど取り敢えず色々と情報を整理した方が良さそうだね。えーとその…いつまでもそんな格好で外にいるのもマズイし、うちに来るといいよ。すぐ近くだし。」
「はい、ありがとうございます。差し出がましいなんて事は全然ありませんよ。一人じゃどうにも出来なかったと思いますし、理解してくれる人がいるのはとても心強いです。本当に助かります。」
「そう言って貰えて嬉しいよ、それじゃ行こう。」
そう言ってタカシは私に手を差し伸べて来た。私はその手を握り、共に歩き出した。そのとき目覚めてから初めて笑った。