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知識・教育

「これなんかは簡単じゃないかな?こうやって…な?」


「えーと…こう…かな?」


 私は今、兄から平仮名を教えて貰っている。数ある日本語の文字で最も簡単な文字らしいが、それでもなかなか難儀している。聞いた話だとこれをこの国では6歳から学ぶというのだから驚きだ。元の世界では成人しても字の読み書きが出来ない人だっていたというのに。


 それに今使っている、鉛筆というペンやノートという文字が書かれていない本、そして消しゴムという塊。どれも元の世界にあった筆記の道具とは全く違う。鉛で文字が書ける、紙が木で出来ている、書いた文字を消せる。兄から簡単に説明されたが、何一つ理解出来なかった。

 だが、ここであまり深く考えるのは野暮だろう。元いた世界の道具より圧倒的に扱い易くて汚れにくい。取り敢えず今はそう感心出来ればそれでいい。


「悪いな、ちゃんとした練習帳があればいいんだが、流石にすぐは用意出来なくて。」


「レンシュウチョウ?っていうのはよくわからないけど、これだけでも十分過ぎるわよ。元の世界にこの道具があれば勉学にも革命が起きるわ。」


 元の世界で筆記というと羽の先にインクをつけながら羊皮紙に書くのが一般的だった。もちろん、書いたあとは消す事など出来ないし、紙だって一枚一枚が分厚くて本にするとかなり嵩張(かさば)る。


「ははは、大袈裟な。いや、そうでもないのか。この世界とムメイの世界では文明が違い過ぎるからな。()()()()の技術を目の当たりにしてるんだもんな。」


「えっ?数百年って…」


「あ…いやこれは憶測だけど、たぶんこの世界とムメイの世界は時間軸も違うと思うんだ。ここにあるマンガなんかの話でも大体が異世界は中世の時代…この世界の今より4()5()0()0()()()()()前の文明なモノが多いんだ。それでなんとなくムメイの世界もそんなところだったんじゃないかと思って。」


 またしても突拍子もない話が出て来た、しかも憶測という。だが妙に説得力を感じる。技術自体の違いもあるが、それに加えてそんなに未来の時代である事も含めれば異様な発達度合いの光景もより得心がいく。


「ますます複雑になって来たわね。それじゃ魔法がないとはいえ、この世界の数百年前の文明の発達度は私のいた世界に近かったって事なのかしら?」


「うーん…その辺は根本が違うから何ともなぁ。それに文明に関しては国によっても違ってくるから一概には言えないし。」


 思った以上に難しい話になってしまったようだ。あまり困らせる訳にもいかないので、ここは切り上げた方が良さそうだ。


「あーっと…ごめんね、難しい事訊いちゃったみたいで。」


「いや、俺の方こそ上手く説明出来なくて。何回も言ってるけど、この世界の歴史を学ぶときにはその辺もわかって来ると思うよ。ムメイは知識欲が凄いし、むしろ俺よりこの世界に詳しくなるんじゃないかと思ってるよ。」


「それは流石に大袈裟じゃないかな。私は別に勉強熱心って訳でもなかったし、魔法も回復系は全然理解出来なかった上に攻撃系でも基礎的なところくらいしかわからなくてどちらかと言うと剣がメインの肉体派だったから。」


「それじゃ、知識欲というよりも好奇心って言った方が正しいのかな。それにしてもエルフにしては珍しいタイプだね。エルフって言うと、魔法とか弓なんかの遠距離支援系の攻撃が得意で近接戦のイメージはあまりないけど。」


「本来ならそうなんだけどね。私がいた村でもエルフはほとんどがお兄ちゃんのイメージ通りで近接に関しては私含めてほんの数人、あとは大方人間や獣人達が占めてたわ。」


「確かに種族の特徴としては獣人は近接戦が得意で、人間は全てが平均的ってイメージはあるね。この世界ではあくまで人間の間だけでそれぞれ得意分野や苦手分野があるって感じだけど。」


 本当に兄は種族の特徴までよく理解している。マンガの御伽噺から知った知識なのだろうが、本当にこの世界に亜人がいないのか疑ってしまう。逆にこの世界の場合、人間同士でもかなり能力差があるという事らしい。


「でもこの世界は文明が発達してる分、知識面では誰もが私の世界よりも高水準だと思うのよね。今やってる文字の読み書きだって誰でもやってるんでしょう?それだけでもわりと信じられない事なんだけど。」


「それに関しては教育を受ける環境がしっかりと出来上がってるからだね。読み書きの他に簡単な計算なんかも誰でも出来るようになってるし。6歳から学ぶってのに驚いてたけど、そんな頃からやって来たからこそ定着するようになるんだと思うよ。」


 言われてみると元の世界でも貴族や王族は幼少期から英才教育を受けている者がほとんどであり、人よりも知識等に優れていた。今にしてみると、貴族と平民で差がつくのはそこによるところが大きかったのかもしれない。


「幼少期にどう過ごしてたかで、大きく変わって来るって事なのね。」


「あぁ、ちなみにその読み書きとか計算とか6歳から15歳までに学ぶ事をこの国では”義務教育”って言ってな。この国では9年間を通して、小学校と中学校…異世界モノだと学園って言う事が多いかな。そこで生活する上での基礎になる知識を身に付ける事になってるんだ。」


 この世界の生活はまだまだ知らない事ばかりだが、全ての人に教育が義務付けられているという事らしい。しかも9年となると決して短くはない。それほどの時間をかけて受ける教育とは一体どれほど膨大な知識となるのか。それにしても、


「その…ギムキョウイク?っていうのを受けるだけでたぶん私の世界の貴族…もしかすると王族をも凌駕するかもしれない知識が得られるのに、それでもこの世界では基礎でしかないというの?」


「まぁな。あと追い打ちかけるような事言っちゃうけど、実は高校と大学っていう義務教育のさらに上の教育機関もあってな。義務ではないから必ずって訳じゃないけどは大半の人はそこまで入ってるんだ。」


 もはや兄の話に頭がついて行けなくなりかけた。そんな中で振り絞って出した質問が…


「それって…どのくらい?」


「高校は3年、大学は4年だよ。だから義務教育も合わせれば1()6()()教育を受ける計算になるな。ちなみに義務教育の小学校は6年、中学校は3年で合わせて9年な。」


 16年って…私の世界の成人に達するまでの年齢をも超える時間をかけて教育を受けているというのか。教育を受け始めるのが6歳からと言っていたから義務教育を受けるだけで成人年齢の15歳になるというのに。殆どがそこからさらに教育を受けるなんて…成人までに私の世界の全てに近いほどの知識を学んでも尚足りないほどの知識がこの世界には溢れているという事なのか。


「なんか…一生かけてもこの世界の事はわからない事ばかりになりそうな気がするわ。」


「ははは、それはそうだろうな。この世界を完璧に知り尽くしてる人間なんていないさ。これは断言出来るよ。実際、まだ解明出来てない事だって数え切れないほどあるんだし。」


「え?そこまでの教育があっても??」


「そりゃもう、教育だけの知識量なんてこの世界の1%にも満たないよ。」


「パーセント…っていうのは知らないけど、よっぽど少ないって事よね??」


「あぁ、うん。そう思ってくれてていいよ。」


「私、本当にこの世界でちゃんと生きれるかしら?自信なくなって来たわ…」


「大丈夫だよ。最低限…さっき言った小学校の部分の知識さえ身につけば大半は何とかなると思うし、ムメイならそのくらいはすぐにわかるようになるさ。」


 小学校って確か6年かけて受ける教育と言っていた。それをすぐにわかるようになるなんて言うが、正直それは過大評価なのでは?と兄の励ましを少し疑ってしまった。とはいえ、ここで騙すような事を言う兄ではない(はず)なので信じつつ今は、


「そう言ってくれるなら、取り敢えず今は目の前の事にちゃんとやるわ。」


「確かに話が脱線し過ぎたな。再開するか。」


 気を取り直して、本来教えてもらっていた平仮名の練習に集中した。

両立が難しく、超スローペースな更新となっております。

何卒、ご了承下さいm(__)m

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