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誰にも言えなかった秘密

いつものアホなノリではないのでご注意くださいませー!

誰にも言えない。


誰にも言いたくない。


私は変じゃない。


どうしたらいいの…




私はどこにでもいる様な、いたって平凡(へいぼん)な男だ。


特にこれと言って特技(とくぎ)があるわけでもないし、何かすごいことが出来る訳でもない。


優秀(ゆうしゅう)な訳でもなく、かと言ってお仕事が出来ない訳でもない。


本当に普通の社会人。


あ、まぁデブで見た目もそんなに良いとは言えないのが残念な所かな。


入社してもう8年は経っただろうか。


電気系のエンジニアなので、私の周りには、ほとんどが男ばかり。


合コン?


何回かは行った事があるが、単純に飲んでおしゃべりして、はい、それでおしまい。


彼女を作らないのかって?


興味が無い。


そもそも、出来る気がしないし、ガンバって作ろうとも思えない。


女の子が嫌いなのかって?


怖いとは思う。


小学生の時、何故か一人だけ妙に突っかかってきた女の子がいた。


私は背が一番小さく、体も弱かったし、毎日のように泣かされた。


いや、マジでトラウマになったからな?


未だに女の子とは仲良くなれるけど、怖くて完全に心を開けないから。


じゃあ、男の子が好きなの?


う~ん、良く分からん。


考えた事があんまりない。


同性愛は否定しないけど、私は子供が欲しいからなぁ…


だから、恋愛対象として検討すらしてない…のかな?


とは言え、結婚出来そうにないし、女の子とエッチしたいか?と言われてもそんな気が起きへんし。


はぁ、このまま一生一人で生きて行きそうやな…。




私はどこにでもいる社会人男性として生きていた。


そして、それはこれからもずっと続くのだろう…。


この秘密を抱えたまま…





実家から離れて一人暮らしをしていると、実家では買えなかったものが買える様になる。


家族の目を気にしなくても良いからだ。


家族にも言っていない秘密がある私としては、都合が良かった。


とは言え、所詮は代償(だいしょう)行為(こうい)


それを買う事で、私の心が一瞬は満たされるが、何年も続いて行くと心がどんどんすり減っていくのが分かる。


かと言って、この秘密を公になんてできない。


1日が過ぎ、1週間が過ぎ、1ヵ月が過ぎて行く毎に、心が摩耗していくが、それを止める方法は無い。


いや、訂正しよう。


方法があるのは知っている。


だが、私の子供が欲しいという夢は二度と叶うことは無いやろう。


まぁ、本当の夢は少し違うのだが。


あぁ、私の心に残された時間はもう少ないかも知れない。


全てがどうでも良くなってくる。


生きて行くのが憂鬱(ゆううつ)だ…。





そんなある日、友人とバイクツーリングに出かけた。


私の趣味の一つにバイクツーリングがある。


バイクが好きなのでは無くて、バイクに乗るのが好きなのだが。


長野県にある『ビーナスライン』と呼ばれるとても景色のキレイな所だ。


楽しかった。


晴れていたので景色も良く、テンションが上がった。


そしてその帰り道、私は事故を起こした。


カーブの先に車が止まって、右の駐車スペースに入ろうとしていた。


そこに突撃(とつげき)し、私は前に吹き飛んだ。


目の前に車のフレームがある。



『あぁ死んだな…』



冷静(れいせい)だった。


走馬燈(そうまとう)?何も見なかったけど。


むしろ、死んだら死んだで良いかもしれない。


ほんの刹那(せつな)の時間に、そんな風に思っていた。




そして、(ひたい)に強い衝撃(しょうげき)が走り、頭を支点にして一回転して、背中を地面に強く打ち付けた。


一瞬(いっしゅん)(いき)が出来なかったが生きていた。


車のフレームが(ひたい)のヘルメットに当たった様だ。


あと数cmフレームが下にあったら、ヘルメットの目の部分に当たって、そのまま顔が(つぶ)れて死んでいただろう。


奇跡的に助かった…。


すると、段々と怖くなってきた。


あのまま死んでいたら、実家の家族が悲しむ。


それに、そのまま男として生涯(しょうがい)()える。


何も満足していない。


これまで生きていたが、本当の自分を隠し続け、本当の望みも叶えようとせず、ただ漠然(ばくぜん)と生きていただけだ。


それは果たして生きていたと言っていいのかも分からない。


その事故の保険のやり取りが一通り終わった後、本格的に調べ始めた。


心の摩耗(まもう)を止める方法を。


ちゃんと生きて行く方法を。


調べれば調べるほど、リスクが大きいのがわかった。


確実に子供をつくる機能が無くなる。


血栓症(けっせんしょう)のリスクや肝機能障害(かんきのうしょうがい)のリスクがあるだろう。


だが、もう迷わない。


どの道、本当の願いは叶わない。


私は愛する女性と結婚して子供を授かりたいんじゃない。


私自身が子供を産みたいのだ!




私の秘密…それは、身体が男として生まれたが、女性として生きて行きたい事だ。




だが、誰にも言える訳が無い。


デブな上に骨格もゴリラ。


肌もアトピーの影響でボロボロ。


色素沈着まで起こしているし、もう治らない部分もあるだろう…


そんな男が『女として生きたい』だと?


気持ち悪いと言われるだけだろう。


コッソリ買っていたもの、それはレディース服だったが、それを着て鏡を見た事がある。


正直『女装したゴリラ』にしか見えない。


だから、誰にも言わない・誰にも言えない。


(さいわ)い、ネットが普及(ふきゅう)した現在は簡単に個人輸入で女性ホルモンの錠剤(じょうざい)を購入できる。


それで誰にも言わずに性別移行を始めてみよう。


それから、半年が過ぎた頃、男性の機能は無くなった。


男と言う呪縛(じゅばく)から解放された様だった。


平日は無理でも、休日はマニキュアを塗ったり、オシャレを楽しめるようになった。


ずっとしたいと思っていたスノーボードも始めよう。




友人とスノーボード用品を買いに行く時、たまたまその友人の奥さんが一緒に来ていた。


何人かの友人達とお昼ご飯を食べている時、その友人の奥さんが私のネイルに気が付いた。


薄いピンクのマニキュアで、バレないだろうとタカを(くく)っていた。


「○○さんネイルしてるん?可愛いやん」


「元々爪が弱くて割れやすいんよ。で、せっかく補強(ほきょう)するなら、ついでに色入れた方が面白いやん?」


とっさに言い訳をした。


まぁ元々爪が(うす)く割れやすい形をしていたのも事実なので、(うそ)と言うわけでは無い。


「もっとよく見せてー!おぉー!キレイじゃん!それはマニキュア?ジェルネイルはしないの?」


あれ?思った以上に食いつかれた。


彼女はかなりフレンドリーなタイプの人で、私達友人とカラオケに行く時も一緒に歌ったりする女性だった。


彼女の友人グループと私達男友達のグループで遊びに行くくらいの友人だったから。


それよりも問題は『ジェルネイル』だ。


「ジェルネイルって何?そこんとこ詳しく教えてー!」





それから色々と教えてもらい、ジェルネイルにハマった。


セルフで出来るように道具も揃えて、色々と遊んだ。


当時、ネイルのブログも作ってみたりした。


そこから少しずつ…本当に少しずつ、本来の自分を出していけた。


友人達とその家族の皆でBBQをした時も、気にせずにジェルネイルをして参加した。


男友達は『へぇー』で終わるが、その奥さん達にはウケた。


まぁ気持ちは分かる。


私も男の友人がセルフでジェルネイルしてるとむしろ気になるし。


そのネイルブログを教えたら、奥さん達は見てくれるようになったそうだ。


…まぁ男達は誰も見なかったらしいけどw




その後も少しずつブログに変化をさせて行った。


こんな服や靴、バッグを買ったとブログに載せたりもした。


まぁ全てレディースのだが。


その後も何回か友人やその奥さん達と遊ぶことがあったが、まぁ嫌われては無いようだ。


どんな風に思っているのかは知らないが…。





性別の移行を始めて1年が過ぎたある時、ちゃんとした病院に通い正式にトランスジェンダーとして、将来的には女性として生きて行くことに決めた。


私は確かに不細工(ぶさいく)でゴリラかも知れない。


でも、何とかガンバるから…見た目の違和感も少しでも減らせるようにガンバるから…。


だから、女としてちゃんと生きて行きたい。

そう思っていた。




だが、ちゃんと性別を変えるためには、周囲の人達にはカミングアウトをせざるを得ない。



怖い…。



今までは男なのに変な趣味をしているなぁくらいにしか思われていないハズ。


なのに、急に「女になる」とか言い出すと、絶対変な人だと思われてしまいそう…。


せっかく皆と仲良くなれたのに、カミングアウトしたら嫌われるかもしれない、気持ち悪いと言われるかもしれない。


無視されたりもう関わってくれないかもしれない。



怖い、怖い、怖い!


あぁ、どうしたらいいの?





ある時、ジェルネイルを教えてくれた奥さんからホテルビュッフェ行こうと(さそ)われた。


スカートこそ()いていないものの、(すで)に服装はレディース服がメインになっていたが、特に気にしなくなっていた。


その状態で何度か遊んでいるし、友人もまぁ慣れたものだった。


と言うか、普通に男友達に子供を見てもらって、その奥さんとレディース服のショッピングしてたし。


今思うと慣れ過ぎじゃない?と思わないでもない。


でも、そのおかげで本当に救われたのも事実なんだけどね。


そんな感じで遊んでいたので、もうこの男友達と奥さんには言っても良いかな?と思えるようになっていた。


この日の翌週、東京の病院に行った帰りに2人に電話した。



「ちょっと話があるんやけど、今度カラオケ行かへん?」



急に迷惑(めいわく)だったかも知れないけど、すんなりと了承(りょうしょう)をもらえた。





カラオケに行った時、私は切り出した。


「実は…」


全てを話した。


本当はどう生きたかったのか、どんな願いを持っていたのか、なぜこんな風に変わっていったのか、今後どうしていくつもりなのか…。


心の闇も全て話した。


子供と遊ぶのは楽しくて(いや)されるが、同時に嫉妬してしまう事も。





自然と号泣(ごうきゅう)していた。


想いが全て涙になって(あふ)れていた。


否定される可能性がある。


恐怖も当然あった。


だが、二人とも私の話を聞いて泣いてくれた。


辛かったこれまでの思いを()み取ってくれた。


心に()まっていたわだかまりが()きほぐされ、生まれて初めて本当の私を知って否定しない大切な友人が出来た瞬間だった。




今こうして女として生きていける様になったのも、その時の二人の友人がいてくれたからこそだと思う。


確かに『事故』と最初の『ジェルネイル』が()()けだった。


そこから少しずつ動き出すことが出来た。


でも、あの時初めて本当の私を知って、否定しないでいてくれた二人の友人のおかげでここまで来れた。


今でもその時のことを鮮明(せんめい)に思い出せる。


どんな事を言ってくれたかも。


二人はもう覚えていないかもしれないが、それだけ、私にとってとても大切な思い出になっているのだから。


色々と(うれ)しかった言葉があるが、その中で少し面白かった言葉がある。


本当かどうかは分からないが、彼女が言った言葉だ。


「そう言えば、○○さん男友達だった…。最近は女友達としか思ってなかったわ」


うん。たとえこの言葉がお世辞(せじ)でも嬉しかったよ。




おわり

と言う感じで、かたくなに隠していた『女として生きたい』と言う心の秘密をカミングアウトし、少しずつちゃんと生きていけるようになったお話でした。


もしかすると、彼女はもうそんなに覚えてないかも知れませんが、私としては本当に心が救われた出来事でした。

正直、彼女と出会わなければマジで死んでたかもしれないんですよねー。


私に限らず、色々な理由で死にたいと思っている方もいらっしゃると思います。

でも、諦めずに生きていたら、もしかすると私のように心が救われる出来事や素敵な友人と出逢えるかも知れません。


こんな趣味作家のちっぽけな小説ですが、もし読んでいただけて、少しだけでももう少しガンバってみようと思っていただけると幸いです。


ご拝読ありがとうございました。

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