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第6話 高校生対世界ランカー

 ランダムに選ばれたアカリちゃんとビロウドさんの試合の舞台は、森林マップだった。


 観戦モードの私たちは、フィールドにランダムに配置されたアカリちゃんとビロウドさんの居場所を、胸の前の空間に表示された半透明のディスプレイのミニマップで把握することが出来る。関係ないけど、こういうのってなんか近未来的な感じでかっこいいと思う。


 どうやら二人は、結構離れた場所にいるみたいだ。ビロウドさんの索敵能力や立ち回り次第だけど、出会うまでに少しターンがかかりそう。


 現在二人は、初期手札を確認して、初期経歴(レベルや技能とも呼ばれる)を決めている。


 エンカウンターでは、フィールドに配置されてから初期経歴を決めるために設けられた、1分間の『スタンバイフェイズ』と呼ばれる時間がある。スタンバイフェイズを終えてゲームが開始されるまで、初期位置から移動することは出来ない。


 あっという間に1分が経過し、スタンバイフェイズが終了する。二人の手札から、経歴札としたカードがそれぞれの体に吸収される。


 ――そしてディスプレイにゲームスタートの表示がされ、ゲームは静かに開始された。


 アカリちゃんは早々に駆け出す。ビロウドさんはその場を動かずに、無色のコスト2の装備エクイップカードのナイフを召喚した。


 そうそう、二人の初期経歴は、っと。……アカリちゃんがグラップラー(武闘家)3、ビロウドさんがスカウト(斥候)3か。


 ……ん? 初期経歴にスカウト3と言うことは、ビロウドさんはアカリちゃんの初期位置を把握していたことになるのかな。


 自分の経歴によって、特定の武器や呪文の扱いが得意になったり、相手の情報を得やすくなったりするのが、このカードゲームの特徴だ。


 ちなみにアカリちゃんが選択したグラップラー3の場合、そのレベルに達したとき(今回はゲーム開始時)に【連続攻撃+】というスキルを得られる特典がある。


 連続した攻撃を行うとき、攻撃毎の隙が本来より少しだけ少なくなるという優れものだ。


 ビロウドさんは手にしたナイフを軽く振るうと、アカリちゃんの初期位置の方に向けてゆっくりと歩き出した。




「……そろそろ遭遇しますね」


 ゲーム開始から6ターンが経過した頃、私の隣に浮いているミドリコさんが呟いた。ちなみに1ターンは30秒間なので、開始から3分経った計算になる。


 アカリちゃんは、最初のターンを除いて1ターンに1度追加出来る経歴札=レベルを、グラップラー6、アーチャー2にまで高めている。得意のかぎ爪を装備し、炎の矢もストック済み。万全の態勢って感じだ。


 対してビロウドさんのレベルは――スカウト3。……そう。初期レベルから1レベルも上げていないのだ。これもハンデの一つだろうとミドリコちゃんは言っていた。


 でも、スカウトはただでさえ直接戦闘向けの技能じゃない。対してアカリちゃんは、インファイト系の経歴であるグラップラーを重点的に高めた、ガチガチの戦闘仕様だ。いくら何でもこれで勝負になるのかなぁ? レベルが1違うだけでも馬鹿に出来ない差があるのに。


「本職ではありませんが、スカウト技能には罠設置の適性があります。罠を用いて戦うつもりかもしれません。……或いは……」


 と、ちょうどのタイミングで、ビロウドさんが罠カードを使ったようだ。私たち観戦組が見ているディスプレイのログにビロウドさんが使用した罠カードが表示され、マップにはビロウドさんが仕掛けた罠の有効範囲が表示される。直後。


「遭遇します」


 ミドリコちゃんの言葉通り、アカリちゃんとビロウドさんはお互いにその姿を視界に捉えた。瞬間、アカリちゃんは、ストックしていた炎の矢を両手から放った。それを後退気味に回避するビロウドさん。息をつく間も与えないように、アカリちゃんは続けて炎の矢を撃ち込み、自身もビロウドさんとの距離を詰めにかかる。


 ――ってまずい! アカリちゃんの進む先には、ビロウドさんがさっき張った罠が! 誘い込まれた!?


「ぐっ!」


 アカリちゃんの両腕が、地面からの伸びるロープのようなものでがんじがらめにされていた。ビロウドさんは矢を回避しながらアカリちゃんを誘導していたんだ。


 ……でも、どうやらアカリちゃんにとっては想定通りだったみたいで。


「なんちゃって」


 アカリちゃんがべっと舌を出す姿がウィンドウに映る。直後、ビロウドさんの背後の茂みから、小さな(と言ってもアカリちゃんより大きい)ドラゴンが飛び出した。アカリちゃんがさっき召喚して別行動を取っていたユニットだ。その口から炎が零れているのは、既に発射態勢に入っている証。


「そうだ、私ごとでいい! 燃やせ!!」


 アカリちゃんの指示が終わる前に、ドラゴンは炎の吐息を放った。


 アカリちゃんとビロウドさんの姿を飲み込み、炎が燃え広がっていく。これがリアルなら、森林火災でニュースにでもなりそうな光景が、私たちの眼下にあった。……二人は……!?


 私が慌ててマップに目をやると、二人はほぼ同じ位置にいた。更に二人を囲むようにして、アカリちゃんが召喚していたドラゴンやグラップラーといったユニットが集結、展開している。


「かなり強引だったけれど、アカリちゃん、上手く間合いに入ることが出来たわね」


「ええ。……さて、果たしてアカリの力がビロウドさんに通用するかどうか……」


「いっくぞおおおおお!!」


 アカリちゃんは鋭い動きでビロウドさんに迫ると、振りかぶったかぎ爪で攻撃する。……が――


 するんっ、と滑るような音が聞こえてきそうな――それほど軽妙に容易く、ビロウドさんはアカリちゃんの攻撃を、低ランクのナイフでさばいた。うわ。


「なんて上手……」


 アオイちゃんの言うとおりだ。初心者の私でも一目見ただけでわかる、尋常じゃない技術。とてもスカウトレベル3のみで行った芸当とは思えない。いや、例え高レベルだったとしてもだ。


 アカリちゃんは更なる攻撃を繰り出すけれど、ビロウドさんはその全てをこともなげに受け流す。発動しているはずの【連続攻撃+】の効果など、まるでないかのようだ。


「……想像はしてたけど、やっぱ悔しいな」一度距離を取ったアカリちゃんが、苦い表情を見せる。「1対1じゃ全く勝ち目なしか……」


「このまま1対1で続ける? これもそれなりのスキル訓練にはなると思うよ?」


「それもいいっすね。……けど……私はやっぱり勝ちに行く!」


 声高に宣言したアカリちゃんが手札から使ったのは、アカリちゃん定番の下級ドラゴンを強化するカード。それにより、二人の周りに展開していた一体のドラゴンが、周囲の木々を巻き込んで舞い上がる炎に包まれて、強大な姿に生まれ変わる。


「ん。あくまで勝ち負けに拘る姿勢は好ましい」


 ぐおおおおおおおっと雄叫びを上げて、ドラゴンは腕を振り上げ、その鋭い爪で切り裂きにかかる。


 ビロウドさんは身を低くして前進しそれを回避。そのまま跳躍してドラゴンの胸を斬りつけると、太刀筋に沿って鮮血のように光の粒子が零れた。ただのナイフによる攻撃とは思えないほどの深い斬り口。もし強化していなかったら、一撃でやられていたかもしれない。


「おおおおおっ!」


 ビロウドさんの左右から、アカリちゃんとアカリちゃんのグラップラーが息の合った連携攻撃を行う。しかしビロウドさんは、優雅とも言える所作でくるくると体を回転させて、二人の攻撃をさばく。


 ……それだけじゃない。防御と同時に攻撃も行っていて、アカリちゃんの体に太刀筋が刻まれるにしたがいHPがみるみる減っていき、アカリちゃんのグラップラーは耐えきれずに粒子となって消滅してしまった。


「くっそ……!」


 アカリちゃんは再び距離を取った。ビロウドさんに立ちはだかるようにドラゴンが動き、威嚇する。


「手がつけらんねえってのはこういうことかよ……」


「まだまだ、こんなもんじゃないよ」


 ビロウドさんは慣れた手つきでナイフを回した。


「……予想通り、予想以上です」


 圧倒されるアカリちゃんの、圧倒するビロウドさんの様子を見て、ミドリコさんが呟く。


「絶対的経験値の差。アカリを……いえ、私たちレベルを相手にするのに、ビロウドさんは初期手札分のカードだけでもお釣りが来る……!」


 うげえ。




「お見事です。完敗でした」


 試合を終え、ミドリコちゃんがビロウドさんに頭を下げた。


「いや、ミドリコちゃんも見事だったよ」ビロウドさんが健闘を称えるように微笑む。「結局四人目のあなたでHPを20%削られちゃった。5人がかりでも20%削らせないつもりで試合に臨んだんだけどね」


 やられちゃったな、とビロウドさんは笑った。


 5人がかりでもと言うのは、ハンデの一つの特別ルールで、ビロウドさんは前の試合の残りHPを引き継いで私たちと戦っているためだ。つまり、ミドリコちゃんたち四人がかりで、ようやく20%ほどのダメージを与えたことになる。


 ちなみに与えたダメージのおおよその内訳は、アカリちゃんが3%、アオイちゃんが5%、クロナちゃんが9%、ミドリコちゃんが6%の、合計23%だ。


「さてそれじゃ、とりあえずの最終戦と行きますか。ね、シロちゃん?」


 ビロウドさんがこちらに向き直る。すると、これまで以上のプレッシャーがビリビリと来た。全身の皮膚が粟立つようなこの感じ。ああ、具合悪くなる。


「言っときますけど」アカリちゃんが私の肩に手を回す。「シロは凄いっすよ。そりゃもうすんごく」


「ええ、本当に」アオイちゃんがアカリちゃんの反対側から私の腕を取る。「とっても凄いんですよシロちゃんは」


「ああ、ムラサキにも聞いてるよ。「シロちゃんは凄く凄い」ってね。どう凄いのかまでは聞いてない……ってか言わないようにして貰ってたけど。今日この日の楽しみにするためにさ」


 みんなしてそうやってハードル上げる……。ご期待に添えなくても知らないですよ?


 ――私自身、自分がどう凄いのかよくわかってないし……。

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