第4話 合宿について
--強化合宿?
中学一年から春先までお世話になった帰宅部に別れを告げ、我が校の『カードゲーム部』に入部して一ヶ月が経とうとしていたこの日。
副部長のアカリちゃんが部室のホワイトボードの前に立ち、そんなことを言い出した。
「ああ。インターハイに向けてな」
「はい」
手を上げたのは、私を含めて全五人の部員の一人、アオイちゃんだ。アカリちゃんがアオイちゃんを名指しし、発言を促す。
「日時や場所はもう決まってるの?」
「ああ。そもそもこの話は、ムラサキさんが昨日持ちかけてくれた話でな。日付は今週の土日。場所はムラサキさんの知り合いの別荘だそうだ。送迎はその知り合いがしてくれるらしい」
「今週末とは少し急ですね」
この部の部長、ミドリコちゃんが話に加わる。ちなみに今日は木曜日だ。
「まぁなー」でも、とアカリちゃんは言う。「ムラサキさんは、インターハイに向けて良い経験になる。絶対に損はさせない、って言ってたぞ」
「ムラサキさんの持ちかける話ですから、そこについては疑念も心配もないですが」
「そうね」
アオイちゃんがミドリコちゃんに同意する。私もそう思う。
「みんなと合宿なんて楽しそう。私は是非参加したいわ」
私も私も。
「んじゃとりあえず訊いてみっか」アカリちゃんが手を上げる。「合宿に参加したい人、手上げ」
アカリちゃんの言葉に、この場にいる全員が手を上げた。
「決まりだな」
うんうんとアカリちゃんが頷いた。
「ムラサキさんには……どうすっかな。メールで伝えてもいいんだけど、どうせならこれからみんなで『トラピ』に行くか?」
トラピとは、ムラサキさんが経営するカードショップ『トライアングル・ピース』の略称だ。
この部活――エンカウンターに必要不可欠な、『エンカウンター・システム(スフィアとも)』と呼ばれる、水晶玉がついたあの筐体は、残念ながら部室には備え付けられておらず、私たちがちゃんと部活をするには、トラピに行かなければならない。デッキ構築などはここでも出来るけど。
「そうですね。今日は一部屋貸し切りで使わせて貰う日ではないですが、せっかくですし行きましょうか」
ミドリコちゃんの言葉に、アオイちゃんと私がこくこくと頷く。
「ん。じゃあ行くか」
私たちは各々鞄を手に取り、立ち上がった。
ミドリコちゃんがアカリちゃんに、彼女の鞄を手渡す。
そしてクロナちゃんは、今日も無口だった。
――ん?
街中を歩きトライアングル・ピースが見えてきたところで、私は奇妙な違和感を覚えた。胸が圧迫されるような、少し不快な感覚。
それは前方――トラピからもたらされているように感じる。
「……感じますか? 白さんも」
背後にいたミドリコさんが、私の耳元で囁く。息がくすぐったくて少し背筋が震える。それはともかく、どうやらミドリコさんにもこの感覚があるみたいだ。
「どうやらトラピに何かいるようですね」
ミドリコさんがさらっと怖いことを言う。何かって何?
ビクビクしながらトラピに入ると、私たちはアカリちゃんを先頭にまっすぐにカウンターに向かった。
「あ、みんな」
カウンターでお客さんと話しこんでいた様子のムラサキさんが、私たちに気づいて手招きをする。
「ちょうどよかった。今あなたたちの話をしていたところなの」
「私たちの話っすか?」
アカリちゃんが小首をかしげる。と、ムラサキさんと話していた人が振り返った。
――う……。
途端、先ほどから感じている圧力がより強まった気がして、少し緊張する。なんだこれ。
「いや何、見込みのある高校生がいるって話を少しね」
言って、彼女は値踏みするかのように私たちを見つめてくる。それを隠す気もないような、少しぶしつけな視線ではあったが、不快ではなかった。
「…………うん、私に声がかかった理由がよくわかったよ」
ひとしきり観察し終えたようで、彼女が頷く。
「これだけの人材が揃っててまともな指導者がいないってのは、確かに損だ。勿体ない」
よく分からないけど、どうやら私たちは褒められたらしい。
と、その時、私の斜め前に立つアカリちゃんが、あんぐりと口を開け、肩を震わせているのに気づく。
いや、アカリちゃんだけじゃない。ミドリコちゃんとアオイちゃんもどこか様子がおかしい。クロナちゃんは……よく分からない。
「…………マジか……」
アカリちゃんがやっとという感じで声を絞り出す。どうしたんだろう?
「……『世界ランカー』が……なんでこんなところに……!?」
――せかいらんかぁ……?