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第1話 出会い


「いでよ!」


 彼女がカードを手にして唱えると、カードが輝き、そこから何枚もの光る羽根が舞い散る。直後、カードを突き破るように光の影が舞い上がり、彩られ、鳥の翼を背に持つ少女、ハルピュイアの姿を取った。


 対する私が手札から選んだカードを宙にかざして発動させると、カードが光に包まれて変形し、剣の姿を取る。私は握りしめたそれを一振りし、主を守るように羽ばたくハルピュイアに斬りかかる。


 ハルピュイアが翼を広げる。攻撃の気配を察した私は、自分の手札の一枚を手に取り、発動させる。手にしたカードが光の粒子となって消えるにつれ、私の体に力が流れ込んでくる。


 ハルピュイアの羽根の一枚一枚が光りながら震え、羽根の形の光弾が放たれた。


 私は剣を握りしめ、体に溢れる力を解放する。解き放たれた力に突き動かされるように、私の腕が、体が、通常ではあり得ないほどの速度で動き、光弾を切り払う。


 私は一気に距離を詰め、ハルピュイアに斬撃を喰らわせる。更に二度、三度と続けざまに斬りつけると、ハルピュイアは断末魔を上げて粒子となって四散した。


「やあああっ!」


 ハルピュイアの残滓を突き破り、彼女が槍を構え突撃してくる。


 距離も近く、速度も速い。この突進をかわすのは容易じゃないと判断した私は、刺し貫こうと唸りを上げる槍に向けて、斬撃をぶつける。


 交差した互いの武器から火花が散り、何秒にも思える一瞬の拮抗の後、私たちの体が吹き飛ばされる。


 私はすぐさま受け身を取って立ち上がり、新たなカードを構える。視線の先で、相手もカードを手にしていた。


 二人のカードが同時に輝き、新たな効果を発現させる。


 ――あぁ、なんて、なんて楽しいんだろう。何故こんなにも、私は――




 ――出会いは偶然だった。……と、思う。


 切っ掛けは、高校生活最初の大型連休に繰り出した、街の大通りで、一枚のポスターを見かけたこと。


 そこに描かれた美しい天使のようなキャラクターのイラストが、ただここを通り過ぎるはずだった私の足を止め、目を奪った。


 『Encounterエンカウンター


 ポスターに載っているその名前には覚えがあった。私が小さい頃からたびたびテレビでCMが流れている、なんとかカードゲームとかいうやつだ。私は大して興味がなかったから、詳しくは知らないけれど。


 それにしても、本当になんて不思議なイラストだろう。画に引き込まれるような、得体の知れない魔力のようなものを感じてしまう。そんなの錯覚に決まっているけど、でも、本当に目が離せない。それに……。


「――ぇ。……ねえ」


 私がポスターに見とれていると、誰かに声をかけられた。何十秒眺めていただろう。不審に思われたんだろうか。


「あんた、私と同じクラスだよな。確か……そう、シロとか言ったっけ」


 あ。そうだ見覚えがある。確かに彼女は私と同じクラスの人だ。……こちらの名前を覚えてくれていたところ申し訳ないけど、相手の名前は出てこなかった。


「まぁ面と向かって自己紹介したわけじゃないしな。私はアカリだ。よろしくな」


 そう言って、彼女はニカッと笑った。まぶしい笑顔とはこういう表情のことを言うのだろうか。何となく、この人はモテそうだなと思う。


「とーこーろーでー」ずいっ、とアカリさんが距離を詰めてくる。「ずいぶん熱心にこのポスターを見てたみたいだけど」


 どうやらこっちが本題らしい。


「もしかして、このカードゲームに興味があるとか!?」


 ――さて、なんと答えたものだろう。


 確かに今の私は、確実にこのカードゲームに興味を持っている。しかし、ここで素直に頷くと、面倒なことになりそうな気がする。そう警戒せざるを得ないほど、彼女の瞳はキラキラと輝いていた。興味あると言ったが最後、終日手取り足取り教え込まされそうな予感がひしひしと感じられる。


 ――だから私は……。




「つーわけで連れてきた!」


「どういうわけですか……」


 ――どうしてこうなったのだろう。


 興味を否定するはずが、あれよあれよという間にあのポスターが貼ってあったお店の二階に引きずり込まれてしまった。彼女の押しが強いのか、私が押しに弱いのか。


「初めまして。私はミドリコと言います。よろしくお願いします」


 アカリさんの友達らしい綺麗な人が、ぺこりと頭を下げる。私も自己紹介して、頭をぺこり。


「アカリが迷惑かけてごめんなさい。お時間は大丈夫なんですか?」


 別に迷惑だという訳じゃない。元々目的もなく街をぶらぶらしてただけだし、あのカードゲームに興味があったのも事実だし。


 何よりも、もうついてきてしまったのだから、こうなったら覚悟を決めて、たっぷり教わってしまおうと思う。


「二階のここはプレイルーム……の控え室で、ここでカードで遊べるんだ」


 部屋を見回してみると、机の上にカードを広げて何か思案している人たちが至る所に見受けられる。しかし、向かい合ってカードで遊んでいる風な人は見当たらない。


 部屋の奥には、6つの扉があった。順番待ちの列が出来ている。


「このカードゲームは、そっちのプレイルームの中で遊ぶんだ。逆に言えば、その中でしかちゃんと遊べないとも言う」


 疑問を口にする前に、アカリさんが教えてくれた。あの部屋の中でしか遊べないなんて、私が知ってるカードゲームとはずいぶんイメージが違う。一体どんな部屋で、どうやって遊ぶのだろう。中の様子が気になる。


「シロは本当に何も知らないんだな。いや、悪い意味で言ったんじゃない。これから覚えていけばいいさ」


「シロさんのカードはどうするんです?」


「ああ、それな。まず先に私らのゲームしてる様子を見て貰って、その後で買う気になったら買って貰うって感じにしようと思ってる」


「ん、それが良さそうですね。……私たちがカードを貸すことが出来ればいいのですが、そういうわけにも行かないですから」


「ホント、私たちがカードを貸せたら、金も何もかからないし手っ取り早かったんだけどな。……んじゃ、早速奥の列に並ぼうか」


 私は、手招きするアカリさんとミドリコさんについて、奥の列に並んだ。


 ――何だろう。ドキドキする。今まで感じたことのないような、不思議な高揚感。


 ――楽しみ……だな。




 列に並んで雑談をかわしていると、私たちの番がやってきた。二人の後ろについて部屋に入る。


 薄暗い部屋の中には、大きなディスプレイが一つと、その下にこれまた大きな筐体が一台、その筐体の前には複数の椅子が置かれていた。


 筐体には、様々な挿入口と、水晶玉のようなものがいくつか備え付けられている。


「こいつは、ここにデッキを入れて、その内容を読み取って遊ぶための機械だ。デッキとこいつがなきゃこのゲームは始まらない。あ、デッキってのは、このカードの束のことな」


 アカリさんはカードの束--デッキを掲げて見せてから、椅子に座ってデッキを挿入口の一つに入れる。すると筐体の中から、カードを数えているような音が聞こえてくる。隣でミドリコさんも同じようにしていた。


 ディスプレイに”Now Loading”と表示される。


「……っと、こいつも忘れないようにしないとな」


 アカリさんが、先にデッキを入れたのとは別の挿入口に、1枚のカードを差し込む。


「こいつはプレイヤーカードって言って、持ち主のデータが色々入ってるんだ。勝率とか、ゲームに関係する能力を視覚化したステータスとか、持ってるカードとかな」


「これで所持しているカードを個人ごとに管理されているので、原則カードの貸し借りというのは出来ないんです」


 なるほど、そういうことだったんだ。


「……おし」


 そうこうしてると、二つの水晶玉が光り出した。ディスプレイの画面も、ゲームのスタート画面に変わる。


「これで準備完了」


 二人とも、自分の目の前の水晶玉に手を置いた。


「ステージとかはどうする?」


「ステージと先手後手はいつも通りランダムでいいでしょう。スタートポジションはミドルレンジの向かい合いで」


「ん、りょーかい」


 アカリさんが、慣れた手つきで水晶玉に触れて画面を操作する。水晶玉自体を動かしているわけではない。タッチパネルのようなものかな?


「んじゃやるか」


「その前に」


「ん? ……あっとそうか」


 アカリさんは振り向くと、私を手招きした。


「シロもこの椅子に座って、水晶玉に触れてみな。その方がよ~く観戦出来る」


 アカリさんがにやりと笑って言う。……すんごくいたずらっぽい顔だ。


 椅子に座るのはともかく、水晶玉に触れる意味は何だろうと訝しく思いながらも、アカリさんの隣の椅子に座り、言われたとおりに水晶玉に触れてみた。


 すると、ブゥン……と起動するような音がして、水晶玉が仄かに光った。二人の水晶玉とは違う光り方だ。


「んじゃ、ゲーム開始だ」


 アカリさんが水晶玉を一撫ですると、上のディスプレイに”Game Start”の文字が浮かび上がり、それは始まった。


 ――え。


 その瞬間、まるで手に触れた水晶玉に意識が取り込まれるかのような、未知の感覚が私を襲う。


 ――これ……何……!?

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