チュートリアル
『ようこそ、【One Life Online】へ、ここはあなたの新しい人生です』
「人生とは大げさな…」
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VRゲームが一般的になってから一世紀くらいが経つらしい。そんな長い歴史の中で初めてフルダイブ型のVRゲームが発売された。それがこの【One Life Online】、通称OLOだ。
そんなOLOだから発表直後から世界中で話題となり、初発売予定ロットの2万5千個は数秒で売り切れるほどのブームを巻き起こした。あまりにも早く売り切れたため発売延期になったときは暴動が起きたほどだ。それに慌てた運営が発売数を4倍の10万個まで増やし、旧来のゲーム形態であるPCゲームとして運営開始、世界中の人々がOLOの世界を上からのぞき込んで発売日までプレイした。
そしてPC版で実装された1万位まである5つのランキングシステム、これがPC版OLOをしている人々を熱狂させた。なぜなら5万あるランキングに名前が載ればフルダイブVR版OLOの購入優先権がもらえたのだ。住んでいる場所の差など無くて等しいこの時代5万などすぐに埋まる。そんな中、私は頑張ってランキングに名前を載せた。ランキングに名前が残ったままPC版のサービスが終了したときには狂うほど歓喜したものだ。小学生のころから貯めていたお年玉やお小遣いを振り込み、手に入れた引換券を片手にPC版発表後から何度もまだかまだかと通い詰めている電気屋に入る、いや、飛び込む。
「エレク!いや、おじちゃん!OLOあるよね!さぁ出せ!それ出せ!やれ出せ!」
「誰だリアルで……いやまだ兄ちゃんって年だろ!?」
人気のない店内でぼーっと天井を眺めて店番をしていた豊臣電気の当主(27歳、独身、彼女いない歴14年)に声をかける。
「なんだお前か、学校帰りでそのまま来たのか。まぁなんだ落ちつけ」
「やっと発売日なんだよ!?PCの前でどれだけ張り付いてラストダンス踊ったか…!」
「ラストダンス踊ってここに来たってことはあのOLOはお前の―――」
「あるんだな!出せ!さぁ出せ!それ出せ!今出せ!」
「お、落ち着け落ち着け。お前のならほら、そこの駄菓子の横に売ってあるだろ」
「( ゜Д゜)」
「今どんな声出した!?」
なぜか電気屋で一番多く売ってある駄菓子の横に手書きで『一千万円から』と書かれた札が張り付けてあるOLOがそこにあった。
「ふっざっけんな何勝手に売りに出してやがるてめぇ、あ゛ぁ゛?」
「いや、俺の家族分しか発注してなかったのに一個だけ多く来たから間違えて多く発送されてきたのかなと」
「殺すぞ、OLO内で殺すぞ」
「やめてください。いや、本当に申し訳ない」
急いでOLOの箱から札を引きちぎりぐしゃぐしゃに丸めた後、広げて散り散りに破り燃やし、踏みにじる。
「何でチャッカマン持ちある―――ナンデモナイデスゴメンナサイ」
OLOの箱を開け中身を確認し、不備がないことを確認し終えて一息つく。
「よかったぁ。私のOLO」
「あー、感動してるところ悪いけど引換券か金はあるんだろうな?」
「あるよ、ほら」
手に持っていた引換券をクソ爺に渡す。
「まだ爺じゃないっつうの……いや、勝手に店頭に並べたのは悪かったよ」
「ま、こんな寂れた店じゃ売れるものも売れないだろうしね」
「寂れてて悪かったな、一日に一人くらいはくるけどな」
絶体嘘だ。こんな周りはシャッターだらけの商店街の奥の角を6回曲がったところにあるような辺鄙な場所にある店に一日に一人どころか月に一人も怪しいというのに。
「ちなみにその辺鄙な場所にある店に毎日来ているのはお前だよ」
なん……だと……。知らん。ンッンッ。
「で、だ。電屋、なんかまた仕入れてるんでしょ?」
「あー…うんまぁ、あるけど」
「その反応見るといい情報ってわけじゃなさそうだね」
「いや、大した情報じゃないんだけどな。OLOの仕様がここにきて突き刺さったって感じだ」
「OLOの仕様が?」
OLOの仕様で突き刺さる部分などあっただろうか。バグは無く、動作もスムーズ。PC版にで出たときはスキルの多さと習得方法にびっくりしたくらいだ。あと特徴といえば……
「あ」
「気づいたか、OLO、【One Life Online】は名前の通り一つのアカウントに一キャラのみ。しかも死亡するとゲーム内時間で百年、リアルで二十五年間キャラが作れないと来たもんだ」
「で、でもそれなら新しいアカウント作れば……」
「そうPC版だと新しいメアドがあればいくらでもアカウントを作れた。だが利用規約にも書いてあるようにサブアカは基本禁止だ、PC版のはグレーゾーンだけだったって話さ。
フルダイブ版のOLOは脳を読み取る。人の脳は複雑かつ精巧だ。サブアカなんて作っても脳サーチで引っかかってBAN待ったなしだ」
「それなら死んだ人とか転売したりしない?」
「基本料無料だったPC版と違いフルダイブ版は月額制なんだよ……。まぁ、最初の半年は基本料無料だけど」
セ…セーフかなぁ…?私、OLO買うだけでほとんどお金使っちゃったし…。
「その顔は有り金全部溶かした顔だな。安心しろ新しい情報の中でいい情報だ。ペイバック機能が実装される」
「ペ…なんだって?」
「ペイバックだよ。ゲーム内貨幣が現金になるんだ。ゲーム内貨幣で課金も可能だぞ」
「レ、レートは!?」
「1=1で考えなかったことはほめてやる。1G=10円だ」
1Gで1円か…気になるのは…
「ちなみに月額千五百円なー」
「ナチュラルに心読むのやめてよ。でもそうなると月に150Gも稼がないといけないのか…」
ま、どうにかなるか。聞きたいことと受け取るべきものは受け取った。帰ってさっそくキャラクリだ。
「そういえばお前何のランキングに名前載ったんだ?」
「言って無かったっけ?」
「聞いてねえな」
「討伐数とレベルだよ」
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帰宅して待ってたのは宅配便で届いたOLOの箱を持って駆け寄ってくる母、父、兄。そんな反応するのは分かっていた!だからあんなところに自分用のOLOを送っていたのだ。
「それ誰がプレイしてもいいけどお金払ってね」
それだけ伝えて私は自室にさっさと引きこもる。後ろで誰がプレイするか決める醜い争いが勃発してるけど知るもんか。
早速OLOを箱から出す。剣道の面みたいな形をしている機械だった。
「かぶればいいのかな…?」
ベッドに横になり被る。………何にも反応しない。
箱をあさると電源コードらしきものが出てきた。そりゃ動かないはずだ。電源コードをぶっ刺し面を再び被る。すると自動で起動音が鳴り私の意識は落ちて行った。
この物語はソロ弓さんの日常の過去の話になります。
感想など付けてくださいますと嬉しいです。
(今回は完結させるぞ・・・)