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意味のわからないショタ長の発言に首を傾げていたんだけど、私以上に驚いてる子がひとり。
「あのさ。この子、どう見ても初めて聞きました!! って顔してるわよ?」
「うん! だって彼女も初めて聞く話だもん!」
……いや、だもん、じゃないわよ。
面倒ごとはショタで乗り切るつもりなのね……。
なんて思っていたんだけど、瞳に悲しみを浮かべたショタ長が、少しだけ真剣な表情を見せる。
「彼女はギルドが所有する奴隷なんだけど、魔法の制御が苦手らしくて成績はあんまりなんだよね」
「魔法……!?」
あわてて瞳に魔力を集めて彼女を見直したんだけど、確かに彼女の体から魔力が流れ出していた。
制御も不安定で、ギルド長の話とも一致しているわね。
「なるほど、そういうことね……」
つまりは、貴族である私が引き受けて、適切な環境で鍛えて欲しい、ってことかしら。
平民には魔力のある者が少なくて、良い環境も良い指導者もいないのよね。
もし平民の中に優秀な指導者がいたとしても、そういう人は貴族が権力と金で引き抜いて貴族にしちゃうのよ。
ギルドにとっては戦力のアップ、私は強い魔法使いに大きな貸しを作れる。
悪い案じゃないわね。
「私が彼女を借りて鍛えるとして、返却の期限とかはあるのかしら?」
「ないよー。彼女が望んだらって条件付きなんだけど、ずっと借りてて大丈夫。僕たちじゃ宝の持ち腐れだもん」
……本音かしら?
魔法使いは人数が少なくて、貴族であっても自分の手から離したくはないと聞くのだけど……。
「彼女のために本気で怒ってくれたからね。そんな心優しい貴族様に雇われた方が、幸せでしょ。僕たちじゃ、ずっとは守りきれないもん。強くなったら貴族の誰かに目を付けられるしね」
「……なるほどね」
あとは私とのつながりを強くする目的と、今回のおわびの意味も含まれているのかしら?
家名を名乗りもしない私への根回しだと考えるにはやり過ぎだから、言った言葉のすべてがウソって訳じゃないと思うけどね。
ほんと誰かしらね、この男をギルド長にしたのは。手放しで褒めてあげるわ。
「そうね、私としては構わないわ。魔法使いは喉から手が出るほど欲しいし、魔力の制御くらいなら私もマリーも教えられる。あとは、彼女の気持ち次第ね」
確認の意味も込めて、最後の決定権を彼女に投げ渡した。
味方は多い方が良いし、強い魔法使いが居れば投票も有利に動ける。
書類上だけなら立派な王族である私のひご下に入れば、誰も彼女に手出しは出来なくなる。
だけど、やはり、彼女の気持ちが最優先よね。
「誰もアナタを責めたりしないから、自分の気持ちを素直に言ってくれるかしら?」
怖がられているとは知りながらも、出来る限りの優しい声で彼女に問いかけてみた。
透き通った奇麗な瞳が不安げに揺れ動いて、彼女が胸の前で手を握る。
「えっと、わたし…………。立派な魔法使いになりたいです。 ……死んじゃったお母さんみたいな」
小さいながらも力のある声で彼女がそう言った。
「……わかったわ。私について来たら苦労すると思うわよ?」
「頑張ります」
そのとき初めて彼女が笑ってくれた。
結局はこの男の筋書き通りな進んだわね。
まぁ、私にしても良い出会いなんだろうけど。
「それじゃぁ、持って行く荷物をまとめてもらえるかしら? ここには頻繁に通うと思うから、今日は最低限だけでいいわよ?」
私がそう言うと、なぜか少女の表情が曇ってしまった。
「えっと、荷物は、ない、です……」
消え入りそうな声が聞こえて、彼女の視線が落ちる。
「え? ……あっ、そうなのね。まずは衣服をそろえるところからはじめましょうか。マリー、良いところに案内してくれないかしら?」
「かしこまりました。何件か心当たりがございます」
「よろしくね」
マリーと共に席を立って、不安げな表情を見せる彼女に手を差し伸べる。
「一緒に来てくれるかしら?」
「……はい!」
のばされた手を引き寄せて、彼女と一緒に出口へと向かった。
「あっ、ごめん、忘れてた。はいこれ。裏門の鍵。ギルドの登録に必要だから、仮のお名前と得意な技能を教えてくれない?」
「そうだったわね。名前はミリアン。家名はフィリアね。得意な技能は……、キノコの召喚かしら?? それじぁ、また来るわね。優秀なギルド長さん」
そんな言葉と共にドアをパタリって閉める。
「第4王女!????????」
ドアの向こうから、ショタ長の叫び声が響いてた。




