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<5>

 薬草の売却はまた今度、ってことで今日はこのまま帰るんだけど、


「キュッ!」


「ん? どうしたの??」


 1体のマッシュが突然パタパタって走り出しちゃって、そのまま茂みの中に入って行ったの。


 そうして待つこと数分。

 すっごく大きな葉っぱを持ったマッシュが帰ってきて、首をかしげる私たちの前に広げてくれた。


「……乗っていいの?」


「キュ!」


 お言葉に甘えて恐る恐る乗ってみたんだけど、葉っぱの上って意外に快適ね。

 乗り心地はハンモックに近いかしら?


 良い感じのたるみが体を包み込んでくれてホッとするし、マッシュたちも何だか楽しそう。


 そのまま城に向かって走り出しちゃったんだけど、来たときよりもずっと早いみたい。


「ねぇ、マリー。これからは城での移動もマッシュに頑張ってもらいましょうか」


「……えーっと、……。さすがにそれは目立ちすぎるかと……」


「……そうよね」


 わかってたけど、わがままを言いたくなるくらい良い感じなのよ。

 馬車より揺れないし、人力車より小回りがきくって最高の移動手段じゃないかしら?

 さすがは私のマッシュよね!!


 なんて思いながらぼんやりと座っているだけで、いつの間にか真っ暗な地下道を抜けてた。


「ん? なに? 手伝ってくれるの?」


「「キュ!」」


 せっかくだから着替えもマッシュに手伝ってもらったんだけど、彼らじゃ身長が足りなかったみたい。

 途中で諦めちゃって部屋の掃除をしてくれてた。


 こればっかりは、適材適所よね。


 そうしてみんなに手伝って貰いながら動きやすい服に着替えて、鍛錬場に向かう。


 お城の中には、王族用、貴族用、兵士用の3つがあるんだけど、私が行けるのは兵士用だけね。

 ほかの2つはどう考えても面倒なことになるもの。


「……あら、良い熱気」


 読書以外に興味なんてなかったからはじめてなんだけど、案外大勢の人がいるのね。


 全部で60人くらいかしら?

 土が敷き詰められた広い部屋の中で、男たちが模擬戦をしているみたい。


「お邪魔するわね」


「…………」


 彼らは私たちの方をチラリと流し見た後で、興味なさげに鼻を鳴らした。

 何しに来たんだよって感じの雰囲気を出した後で、模擬戦に戻っていく。


(感じ悪いわね。……でもまぁ、陰口を言うだけの貴族たちよりはましかしら)


 そう思い直して、彼らの横を出来るだけ刺激しないように通り過ぎた。


 向かった先は専用の機材が並ぶ小さな部屋なんだけど、そちらはあまり人気がない見たくて、中にいたのは兵士だと思う女性が1人だけ。


 ランニングマシーンでポニーテールを揺らす彼女に軽く会釈をして、私たちは最奥にある魔力増加用の機具に近付いた。

 って言っても、スライムの皮が敷かれただけの場所なんだけどね。


「姫様。私もご一緒してよろしいですか?」


「ん? ……えぇ、もちろんよ。あなたと一緒なら頑張れそうね」


 ほんの少しだけ震えていたマリーの手を優しく握って、スライムの皮の上に乗る。

 ふぅー……、って大きく息を吐いて目を閉じると、床に吸い取られる魔力の流れがより大きく感じられた。


 流れる魔力の量を減らして、周囲からの収集量を高める。

 それがこのトレーニングの仕組みなのだけど、魔力操作ってあまり得意じゃないのよね。


(慣れれば流れだし0に出来るって聞くけど、ウソじゃないかしら……)


 額から流れ出す汗を拭ってチラリと横を流し見れば、優雅に目を閉じたマリーが静かにトレーニングを続けていた。


(さすがは私のマリーね。私も見習わないと……)


 そう気持ちを新たにして、お腹に力を入れ直す。

 そして再び魔力の操作に戻ろうとした。


ーーそんな時、


 彼女の膝の上においてあったかばんの中から、マッシュが勢い良く飛び出して来た。


「わっ、ちょっと、どうしたのよ?」


 ポテンポテンと体を揺らしたマッシュが、私の膝の上に乗る。

 そして何事もなかったかのように、キュ、と小さく鳴いて首をかしげてくれた。


(一緒にトレーニングをしてくれるのかしら?)


 膝の上で動かなくなったマッシュの行動を見る限り、そんな感じだと思う。


 ふわふわのモチモチで、抱きしめていると集中出来るから、このトレーニングにはうってつけなんだけど、ちょっとだけ場所が悪いのよね。


(気付かれたかしら……?)


 そんな思いでランニングマシンの方に視線を向けたんだけど、そこには目を大きく開いて動きを止めた女性の姿があった。


(あ、うん。バレてる……)


 王族が使うスキルは大々的に公表されていて、私のマッシュは悪い意味で有名だったりする。

 城で働く彼女が知らないはずないのよね。


 だとすれば、当然、私の正体もわかる訳で……。


(さてと、どうしましょう……)


 このままここにいると何を言われるかわからない。


(騒ぎになる前に逃げようかしら)


 そんな思いでいると、呆然としていた彼女が飛び跳ねるように動く床を降りて、深くお辞儀をしてくれた。


(…………あれ?)


 集中しているマリーの邪魔をしないように無言で手を振れば、彼女がもう1度頭を下げてくれる。

 そして何も言わずに動く床へと戻って行った。


(バカにされなかったどころか、頭を下げられた??)


 あまりの出来事に放心状態で彼女をぼうぜんと眺めたのだけど、彼女は出来るだけこっちを見ないようにしているみたい。


 たまにチラリとこっちを見ても、すぐに視線をそらすのよ。

 貴族たちから向けられている視線とは違ってて、なんだか不思議な感じね……。


(とりあえずはここに居ても大丈夫なのかしら? 初日から追い出されなくてラッキー??)


 そう心の中で首をかしげながら、騒ぎの原因であるマッシュを抱きかかえる。


 周囲にあるのは、マリーの小さな呼吸音と女性の足音。

 はじめて訪れたはずのこの場所がどこか懐かしくて、不思議と心地よく感じられた。


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