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<32>

 その日の夜は彼女の歓迎会と称してマッシュが作ってくれた甘いお菓子をいっぱい食べて、みんなでベッドを寄せ合って眠りについた。



 そうして迎えた翌朝のこと。


 4人並んで食事をしていたのだけど、ジニは居心地が悪そうに周囲に視線を向けていて、どうにも緊張しているみたい。


 だけどそれは慣れない環境のせいで、昨日の出来事を後悔しているようには見えなかった。


「深く考えずに眠ったのだが、ボクなんかがミリ様と同じ部屋で眠ってよかったのか?」


「もちろんよ。あなたはいずれ私の騎士になるんですもの、護衛は近くに居た方が良いわ」


「護衛……、そう、だな。承知した」


 少なくとも、1人でトレーニングをしていた時よりは楽しそうね。


 もしも次回の投票で追放を回避出来たら私の専属騎士として仕えてもらえたらいいな、なんて思いもうっすらとあるんだけど、今のままじゃ夢物語ね。


(追放までに彼女には強くなってもらって、トレーニングに参加出来るようになればいいわね)


 強い者に従え、良くも悪くもそんな世界らしいから、あの男にも負けないくらいの力を付ければ周囲の見方も変わると思うのよ。


 問題なのは私の指導がうまくいくか、なんだけど。それはまぁ、私が頑張るしかないわね。


「朝食を終えたら森に行くわ。問題ないかしら?」


「森?」


「えぇ、私たちのトレーニングルームがあるのよ」


 不思議そうに首をかしげる彼女に笑みを向けて、思わせぶりに肩を揺らして見せた。




 そうして森の準備を進めて居た私たちの部屋に、突然1羽の白い鳥が迷い込んでくる。


 窓はどこにもなくて、出入り口はすべて閉まっている。なのにどこから?


「ミリ様!」


 驚く私たちを尻目に、ジニが全員を守るようにして剣を抜いた。


「姫様、魔力を感じます!」


「敵ってこと!?」


 マリーの言葉通り、うっすらとだけどその小さな体からは魔力が立ち上っていた。


 よく見ると鳥じゃない!! 紙を折って作ったのような――


「きゃっ!!」


 ジニの背後から様子をうかがっていると、不意にパンと言う破裂音が聞こえて、鳥が光を放った。


 小さく悲鳴をあげて後ろに下がったんだけど、それ以上は何も起きないみたい。


「…………手紙?」


「そのようですね」


 恐る恐る部屋の中を見渡してみたら、ベッドの上、鳥が破裂した下あたりに1枚の紙が落ちていた。


 遠目からでは何が書かれているのかわからないけど、少なくとも魔方陣じゃないわね。魔力を感じないもの。


「マッシュ、罠がないか調べてもらえないかしら?」


「キュ!」


 任せとけ、と言いたげにビシッと敬礼をしたマッシュが、トコトコと駆けていって落ちていた紙をペシリとたたいた。


「え?」


 驚く私たちを尻目に、ひっくり返してのぞき込んだり、手に持ってぐるぐると回してみたり。


 時には頬ずりをしてマッシュが紙と戯れる。


「きゅ~~」


 遊んでいるとしか思えない調査の後に、紙をヒラヒラと掲げて私たちの元へと駆け寄ってくれた。

 あまりにも無警戒だから少しだけ心配になるのだけど、大丈夫だと判断した結果だと思う。


 お礼を言って紙を眺めたんだけど、1行目には『いとしの姫様へ』なんて文字が躍っていた。


「だれよ、こんなバカな手紙を出すのは」


 なんて思ったんだけど、裏には『冒険者ギルド王都支部長 フェルティア・ミルド』の文字が。


 チラリと流し読んで見たのだけど、中は私に対する愛がつづられているみたい。


(百合のようにお淑やかで、太陽のような笑みに惚れた? ちょっと表現が古いんじゃないかしら……)


 もしこれが本当にラブレターだとしたらあんまりな内容ね。……まぁ、嫌いじゃないけど。


「……ショタ長からの手紙みたいね。マリー、頼めるかしら?」


「かしこまりました。拝見させていただきます」


 恭しく手紙を読み始めたマリーは、真剣な表情で手紙を何度も見返していく。


 本当に愛の告白ってことはないでしょうし、多分暗号だと思うのだと思うのよね。 


(今の時期にラブレターを装った魔法の手紙で私に伝えたい事なんて、どう考えても面倒ごとよね……)


 はぁ、と小さくため息を吐いたんだけど、それと同時にマリーの解読も終わったみたい。

 真剣な表情を浮かべまま手紙を折り畳んだ彼女が、私の方へと向き直った。


「手紙の主は、助けを求めているようですね。詳しい内容はわかりませんが、主力が5人ほど亡くなっているようです」


「そう、やっぱり面倒ごとなのね……」


 いっそのこと本当にラブレターだったら良かったんだけどな。


 助け、助けねぇ……。


「知らない仲じゃないし、大工道具をだまし取った負い目もあるのよね……。仕方がないから話だけでも聞きに行きましょうか。ジニ、悪いんだけどトレーニングは後回しで良いかしら?」


「無論だ。邪魔でなければボクも手伝おう」


「……そうね。内容次第になるのだけどお願いするかも知れないわ」


「承知した」


 あまり乗り気になれないんだけど、私たちはショタ長の元へ行くことになった。


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