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<3>

 自室に戻った私たちは、荒れ果てた部屋の中で出来るだけ目立たない服に着替えていた。


 その目的は、マッシュの生態調査ね。


 あいにくと王族である私の衣服に地味と言う文字は存在しないらしくて、背丈も似たマリーに服を借りてのお着替えね。


「姫様、いかがですか?」


「そうね、私の服なんじゃないかな、って思うくらいピッタリよ。…………胸以外は」


 恐る恐る視線を下げれば、ぶかぶかに余った布が見える。


 指先で摘まんでみたらミヨンと伸びて、余計に悲しくなった。


 初めからわかっていた話だけど、詰め物をしても埋まらないだなんて、寂しすぎるわね。


「いえ、あの、えっと……」


 頰を赤く染めたマリーが、たわわな胸を隠すように身をよじる。


「申し訳ありません……」


 しょんぼりとした表情で紡がれたのは、謝罪の言葉。

 かわいらしいそんな仕草を見ていると、余計にむなしく感じるわね。


(毎日同じ物を食べてるはずなのに、どこで間違えたのかしら。私の方がいっぱい牛乳飲んでるはずなのに……)


 はぁ……、と心からの息を吐いて、私は彼女に背中を向けた。


「簡易のやつでいいわ。整えてくれるかしら?」


「……かしこまりました」


 おろおろとした声で返事をされて、余った布が背中の方へ引っ張られていく。


 余分な布が見る見るうちに消えていった。


「終わりました。いかがでしょう?」


「うん、大丈夫みたい」


 鏡に映る自分の姿は、どう見ても普通の街娘ね。


 ごまかした布の余りも、お姉ちゃんのおさがりを着ているみたいで、誰も王族だとは思わないでしょ。


 これでもマリーとは同い年なんだけどね……。ぐすん……。


 まぁいいわ! これからに期待よ! 私は大器晩成なんだから! うん! ……うん。


「それで? 本当にマリーもついて来るの?」


「もちろんです。姫様の隣が私の居場所ですから」


「…………わかったわ。ありがとう」


 そうして再び鏡の前に立った私たちは、ヨイショって、息を合わせて、大きな姿見を横にずらした。


 その下から現れたのは、地下へと伸びる緩やかな斜面。

 ヒンヤリとした風が、頰を通り過ぎて行く。


「ここを開くのもひさしぶりね」


「あのときは大変でしたね……」


 この道を見つけたのは5年も前のこと。


 マリーと2人でかくれんぼをしていて、姿見を押しちゃったのよ。


 そしたらいきなり動き出すんですもの。あのときは本当にびっくりしたわ。


「ミリ様、滑りやすくなっておりますので、ご注意を」


「わかったわ」


 ランタンを片手に進むマリーの背中を追いかけて、私も中に入って行った。


 小柄な私たちでも少し狭く感じるような穴をゆっくり進んでいく。


 途中にある分かれ道を右に進めば城下町に出るんだけど、今日の目的地は左側ね。


 そしてとうとう、左側の最奥に到着した。


「マリー、離れててくれるかしら?」


「かしこまりました」


 うやうやしくお辞儀をするマリーの横を通り過ぎて、行き止まりだった壁に手を当てる。


 ヒンヤリとした感触に気を引き締めて、手のひらに魔力を集めた。


 ガコン、と音がして、目の前の壁が横に開いていく。


 ランタンの光をかき消すような強い光が差し込んで、木の葉のざわめきが聞こえて来た。


「マッシュー、来てくれるかしらー?」


「「キュ!」」


 元気な声と共に魔方陣の中から飛び出してきてくれた彼らを先頭に、光の中に飛び出して行く。


 その先にあるのは、人の手が入っていないうっそうとした森。


 頭上すべてが木の葉に覆われて、太陽の光を遮ってしまっている。


 そんな薄暗い場所が今日の目的地。


 さっきも言ったけど、やることはマッシュの生態調査ね。


「さてと、それじゃぁ、スライムを探すわよ? 倒せない敵が出てきたらすぐに逃げるからそのつもりでね?」


「かしこまりました」


「「キュ!」」


 しっかりとした返事をしながらも不安げな表情を浮かべるマリーとは対照的に、マッシュは元気いっぱいみたい。


 スライムを食べればもっと増えるのかしら?

 最初は、そんな疑問からね。


 あまり奥まで進んで迷ってもイヤだから、通路の近くだけにしておこうかなー。


 なんて思っていたんだけど、近くの茂みがガサゴソと動いて、その影から1匹のスライムが飛び出してきた。


「向こうから来てくれるなんて、ツイてるわね。マッシュ、お願い出来るかしら?」


「「キュッ!!」」


 2人がそろって右手を掲げ、スライムを迎撃するために走り始める。


 いつの間に借りたのか、右側を走る子はマリーのナイフを握りしめていた。


「キュ!」 

「キュキュ!」


 初めから役割分担でも決めてあったかのようにスライムの直前で、2体が左右に分かれる。


 走り込んだ勢いをそのままに、頭から突っ込んで行った。


「ギュゥ……」


 断末魔のような鳴き声を上げて、スライムの動きが止まる。

 そのすきを逃すまいと、ナイフがズプリと刺さった。


「良くやったわ。食べちゃって良いわよ」


「きゅ!」


 トドメを刺した子が右手をシュタっとあげて、スライムに食らいつく。


 あの時と同じようにその子が光に包まれて、


「「「キュ!」」」


 合計3体になったマッシュが、楽しそうに鳴いてくれた。


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