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正面から2体来てて、左は2体。右には3体ね。
遠くからもガサガサって聞こえているし、まだまだ増えるのかしら。
えっと……。
「正面に8体、右に12体向かってくれる? 4体で1匹を相手にするの。大丈夫かしら?」
「「「キュ!」」」
作戦って呼ぶには簡単すぎる私の言葉にマッシュたちが、右手をあげてくれた。
剣や盾を傘から取り出して、走ってくれる。
そんな彼らから視線を外して、リリの肩に手を伸ばした。
「目標は左側よ。行けるかしら?」
「大丈夫です! 2体くらいなら!!」
ギュッと杖を握りしめたリリが、祈るように詠唱を紡ぐ。
彼女の足下に魔方陣が広がって、杖に魔力が集まりはじめた。
「盾が得意な子2体で足止めをお願い」
「「きゅ!」」
私の護衛として残っていた中から、2人が左側に駆けてく。
それぞれが受け持つトカゲの前に行って、大きな盾を構えて見せた。
飛びかかってきたトカゲを盾で弾いて、尻尾を避ける。
爪や牙も危なげなく防いでくれた。
攻撃する暇はないみたいだけど、時間を稼ぐだけなら1対1で大丈夫みたい。
そうこうしている間にリリの詠唱が終わり、彼女の周囲に2つの水の玉が浮かんだ。
「えーぃ!」
振り下ろされる杖の動きに合わせて、水の玉が飛んでいく。
はじめはゆっくりとした速度で。それが次第に矢の形に変わって、赤いトカゲを串刺しにする。
衝撃で後ろに飛ばされたトカゲが、大木に体を打ち付けて、崩れ落ちるように地面に倒れた。
「マッシュさん、次はあっちみたいです!」
「キュ!」
次の敵が草陰から姿を見せて、マッシュが飛び出して行く。
「マリー、リリの方が危なくなったら教えて頂戴」
「かしこまりました」
敵の数が増えたらその分マッシュに行って貰えば大丈夫ね。
たくさんのマッシュに任せた前と右も大丈夫そう。
盾を持った子がトカゲの突進を受け止めて、左右から弓を打ち込む。
それでも倒せなかったトカゲを剣や槍の子が仕留めてるみたい。
「姫様。リリさんの方に3体追加で行ってもらいます。正面と右も増え続けていますね」
「わかったわ。お願いね」
「「「キュ!!」」」
1体ずつ確実に倒してはいるのだけど、増える方が早いわね。
マッシュたちは疲れるってことはないんだけど、問題はリリの魔力かしら。
すっごく多いんだけど、無限じゃないのよね……。
「マリー、なにか良い案はあるかしら? このまま増え続けると万が一が怖いわよね?」
「そうですね。一番の問題は視界の悪さだと思われます。木々の影響で敵の発見が遅れがちですね」
「視界の悪さ……。そうね。1度引き下がるのもありかもしれないわ」
そうして現状を分析する間にも、赤いトカゲは増えているのよ。
リリもマッシュたちも今のところは危なげなく見えるけど、数で上回れると危ないわよね。
(マリーの言う通り視界が晴れたら良いんだけど、リリの魔力は出来るだけ温存しなきゃ視界が晴れても意味がないし……)
なんて頭を悩ませていたら、リリが私の顔をのぞき込んで微笑んでくれた。
「ここは私に任せていただけませんか?」
「え……?」
驚く私を尻目に、マリーが胸元に輝くペンダントを外して、手の中に握り込んだ。
そしていつも通りの奇麗な瞳で、私を見てくれた。
「……魔法で、ってこと?」
「はい。ご迷惑をおかけしますが、火種をいただけますか?」
ほんの少しだけ悩んだけど、彼女の意志は硬いみたい。
「……わかったわ。リリ、手を止めてこっちへ。マッシュたちも近くに集まって頂戴」
「はっ、はい!」「「「キュー!」」」
出払っていたみんなが私の方にかけて来る。
その様子を眺めながら、私は指先に魔力を集めて、小さな火を生み出した。
「お借りします」
「えぇ、……無理はダメよ?」
「かしこまりました」
恭しく頭を下げたマリーの手が、私の方に伸びてくる。
小さな炎を両手で包み込んで持ち上げて、マリーがふぅーって息を吹きかけた。
たったそれだけのことで、火の玉が10個に分かれていく。
20個。40個。80個。
周囲に浮かぶ火の玉が、爆発的に増えていった。
「リリさん、1歩だけ横へ!」
「はっ、はい!」
舞っていた火の玉の1つが飛び出して、リリを追いかけていたトカゲに触れる。
――その瞬間、火柱が周囲を明るく照らした。
「えっ?」
「リリ。こっちよ」
「はい! 今行きます!!」
一瞬の出来事に思わず足を止めたリリが、頭を振って走ってくる。
正面や右手に居たトカゲたちも、マリーが生み出した炎に触れて、火柱の中に消えた。
「すごい……」
次々に消えていくトカゲたちを見詰めて、リリが驚きに目を開く。
「魔力の操作だけは人並みに出来ますから。姫様、見張らしも良くしますね?」
「……わかったわ」
火の玉がさらに増えて、近い木から順番に火の手が上がる。
ただ光が強いだけで熱さは感じないんだけど、それは私たちだけみたい。
木々は一瞬にして灰になって、トカゲたちは慌てて距離を取る。
逃げ遅れたトカゲも、木々の火災に巻き込まれた灰になっていた。
「制御の訓練をすれば私のような者でも、このような芸当が出来るようになります。覚えておいて損はありませんよ」
大きく息を吐いたマリーが、ネックレスを付け直して涼しげな笑みを見せる。
何十本もあった木々が消え去って、丸い広間が出来上がっていた。
「すごいです!! マリーさんも魔法使いだったんですね!! けど、私のようなって……?」
遮るものがなくなった日差しを浴びながら、リリが首をかしげる。
そんな彼女のつぶやきを拾って、マリーが寂しそうな笑みを見せた。
「私には魔力はあっても、変換出来ないんです。姫様、後のことはお願い致します」
「えぇ、ありがとう。ゆっくりお眠りなさい」
私がマリーの肩に優しく手を伸ばすと、彼女の体から力が抜けて崩れ落ちた。
何度見ても、この瞬間は嫌なものね……。
「マリーさん!?」
「大丈夫よ。ゆっくりと眠れば目を覚ましてくれるわ。生まれつきの体質なの。魔力量はあっても私の魔法を媒介にしないと執行出来なくて、使うと意識を失うの」
彼女は優秀な魔法の家系の長女なんだけど、その体質のせいで無能呼ばわり。
『無能同士仲良くやれ』って言われて、私のメイドになったのよ。
だけど、魔力の操作に関しては今見たとおり。
嫌な思いもいっぱいしているから魔法をあまり使いたがらないのだけど、きっとリリの教育も兼ねていたんじゃないかしら。
「さてと。見通しの良い場所も出来たし、ここを調査の拠点にしましょうか。マッシュ、1部屋の小さい物で良いから小屋をお願い出来ないかしら?」
「「「きゅぅ!」」」
マリーの体を抱きかかえながら周囲を見渡せば、ノコギリやカンナを傘から取り出したマッシュが頼もしい鳴き声を上げてくれた。
素敵な魔法と、眠るマリーを見て、リリは何を思うのかしら?
その感情が、きっと彼女を強くしてくれるわね。




