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枝の隙間から見え隠れする太陽が傾き始めた頃。
森の中に行って貰ったマッシュたちを呼び戻したんだけど、予想以上に増えてたのよ。
今日の成果は、6体増加の合計12体。
薬草を3本と、魔力の回復に効果のある青いリンゴ3つもあるみたい。
(結局、今日も私の負けね)
なんて思いながら、2体の召喚を解除して、大きな葉っぱの上に載せてもらう。
昨日の5体と比べると私の魔力も増えたのだけど、今のところは10体が限界なのよ。
今日もトレーニングルームに行かなきゃ、マッシュの増えるスピードに追いつかないわね。
「リリ。光の玉をそのまま維持することは出来そう?」
「はい! がんばります!」
そんなマッシュたちと同様に、リリも大きく成長してるわ。
大きさは手のひらくらいにまで縮小出来ていて、継続時間も大幅アップ。
次は動きながらの維持、ってことで、マッシュに乗せてもらっている間も彼女にはがんばってもらう。
(この葉っぱも3人だとちょっとだけ小さいかしら? 10体で頑張ってもらってるけど、持ちにくそうに見えるわよね?)
額に大粒の汗を浮かべながら頑張るリリの隣に腰掛けて、お尻の下で頑張るマッシュに視線を向ける。
専用の荷台でも購入しようか?
いっそのこと、森に住んでしまおうか?
さすがにそこまでは出来なくても、あの森に小さな拠点を造るのもありよね?
「ちょっと思ったんだけど、あの森に家を建てないかしら? ちょっとした休憩所には良いと思わない?」
「そうですね……。良い案だとは思いますが、我々だけでは不安が残ります」
確かにそうね。本で得た知識はあるのだけど、それだけじゃ無理ね。
人手は沢山のマッシュに手伝って貰うにしても、専門家は必要よね……。
「そこはあれかしら、ギルド長に斡旋してもらうとか?」
他に候補もないし、薬草を売りに行った時にでも聞いてみようかしら。
なんて思っていたら、街へ向かう分かれ道を通り過ぎた。
これで残りは半分。
「昨日と比べて早くなったかしら? もうちょっとだから頑張ってね」
「「「きゅ!」」」
足元から聞こえるマッシュたちの声は、普段よりも元気そう。
その代わりに、前方を照らす光の玉が時折いびつに揺れていた。
「部屋についたらケーキと紅茶で休憩ね。リリも一緒にどうかしら?」
「けーき、……いいんですか?」
「もちろん。マリー、リリの分もお願いね?」
「かしこまりました」
ケーキなどの甘みは貴族だけに許された贅沢品。
飴とムチじゃないけど、真面目な彼女へのプレゼントね。
マッシュたちへのご褒美は、魔力のおすそ分けなんだけど、さすがにこの人数相手だと厳しいのよ。
(それにしても、私の魔力が有効に使われる日が来るなんてね。これがうれしい悲鳴って事なのかしら?)
最大量を増やしても意味なんてなかった3日前と比べると、すっごく楽しいわね。
こんな日々がずっと続いてくれたら良いんだけどな……。
なんて、無理な願いをぼんやりと思い浮かべていたら、私の部屋の入り口が見えてきた。
「それじゃ休憩ね。リリはベッドにでも腰掛けててくれるかしら?」
「はわっ! はっ、はひ!」
突然ギクシャクとし始めたリリが、壊れたおもちゃのようにベッドに腰掛ける。
私の部屋の様子に驚いているのか、恐る恐ると言った様子ながらも、彼女の瞳がキョロキョロと周囲を見渡していた。
「ベッド、ふかふか。お姫様の部屋だ」
なんて言葉が、彼女の口から漏れ聞こえてくる。
無能姫である私の部屋は、母違いの兄妹と比べると控え目なんだけど、それでも彼女には刺激が強かったみたい。
そんなリリを尻目に、マッシュたちはテキパキと動き出していた。
テーブルを拭く者、お湯を沸かす者、マリーが切ったケーキを運ぶ者。
「私の仕事のほとんどがなくなりましたね」
あっという間にお茶会の準備が整って、苦笑いを浮かべたマリーが呼びにきてくれる。
扉の前にはナイフを持った2体が警備員のように立っていて、私たちの背後に1体ずつ。
「「「きゅっ!」」」
残りの子たちは敬礼のようなポーズをしたあとで、元の世界に帰って行ってしまった。
「……うちの子たち、ちょっと優秀すぎじゃないかしら? 私はそんなこと教えたりしてないわよ?」
「さすがはマッシュ様、と言う事ですね」
「…………まぁ、そう言うことにしておきましょうか」
なんとも釈然としないけど、優秀なことは良いことよね。
わからないことは1度頭から放り出して、お茶会の席に着く。
「リリ、今日の主役はあなたよ。遠慮なんてしなくて良いんだからね?」
「え? はい……」
戸惑いながらもちょこんと席に座った彼女の前に、背後に控えたマッシュがすかさずナイフとフォークを差し出した。
「えぇっと……」
「大丈夫。そのまま、ガブッといっちまいな」
「はい……」
見よう見まねなのか、幼い手つきでケーキにナイフを入れる。
はむ、って小さな口にクリームを付けながら、リリがケーキを頬張った。
「おいしい……」
「でしょ? どんどん食べちゃって良いからね。明日も魔法の訓練だから、今のうちにいっぱい栄養を確保しとくのよ?」
「はい! がんばります!」
とろけていた笑みも、魔法の訓練と聞いて引き締まる。
結局その日は、ケーキを食べて終了。
眠そうに目をこするリリを私のベッドに引っ張り上げて、一緒に眠ることにした。
マリーのことをずっと姉だと思っていたのだけど、仲の良い妹ってこの子みたいな感じなのかしらね?




