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<11>

 名匠の剣から、売れ残ったパンの耳まで。


 市場が開かれた大通りには物がいっぱいあって、お目当ての逸品を探し求める人たちであふれてた。


 そんな人々の流れに乗って漂う素敵な香りに誘われて、私はフラフラ~って1軒の屋台に吸い込まれていく。


「オジサン、焼きトウモロコシを3本もらえるかしら?」


「へいよっ! ガブッと行っちまいな!」


 なんとも言えない雰囲気のオジサンから熱々の焼きたてを受け取って、マリーとリリーに1本ずつお裾分け。


「私ももらっていいんですか?」


「もちろんよ。ほら、ガブッといっちまいな」


 そして、たあいのない会話で笑い合う。


 青空の下で歩きながら食べるトウモロコシは、城で食べるものよりおいしい気がした。


「なんだか悪いことをしている気分ね。ワクワクするわ」


「すっごくおいしいです」


 温かい日差しに、人々の楽しそうな笑い声。

 隣にはかわいらしくトウモロコシを頰張るリリと、彼女の仕草に目を細めるマリーの姿。


 誰かの悪口が聞こえることもないし、後ろ指を指されることもない。すっごく素敵な空間ね。


「姫様、こちらはいかがですか?」


「そうね、悪くはないわ。それなら下級の貴族に紛れてもばれないでしょ」


 そうして温かい日差しに見守られながら、リリの衣装を選んでいく。


 選考基準は、万が一誰かに見られても平民だとバレなくて、彼女に似合うこと。

 今の私の真逆ね。


「えっ? ……貴族様のような服を着てもいいんですか?」


 なんて言ってリリが目を丸くしていたけど、兵士でもない平民を城にいれたと知られたら大変なことになるのよね。


「問題ないわ。もし誰かに聞かれたら、マリーの妹でメイド見習い、ってことにして欲しいのよ。いいからしら?」


「私がメイド様……、頑張ります!」


 よろしくね、って言いながら、緊張がほぐれてきたように見える彼女の髪をなでてあげた。


 リリほどの魔力があれば私の魔法使いとして登録出来るのだけど、それをしちゃうと貴族たちに知られて、面倒なことになるのよね。


 後々のことを考えると、隠した方が良いと思うのよ。


「リリ、これなんて似合うんじゃないかしら?」


「リリさん、こちらの試着をお願い出来ますか?」


「わっ、こんなに……」


 そんな感じで彼女を着せ替え人形にして、ゆっくりと通りを進んでいく。


 小柄で瞳の大きい彼女は、かわいらしい服が似合うみたい。


 若さがまぶしく見えるわね……。


 リリは相変わらずオドオドとしているけど、ここに来た直後と比較したら笑みも増えたんじゃないかしら?


「マッシュ、これもお願いね」


「キュ!」


 そうして10個目の服が、リリに貸したマッシュの傘の中にしまわれた。


ーーそんなとき、


「ん?」


 不意に彼女の足が止まった。


 彼女の視線の先にあったのは、1軒の魔道具屋。

 軒先に並んだつえに目を奪われているみたいね。


「どれが欲しいの?」


「え? あっ! ごめんなさい!」


 視線を合わせてほほ笑んだけど、大慌てのリリに深々と頭を下げられてしまった。


 私のことは怖いけど、魔道具に興味がある。そんな感じかしら?


(大丈夫。これから、これから……)


 そう自分に言い聞かせて、マリーに視線を向ける。


「昇栄店ですか。悪いうわさは聞かない優良店ですね」


「予算はギルドでもらったお金で足りるかしら?」


「十分かと思われます」


 問題はないみたいね。


「行くわよ」


「えっ、えっ……??」


 キョロキョロと視線をさまよわせるリリの肩を捕まえて、強引に店の中へと引っ張っていった。


 中にいたのは、中年の女性が1人。


「いらっしゃいませー。あらあら、かわいらしい子ねぇ。どうしたの?」


「えっと、あの、……」


 手を合わせてモジモジと彼女が身をよじる。

 

 ほんとにかわいいわね……。


「この子のつえとローブが欲しいのよ。見てもらえるかしら? 予算は小金貨2枚で」


「あれまぁ、見たことのない色の魔力ねぇ。あなたー、仕事よー」


 戸惑うリリの代わりに答えを返すと、真剣な表情で彼女を見詰めた女性が店の奥へと消えていった。


「……良いんですか?」


「もちろん。就職祝いに私からのプレゼントね」


「お祝い……、ありがとうございます!」


 華やいだ笑みを見せたリリが、それまでの戸惑いを忘れるかのように、つえが並ぶコーナーに走っていった。


 死んだ母のようになりたい。


 そう語った彼女はどんな思いで目の前に広がる光景を眺めているのかはわからない。


 だけどその瞳は、年相応の少女らしい輝きを放っているんじゃないかしら。


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