表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隠者の住む里  作者: 直井 倖之進
11/40

第二章 『イッヒ リーベ ディッヒ』①

        

        第二章 『イッヒ リーベ ディッヒ』


 屋敷、との表現が適切な日本家屋の立派な玄関。それを叩いて恭也が叫んだ。

「すみません! どなたか、どなたかいらっしゃいませんか?」

 呼び鈴がないため、こうするしかなかったのだ。

 少し待つと、引き戸の玄関が開いた。

「はい、はい。誰かね?」

 そんなのんびりとした口調で姿を現したのは、白髪の男性。年齢は七十ぐらいで、和服を身に着け、顔に深い皺を刻んだ老紳士だった。

「突然お邪魔してすみません。実は……」

 代表して恭也が事情を説明する。

 すると、男性は、

「では、お前さんたち、里で唯一の出入り口を壊したのか?」

 と困り顔を見せた。

 「里で唯一の出入り口」男性の言葉に出てきたそれが、先ほど見た扉のことなのだと僕にはすぐに分かった。だが、他の四人には何のことだか皆目見当がつかないようだ。

 その証拠に、恭也が尋ねる。

「あの、出入り口とは?」

「お前さんが突き破ったと言った壁のことだ。あれはな、向こうから見たらただの壁だが、こちらからは、トンネルを塞ぐ巨大な門になっているんだ」

「そうだったんですか。知らなかったとはいえ、すみません」

 恭也が頭を下げた。由莉と千春、僕もそれに倣う。

 少し遅れて、僕の陰に身を隠す雅の動く気配がした。どうやら、上がり症の彼女も何とか謝罪したようだ。

 五人から詫びられることになった男性は、そこまでは要求していなかったのだろう、その顔つきを柔和なものに変えて言った。

「まぁ、形ある物はいつか壊れる。仕方がないことだ。それより、お前さんたち濡れ鼠になっているじゃないか。ちょうど空き部屋が二つあるから、そこで体を拭いたらいい」

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」

 こうして、僕たち五人は、男性の招きによりこの立派な屋敷に暫し滞在することとなった。

 男性の名前は、(なる)(たき)(てる)(あき)さん。二十代から七十代まで、二十七人が暮らすこの集落の里長だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ