魔法のアイテム
優香の追求をさらりとかわしてエステルが厨房に戻っていく。そんな彼女に向かって優香が舌を出す。
「エステルちゃん、いけずぅ!」
「いったい、なんの話をしてるんだ?」
話の流れが読めずに僕が訊ねると、優香がとっておきの話を披露する時の顔をした。
「この店はね、知る人ぞ知る、女の子の間では結構有名な店なの」
「まあ、一種の隠れ家的なスポットだしな」
「違うって。そのことじゃなくて、この店のオリジナル雑貨の話。この店のオリジナル雑貨は魔法のアイテムって噂があるの」
「魔法のあいてむぅ?」
「あ、信じてないね? その顔」
「その説明だけで信じれる奴がいたら俺は本気でそいつの頭を心配する」
むーと口を尖らせて、でも気を取り直して優香が説明を続ける。
「この店のオリジナル雑貨を持っている子が不思議な体験をするって話がいくつもあるんだよ。もちろん、全員が全員ってわけじゃないけど、あたしの友だちにも何人かそういう経験をした子がいるの」
「例えば?」
「車に撥ねられそうになった瞬間、気がついたら歩道橋の上に立ってたとか、大事なマグカップを手を滑らせて落としちゃった時に床にぶつかる直前の状態で静止してたとか」
「それ、単にその子が超能力があるってだけじゃなくて?」
「否定はしないよ。でもさ、そういう経験をした子が例外なくこの店のオリジナル雑貨を持ってて、そういう不思議体験があった後、その雑貨が必ず消えてるのも事実なの。……いかにも消費型魔法アイテムって感じじゃない?」
「うーん。もしそんなことがあったら確かに面白いけど、信じられないな。エステルちゃんはなんて?」
「さっきの通り。思わせぶりなことは言うくせに絶対に教えてくれないの。あの子、相当のくせものだわ」
「なるほど」
さっきのやり取りの意味がようやく分かった。でも、エステルのあの態度を見る限り、今の話もあながち根拠のない与太話というわけではないのかもしれない。