1.優香と一緒に選ぶ
「どう? なんかめぼしいのある?」
優香の手元を覗き込みながら声をかけると、優香は困りきった顔で僕を見てきた。
「欲しいのがありすぎて困ってる。だって、全部可愛くてお洒落で素敵なんだもん」
そう言いながら、いくつかのストラップを並べてみせる。
確かに、どれも甲乙つけがたい。
精緻な花模様が描かれた、親指の爪サイズの象嵌細工のストラップ。
涙型に加工され、妖しげに輝く猫目石のストラップ。
クリスタルガラスと金で出来たミニチュアヴァイオリンのストラップ。
黄水晶と紫水晶は半分ずつ混ざった珍しい宝石ボリビアニータのストラップ。
だいたいどれも値段は3000円前後。でも、このクオリティを考えると普通なら安くても2、3万は軽くするだろう。少なくともここに来る前に寄ってきた雑貨屋の相場はそんなとこだった。
正直、優香が欲しいなら二つ、三つ買ってやってもいいのだが、堅実な優香のことだ。絶対に一つだけと言い張るだろう。
「別に一つに絞らなくても、二つ、三つぐらいなら買ってあげるよ?」
と試しに提案してみた。
「うう~……いいっ! ここのストラップは一つ一つが完成されててすごく素敵なんだから、二つも三つもケータイにつけたら下品になっちゃって台無しだし、だからって一つしかつけないのに、いくつも買ってもらうのは悪いもん。絶対にこの中から一つ選ぶんだから!」
ほら、やっぱりね。優香ってこういう奴なんだよな。
なんとなく満足して、優香が納得するまで待つことにした。
何気なく周りを見回して、ブレスレットのコーナーのストラップが一つ紛れ込んでいることに気付く。どうやら、別の客が一旦手に取ったもののやっぱりやめて適当な場所に置いていったものらしい。
しかしそれは、いかにも優香が好きそうなデザインだった。
猫の形に切り出された鋼板に金の象嵌細工が施されて、金色の目の黒猫になっており、それと古めかしいデザインの小さな鍵が一緒になっている。
手に取ると黒猫と鍵がぶつかり合って、チャリと涼しげな音を立てた。
「優香、これなんかどう?」
「え、どれ?」
振り向いた優香は僕の手にしているストラップを見て目を輝かせた。
「そ、それがいいっ!!」