第五話 帰投
や、奴は連合の「白いぶりっ子」!?
―第五話―
帰投。
「ねぇ…これ、私一人で切り抜けるの?」
「そうなりますね…」
「囲まれてるんだけど…」
「安心してください、アマテラスとあなたなら行けます…」
「そう思うんなら、目をそらすなー!!」
「サポートはします!」
「ええい、ままよ!」
楽勝を思った敵兵が、
「よぉ、お嬢ちゃん。その機体俺たちにくれないか?」
「はっ、あんたたちには宝の持ち腐れじゃないの?」
ソフィアはそう挑発すると、機体を急発進させる。
「ぬおっ!」
すばやい動きで一機を切り伏せる。
「すごい…」
威力に驚くソフィア。だが、そこに、
「ソフィアさん! 後ろです!」
「だらぁぁ!」乙女にはあるまじき雄叫びである。
振り向きざまに今度はビームライフルで撃つ。誘爆で三機撃墜。
「この反応速度、自分の体みたい!」
「これが卿のおっしゃっていた、アマテラス…」
敵軍にも動揺が広がりはじめる。
「まとめてかかれぇい! 数で押し切るぞ!」
「ちょっと! どうすんのよ!?」
「ならばこれです! 一度にまとめて複数の敵を攻撃できます! 敵機全てをロックオンして!」
「行っけぇぇ!」
アマテラスに装備されている腰部のビーム砲、腕・背面にあるミサイルなどが全て敵に命中する。
「さすがです! ほんとにできるとは思ってませんでしたよ!」
「はぁ? 一か八かだったの!?」
「僕の目は間違ってなかった、さすがソフィアさん! さぁ、今の内に撤退しましょう。」
「しっかりつかまってなさい!」
こうしてアマテラスはなんとか窮地を脱した。
「リオさん! こちらに向かってくる正体不明機を発見しました!」
「一機だけ?」
「そのようです。」
「…オさ… リア、ん…」
「?」
不明瞭な声がはっきりとしてくる。
「リオさん、マリアさん!」
「ソフィア!? 無事だったのね?」
「はい。リリーは失いましたが。」
「帰ってきてくれてよかった…」
「すみません、御心配をおかけしました。」
「全く、命令違反だぞ!」
「まぁまぁ、マリア。いいじゃない、ちゃんと帰ってきたんだし。」
「リオ! お前は甘いんだ。そんなんだから…」
「あー、はいはい。お説教なら後で聞くわ。エリカ、全軍帰艦するわ。」
「はい!」
「ラーゲット卿! 申し訳ございません。アマテラス強奪に失敗いたしました。」
ラーゲット卿と呼ばれた女が、感情も表さずに、
「そうか。」
「で、ですが、技術が記されているデータを発見いたしました!」
「…ならばよい。下がれ。」
「戦況のご報告がまだ…」
「そうだったな。はじめろ。」
「ルナズ・タイタンの基地はほぼ全てを破壊しました。ですが横槍が入りまして…」
「横槍?」
「ドライ・オデッセウスです。奴らが救援に現れ、我々は敗退しました…」
「ドライ… どこかで聞いたような…」
「『白姫』リオ・グランデ、『騎士戦姫』マリア・レーヴィの艦です。」
「リオ… マリア…」
「ラーゲット卿…?」
「リオ、マリア、そうかお前たちであったか。会いたかったぞ… リベルタ! ヴァルキリー! あははははは! やっと会えるのか。愛しのリオ、マリア… くははははははははは…」
ルナズ・タイタン基地
「リオ殿! マリア殿! このたびは本当に、本当に、感謝してもしきれません!」
オルフェス隊長が額を地面に擦りつけるかのように、リオを拝み倒す。
「いいんですよ、オルフェス隊長。私たちは連合の仲間ですから。」
「なんと、あなたはまさしく女神のごときお方。」
「でもぉ…」
表情が変わったリオ。
「うわ、リオさんすっごい悪い顔してる。」
「よく覚えておけ、エリカ。リオがあの顔をするときはロクでもないことを言う時だ。」
エリカとマリアがひそひそ話を始める。
「リオぉ、あの機体欲しくなっちゃったなぁ…」
「出た。ぶりっ子リオ。」
「うるさいわよ、マリア。」
一瞬だけ素に戻るリオ。
オルフェスは冷や汗を垂らしながら、
「あの機体、とは…?」
「あれれー? とぼけるんですかぁ、隊長? ほら、そこにあるぅ、ルナズ・タイタンが連合軍にナイショで作った、あ・れ・で・す・よ。」
「そ、それだけは、御勘弁を…」
「えぇー。リオ、隊長のために頑張ったんだけどなぁ。でも、ダメならあきらめます… はぁ、隊長さんが命の恩人に機体の一つも譲らないケチな人だとは思わなかったなぁ… 上層部に報告しちゃおうかなぁ。『ルナズ・タイタンは連合軍に秘密でGA作ってました。』って。」
「はぐっ。」
なんだか昔よりリオの性格がゆがんでしまったようだ。
エリカがふと疑問を持つ。
「マリアさん、上層部に内緒でGA作るとどうなるんですか?」
「大量破壊兵器の個人的製造および使用とみなされ、牢屋行きだ。」
「うわ、リオさん、あれじゃ、ただの脅しですよ。」
「な? ロクでもないこと言ってるだろ?」
脅されたオルフェスがビビりながら、
「わ、わかりました。あのGAはどうぞ持って行ってください。」
「えぇ! いいんですかぁ? なんかリオ強制しちゃったみたいで悪いなぁ。じゃあ、遠慮なく持って行きますね!」
屈託のない笑顔である。
「思いっきり強制してましたよね?」
「あぁ、悪人だな。」
「小悪魔って言いなさいよ。あ、あとぉ…」
「ひっ、まだ何か?」
「あの可愛い男の子も連れて行きますね? それでいいかしら、ソフィア?」
いきなり話を振られて驚きつつも、
「え? あ、はい。私はいいですけど。」
「ところでまだ名前聞いてなかったわね。」
リオが少年に近づく
「ぼ、僕はクリス・ダイルハートです。」
「そう、クリス。あなたはどうしたい?」
「僕は… 僕にはアマテラスをソフィアさんに託した責任があります。隊長、今までお世話になりました。」
クリスの決意を見たオルフェスは
「わかった。それが君の決断ならば、私は送り出すだけだ。」
「ありがとうございました、隊長…」
「さて、行きましょうか。」
ドライ・オデッセウス
エリカがクリスをじろじろと見ながら、
「あんた、ほんとによかったの?」
「はい。僕はソフィアさんのそばでサポートしたいんです。」
「ほほぅ。」
「え、エリカさん!?」
「よかったわねぇ、ソフィア。専用機と彼氏をゲットできて。」
「か、彼氏!? そんなんじゃありません! やめてください!」
「このこのぉ、照れるな照れるな。それにしても君可愛いわね…」
「へ? いや、あのその…」
「んー? 顔真っ赤にしちゃってどうしたのかなー?」
「エリカさん! クリスをからかわないでください!」
「あらら、怒られちゃった。お邪魔虫は退散しまーす。」
「まったく、あの人は…」
エリカにからかわれたすぐ後に、リオが走り込んでくる。
「あ! いたいた、ソフィア! 逃げるわよ!」
「え、ちょ、リオさん? 逃げるって何から!?」
ひょいと持ち上げられるソフィア。
「待て、リオ! お? ソフィアも一緒か、ならばちょうどいい。お説教の時間だ!」
「うげぇ! こっち来るな!」
マリアが追いかけてくる。
「お説教!? ほんとだったの?」
「私から逃げられるかな?」三倍速そうだ。
「そこ行き止まりです、リオさん!」
「ふふふ、さぁ、観念するんだな…」
「あ! 空飛ぶシュークリーム!」
「え!? どこだ?」
「今の内よ!」
「あ、こら待て! だましたな!!」
「空飛ぶシュークリームなんてあるわけないじゃない、ばーか、ばーか。」
「…お前は私を怒らせた。今日こそその貧乳、凹ませてやる!」
「やめて! ただでさえ少ないのに、これ以上無くなったらほんとにまな板になっちゃう!」
「もうすでにまな板だ!」
「言ったわね! 巨乳!」
「悪口には聞こえんなぁ!」
退散したはずのエリカが現れ、
「あー、また始まったよ。」
「お二人はいつもあんな感じなんですか?」
「そうよ。『白姫』とか『騎士戦姫』なんて呼ばれて怖い人みたく思われてるけど、実際は姉妹のような二人なのよ。」
「ふふっ、ここは賑やかで楽しいですね。僕本当はすごく緊張してました。先の戦争を終わらせた英雄と一緒の艦にいるなんて信じられなくて。勝手に厳格な方々だと思ってました。」
「私も。この艦のクルーはみんなそうよ。初めのころはぴりぴりした空気だったけど、あの二人がその空気をぶち壊してくれて。ソフィアも表情が柔らかくなったと思うわ。」
「ソフィアさんが?」
「えぇ、あの子、最初は怖い顔してた。なんだか近寄りがたくてね。でもあの二人のケンカを仲裁するのはいつもあの子なのよ。そうしてるうちに普通の女の子のように笑うようになったわ。」
「そうなんですか…」
「あ、今、『僕がソフィアさんの笑顔を守る。』とか考えたでしょ?」
「な、なんでそれが!?」
「あんたたちはお似合いよ。わかりやすくて。」
後方では、ソフィアを武器にした戦いが繰り広げられる。
「喰らえ! ソフィアハンマー!」
「なんの! ソフィアナックル!」
「二人とも私で遊ばないでください!!」
今日もドライ・オデッセウスは賑やかである。