第三話 疑念
また新キャラ
―第三話―
疑念。
「どうしたの、マリア。しかめっ面して。」
いつも以上に気難しい顔のマリアを見たリオが質問する。
「本当に、テス・ラーゲットなのだろうか… あいつとは、最後の最後に分かり合えたと思
っていた。敵ではあるが、かつての仲間だ。生きていてくれて嬉しいとは思うが、再び戦わねばならないとは…」
「今のところはなんとも言えないわ。でもテス・ラーゲットであることには変わりないの。」
「そんな言い方しなくても!」
声を荒げるマリア。
「落ち着いて、私が言っているのは、姿かたちはテスであるということよ。」
「どういうことだ?」
「今再び私たちの前に現れたテスが、私たちが知っているテスだとは限らない。」
「クローンとでも言いたいのか?」
「わからない。でもあの時マリアと分かり合えたテスが、また戦争を吹っかけてくるとは考えにくい。家族だって言ってくれたんでしょ?」
「あぁ。」
「もしかしたら、テスの背後にもっと大きな敵がいるのかもしれない。」
「テスはそいつに利用されているだけなのか?」
「憶測よ。想像の域を超えないわ。」
「姿かたちはテスだが、中身は違う…?」
「とにかく情報が少ないわ。断言はできない。」
「そうだな…」
「ほら、元気出して。ご飯食べに行きましょ?」
「うん…」
そこに通信士が、
「キャプテン、通信が入っています。キャプテン?」
「おい、リオ。」
「え? あぁ、そうか私のことか。キャプテンなんて呼ばれ慣れてなくて… 名前で呼んでくれたほうがいいなぁ…」
かの『白姫』リオ・グランデからお願いされた通信士は戸惑った様子で、
「わ、わかりました。それで通信が。」
「ごめんなさい、そうだったわね。それで誰から?」
「ルナズ・タイタンの隊長からです。」
「うぐぁー、またあいつらか… ったく、マリアついて来て。」
「わかった。」
いかにも面倒くさそうなリオとマリアを見送る通信士。
「リオさんもマリアさんも大変だわ。って、私に何か用かな?」
後ろでこそこそ聞き耳を立てていた人物に向かって、言う。
「あぁ、すみません。私、ソフィア・オーガストっていいます。ひとつ聞いてもいいですか?」
「私はエリカ・ウィンリグルド。よろしくね。私に答えられる質問ならいくらでもどうぞ。」
「ルナズ・タイタンって何ですか?」
「…え、知らないの? まぁ、いいわ。ルナズ・タイタンってのは月出身の軍人部隊。自分たちはエリートであるって信じてやまない奴らのことよ。」
「そうなんですか…」
「気になるなら、こっそり立ち聞きしちゃう?」
「え、でも…」
「いいのいいの、行きましょ。」
リオのオフィス
モニターに写し出された男性と会話するリオ・マリアの二人。
「毎度毎度、ルナズ・タイタンは暇なんですか?」
挑発するように言ったリオだったが、
「何をおっしゃいますやら、我々も忙しいのです。」
画面の向こうの男性には伝わらなかったようだ。
「なら何故こうも頻繁に我が艦に通信を入れてくるのですか?」
「お慕いするあなたとお話しするのは私の密かな楽しみなのです。」
不機嫌そうな口調でマリアが話し出す。
「勤務中にすることではないのでは?」
「これはこれは、マリアさん。申し訳ないが私は、『白姫』リオ・グランデ殿とお話ししております。席を外していただけますかな?」
男性も不機嫌な口調になった。
そこにリオが弁明するように、
「オルフェス隊長、マリアには私のほうから行動を共にしてくれるよう頼んだのです。」
「えぇ、あなたは私の上官ではありません。私はリオの言うことしか聞きません。」
「そうですか。ところで、ネオ・アソシエイトを名乗る者どもが地球連合に反旗を翻そうとしていることはご存じですかな?」
このままでは口論になると思ったのか、オルフェスと呼ばれた男が話題を切り出す。
「もちろんです。でも驚きました、田舎者のあなた方がそのことを知っておられるとは。」
オルフェスに付きまとわれて、マリアをもないがしろにしてくる彼に対し、ついに毒を吐くリオ。
「リオ殿は御冗談がうまいですな。マリアさん、あなた何かご存じ無いのですか?」
「冗談を言ってるつもりは無いわ。ってか、あんたマリアを疑ってるわけ?」
リオはだいぶイライラしているようだ。
そこに追い打ちをかけるオルフェスの一言。
「マリアさんは、以前テス・ラーゲットとともにアソシエイト旅団にその身をおいておられました。疑われても致し方ないのでは?」
「あんたねぇ!」
思わず身を乗り出すリオ。それを抑えながら、マリアが、
「いい、リオ。オルフェス隊長、私は何も知りません。御心配なく。」
「それはよかった。『騎士戦姫』に寝返られたら、連合はひとたまりもありませんからな。」
「いい加減にしなさいよ! マリアはそんなこと絶対しない!」
「言いすぎましたかな、申し訳ない。それと、月周辺は我々ルナズ・タイタンの縄張りですので、くれぐれも横槍を入れないようにお願いいたします。それでは、我が麗しの姫君。」
通信が切れる。
「あの野郎、言うに事欠いてマリアを侮辱しやがってぇ。」
「リオ、言葉が汚いぞ。」
「そんなのどうでもいいわよ! 悔しくないの?」
「悔しくないと言えば嘘になるが、私が未だにテスと接点があると思われても仕方ない。」
寂しげな表情を見せたマリアに、
「…おいで、マリア。」
「たまにはリオの薄い胸も役に立つんだな。ん、意外に柔らかい…」
「薄いとか言わないの、よしよし。私はマリアの味方だからね?」
「…ありがとう。」
すぐさま再び通信が入る。
「のわっ! びっくりしたぁ。今度は誰よ?」
「よぉ、お二人さん。相変わらずイチャついてるのか?」
「ライアンか、全くびっくりさせないでよ。」
前の戦争でともに行動した、開発・整備のライアン・レインである。
「ひさしぶりだな、ライアン。まさしく今いちゃいちゃしていた。貴様の邪魔さえ入らなければ…」
マリアの憎しみのこもった視線がライアンに向かう。
「わ、悪かったよ。お前らに頼まれていた機体の件なんとかなりそうだ。」
「やった! 待ちくたびれたわよ。」
「仕方ないだろ。確かに俺はヴュアル・ユニットを作ったが、リベルタ本体はすっげぇ複雑で元のクオリティーを再現するのにも一苦労だってのに、それをもっと強化しろだなんて。ヴァルキリーに至っては俺は全く知識が無くて… 頑張った、俺…」
「それで? いつ納品してくれるの?」
「まぁ、焦るな。近々な? それと、これは上層部から後日お達しがあると思うが、リベルタ、ヴァルキリーの量産型も試験的に運用することになった。量産型だからオリジナルほどの性能はないがな。そこでお前らの艦に先行して配備される。呼び名は、えーと…」
「リスタート・リベルタ。略称リリー。」
「リスタート・ヴァルキリー。略称リヴァー。」
「てめぇらで決めてるならそれでいいよ。ま、ちゅーこってよろしく頼むわ。」
通信を終わろうとした彼を、
「ありがとう、ライアン。ところで、イザベラとはどうなの?」
「私も気になっていた。どうなんだ? ん?」
「べ、別になんにも無ぇよ! じゃあな!」
「照れちゃって、慌てて切ったわよ、あいつ。」
「そうだな、にしても意外だな。」
「そう? あの二人お似合いじゃない? まぁ、イザベラが開発局に異動になったのは驚いたけど。」
「異動になっただけましじゃないか。ほんとあの時はどうなることかと思ったが。」
「そうね、イザベラも熱いところがあるから。さて、盗み聞きはよくないわよ、お二人さん?」
いつから気付いていたのか、リオの感覚は鋭い。
「君はさっきの… それとソフィア?」
「はい! エリカ・ウィンリグルドです。すみません。」
「別に怒ってないわ。二人はどう思う?」
「わ、私はオルフェス隊長はあんまり好きじゃありません…」
予想していた質問に対する答えではなかったことに、微笑ましくなったリオ。
「ふふっ、私たちもよ。あんなへなちょこ男、こっちからお断りよ。」
神妙な面持ちのソフィアが歩み出る。
「リオさん、マリアさん、私をリリーかリヴァーに乗せてください。」
「全部聞かれてたみたいだな、どうするリオ?」
「そうねぇ、考えておくわ。」
「だそうだ。二人とも戻っていいぞ。」
「はい、失礼します。」
「…」
オフィスを後にするソフィアとエリカ
「エリカさん、私、戦う力が欲しいんです。」
「どうしたのよ、いきなり。」
「いえ、なんでもありません。気にしないでください。」
「そう… じゃあ、私持ち場に戻るから。」
「え? パイロットじゃないんですか?」
「言ってなかったっけ? 私は通信部門の人間なのよ。」
「そうだったんですか、じゃあまた。」
「あの子、何かあったのかしら…?」