4-リジェンダ 中編
今回はリジェンダ視点です。
アーガネルト家の食卓で、4人の人間が席についている。
現アーガネルト家当主、大魔道師のギュンター=アーガネルト様。
その妻、イルマ=アーガネルト様
私の父さんでギュンター様の護衛の、カイン=サイブール。
そして私、リジェンダ=サイブール。
この食卓の食事は私からすればとても豪華。ギュンター様がこの機会のために奮発したとか。
今日はとても大事な話あるらしい。
たぶん、エルゲン様のことだと思う。
だから、今はエルゲン様とケイトさんがいないのだろう。
エルゲン様はギュンター様のご子息、アーガネルト家の長男。
3歳で栗毛の可愛い男の子。私は将来は彼の護衛となるべく、この家で護衛見習いをしてる。
「遠慮なく食べてくれ」
ギュンター様の言葉を合図に、私達は食事に手をつける。
「ギュンター殿とこうして食事するのは久々ですな」
「そうだな……」
ギュンター様は家を開けていることが多かった。
それに私と父さんは夕食は自分達の家で食べてしまう。
昼食等はギュンター様の家で食べるのだけど、その時にギュンター様がいることはほとんどない。
あったとしてもすぐに外にでてしまっていた。
これはギュンター様の仕事のためだ。ギュンター様の仕事は責任が大きく、ギュンター様なしでは進まないらしい。
具体的な内容は私は知らないけど。
「エルゲンの事は、お前達、それにケイトに任せきりですまないと思う。同時に感謝している。特にリジェンダちゃん、エルゲンとは特に仲がいいようだな。騎士学校で忙しくなるだろうが、今後もよろしく頼む」
「は、はい。ギュンター様!」
どうしても緊張してしまう。ギュンター様は公爵家当主。
しかも王家筋なのだ。
そんなこと言ったらエルゲン様もそうなんだけど、エルゲン様は小さいし、長い時間一緒にいるから大丈夫だった。
「さて、今日呼び出した用件だが」
食事も終わったところでギュンター様は切り出した。
「まずは、カイン、リジェンダちゃん、エルゲンについて聞かせてくれないか?」
やっぱりエルゲン様のことだった。
私は言われたとおりエルゲン様について話していく。
絵本を読んであげたこと、それでどんどん言葉が上手になっていたこと。
自分で本を読み始めたこと。
それも完全にはわからなかったらしく、内容を所どころ教えてあげたこと。
庭で魔法の練習をしたこと。
エルゲン様から魔法や一般知識について教えてもらったこともあった。
最近では色々な魔法を使える、私なんて魔法は全然なのに。
ギュンター様との直接話をしたことは少ないので、この機会にあれこれと喋っちゃった。
「私やリジェンダは魔法に対して、そう詳しくはありません。それでも彼が既に相当の技量を持っているのはたしかです。術力にして熟段は確実でしょう」
「魔法の習得はほとんど独学なのに、すごいですよね」
「私からすれば言語の習得のほうが凄まじく見えるがな。いや、リジェンダちゃんの教えが上手かったのかな?」
そう思うのは、やっぱりギュンター様が大魔道師からなのかな。
「そんなことはありません、エルゲン様の才によるものです」
多少はお手伝いできていると思うけど。
やっぱりエルゲン様の力の方がずっと大きかったと思う。
実際はリジェンダはエルゲンの言語習得にかなりの貢献をしていたのだが、本人は過小評価気味だった。
「さて、だがエルゲンにはどうやら一つ欠点があるらしいな」
「ですな」
「そう、ですね」
私と父さんは失礼ながらも頷く。
エルゲン様はすごい人。私よりもずっと小さいのに、たくさん勉強して、魔法をがんばって。
でも私も父さんも認める欠点があった。それは口の悪さ。
「エルゲンには実力もあるのです。私達が平民であればそこまで気に留めることもないのですが」
ここでイルマ様が話し始める。
エルゲン様のお母さん。でも今の今まで口をだしてなかった。
なんだろう、この感じ。
わからないけど、ちょっと嫌だな。
「公爵家の長男である以上、そうも言ってられません。あの子が5歳になれば”顔合わせ”もありますしね」
顔合わせっていうのは、有力貴族の子供達の紹介パーティーみたいなもの。
そこであの口調はちょっとまずい気がする、かなぁ。
私は参加したことないけど。
「ごめんなさい・・・・・・」
エルゲン様が言葉を覚えたとき、最も近くにいたのは私だとおもう。
だから、今の状況に罪悪感がある、かな。
「リジェンダちゃんの責任ではない。むしろ悪いのは私達だ。満足にあの子に接してやらなかった」
「それはしかたありません、事は人族全てに発展しかねませんからな」
「そういってくれると助かる。お前達にはさらなる迷惑をかけてしまうが、エルゲンの言葉を改善させる案はあるか?」
「口というより性格、じゃないかな・・・・・・」
ギュンター様の性格に問題があるなんて、本当はいけないんだけど・・・・・・。
つい、ぼそりと、言っちゃった。
「たしかに、リジェンダちゃんと一緒に言葉を覚えたのならば自然にああなったわけではないだろう」
「性根の問題と。しかしそうなると事は言葉直しよりも困難ですな」
父さん、割とエルゲン様に失礼な気がする。
でも言っていることは確かだった。
言葉だけならたぶん、私が教えてあげればなんとかなる、と思う。
でも性格っていうのは私でもどうかえたらいいからわからない。
「私にできるのは武芸の指導ぐらいですが。打ち込むことで改善されるかもしれません」
父さんが提案するけど、私はそうは思わなかった。
「エルゲン様なら断固拒否するか、以外とすんなり打ち込んじゃうかも」
「たしかに・・・・・・」
エルゲン様って別に努力しないわけじゃないんだ。
じゃなかったらあそこまでの魔法は使えないし、私が絵本を読むのも熱心に聞いてくれた。
あれで分別もある子で、必要な事はきっちりとこなしている。
武道に打ち込んでも、あの性格のまま普通にこなしちゃいそう。
「では、外に出てみたらどうでしょう?」
「どういうことだ?イルマ」
「考えてみればあの子は身内としか交流をしていません。外部の人間と交流してみれば。自身の口の悪さを自覚できる可能性があります」
「それはいい案ですな」
「そうですね」
イルマ様の案に、私と父さんも賛成する。
思えばエルゲン様ってずっと屋敷に篭りっぱなしなんだよね。
もう3歳になってるんだもん。ちょっとぐらいは街で遊びたいよね。
「わかった。武芸の指導も頼む。今回の事とは別に、武芸は身につけなければならん。貴族の見栄ではあるがな。街へ出る時間と共に、剣も教え始めてほしい」
「「わかりました」」
私と父さんは息をそろえて返事をした。
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入学祝いとして私に送る剣を買う。よかったら一緒に行きませんか?
そう父さんが武器屋へエルゲン様をさそうと、二つ返事で了承してくた。
どうも武器や武芸には興味があるみたい、これはやっぱり武道訓練をしてもダメかなぁ。
とにかく、私と父さん、そしてエルゲン様の三人は東区の職人街にある武器屋に来ていた。
ちなみにエルゲン様の屋敷は中央区の貴族街、私の家は同じく中央区だけど、貴族街の外側にある上流街にある。
「いらっしゃい、お、カインか。その子は?」
武器屋の主人は私の事は知っている。
つまりその子とはエルゲン様を指し、父さんはエルゲン様を紹介する。
「こちらはエルゲン=アーガネルト様。ギュンター様のご子息だ」
「ああ、大魔道師様の」
ギュンター様は大魔道師として貴族以外の人たちからも一定の人気があった。
武器屋の主人さんも、ギュンター様のご子息であるエルゲン様には好意的な表情を向ける。
でもエルゲン様は予想通り主人に顔も合わせなかった!
しばらく店内を眺めてから、やっと武器屋の主人の顔を見て、言い放った。
「おい貴様。この店には今飾ってある武器しかないのか?」
すごい。もう純粋にそう思ってしまった。
初めての外出、初めてのお店、それでこの態度。
少なくとも私は真似できそうにない。
「え、ああ。売り物はそうだ・・・・・・。柄のストックとか特殊な剣の見本品は後ろにある」
これでエルゲン様が成人男性であったりしたのならば、店主も怒鳴りつけたのかもしれない。
でもエルゲン様は3歳の、子供、ついでに見た目もかわいらしい。
だから店主さんはたじろきながら、ただ質問に答えるだけだった。
「随分と細い剣が多いな。この店の特徴か?」
「いや、王国はこんなものだろう。硬剣法が浸透してるからな。帝国あたりにはもっと肉厚の剣が多い。さっきいった倉庫に一応そういうのもあるが」
「この緑の刀身はなんだ?」
エルゲン様はたまに歳相応の部分を見せる事があったりする。
今回も、普通の人ならば知っていて当然のものを聞いている。
こういうところでエルゲン様が3歳ってことを思いだすなぁ。
「これは翠魔金だね」
「翠魔金?」
「翠魔金ってのは王国で採れる希少な金属だよ。武器の材料としては加工がえらくやりにくいんだが、これを使った武器は魔力を溜めることができる」
「魔力を溜める・・・・・・純骸のようにか?」
あ、純骸の事はしっているんだ。
エルゲン様はどうも知識に偏りがある気がする。
「ああ、そうだ。純骸に比べれば軽く、刀身自体が効果をもってるからかさばらない。効果も純骸と同じ程度はあるぞ」
「一般的なこの店で扱う武器はどんな素材で作っている?」
「基本はグルド鋼、一部はベイス鋼も使っているのもある」
「その鋼について教えろ」
そしてエルゲン様は私や父さんをそっちのけで店主さんと長話を始めてしまった。
「一応、私の剣を買うために来たんだよね・・・・・・?」
「お、恐らくはそのための基礎知識を聞いているのだろう」
父さんがフォローしてくれるけど、確実に眼中に入ってないよね。
「でも、エルゲン様。普通に話してるね」
「毒はあるが聞いてることにおかしな事はないし、店主の礼儀に煩くない性質もあるだろう。それにエルゲン様には・・・・・・いや、なんでもない」
「?」
父さんもエルゲン様を見ながら考え事に入っちゃったみたい。
・・・・・・別に私が主役だと思ってたわけじゃないけど、ちょっと寂しい。
そんな感じで時間が過ぎて私は頭の中で感情を回していた。
ぼーっと、そんな事をしている私に声がかかる。
「これはどうだ?」
翠魔金の、反りの小さいサーベルを手にエルゲン様は言った。
「え?」
突然の事につい、そんな声を出してしまった。
「何をほうけている」
「ご、ごめんなさい」
「それで、こいつはどう思う、何度も言わせるなよ」
「あ、ああ、はい。いい剣だと思います」
「では店主、これを買おう」
「毎度あり!へへ、あんたもいい所があるじゃないか」
「元々そういう名目でここに来たのだ。本懐を果たしているにすぎない。それと、金を払うのはそこの男だ」
そうした店主さんとエルゲン様の会話。
そして私とエルゲン様のやりとりで気づいた。
これって、もしかして。
サーベルを受け取ったエルゲン様はそれを手に持ち、おそらくは魔力を込めているのだろう。
少しして、仄かに刀身が輝く。
「受け取るがいい」
そう言って、エルゲン様はサーベルを差し出してくれた。
私はそれを陶器であるかのように受け取る。
ごめんなさい。剣の事、忘れてるかと思って疑っちゃって。
そしてありがとうございます。
でも、口の悪さは治りそうにないなぁ。