3-リジェンダ 前編
区切りの関係上、今回は非常に短いです
屋敷にいる人物の中で、最も親しい人はだれか?
そんな質問をされたら真っ先に返すのがリジェンダだった。
年齢はエルゲンより7歳ほど上、やや短めの銀髪をした少女。
エルゲンの言語習得に役立った存在だ。
現在は護衛の男に稽古を受け、時には勉学に、何故か俺なりの隣で励む。
どうにも俺と接触するのも彼女の義務らしい。
彼女が稽古を受ける庭で、俺も魔術鍛錬を行っているがよく話しかけてくる。
当然、勉学時にもだ。
実の所、彼女は屋敷の住人というわけではない。
基本的には夕食前に彼女は屋敷をでていき、朝になれば屋敷にやってくるのだ。
これは護衛の男――彼女の父もそうであり、恐らくはリジェンダ達自身の家に帰っているのだろう。
たまに帰るのが夕食後になったり、屋敷に止まりこむ場合もある。
それでも一日の半分以上は屋敷にいる。そしてその時間のほとんどは俺と一緒にいた。
このように家族でないにも関わらず俺と親しい仲の彼女。
屋敷での立場は護衛見習い。
将来は、おそらくアーガネルト家に仕えるのだろう。
エルゲンが3歳になって少しの時。
いつもの庭で、そんなリジェンダの生活に関する話をしていた。
「エルゲン様。もうすぐ私は王国の騎士学校に入りますので、今までみたいに会えなくなるかもしれません。でもご安心を!時間がとれればなるべく会いにきますし、私のエルゲン様への忠誠も変わりません!」
「学校だと?」
リジェンダの言のほとんどはどうでもよいことだが、その2文字は気になった。
その知識は俺にはない。もちろん学校というもの自体は知っているし、この世界にも存在することも知っている。
だが王国に、それも騎士学校などというものがあるのは知らぬことだった。
「はい、王立の騎士学校です。私が入るのは近衛特科ですね。エルゲン様も興味がおありですか?」
察しよく、必要なことをべらべら垂れ流す舌はリジェンダの役立つポイントの一つだ。
「ああ。その騎士学校とやらの話、聞かせるがいい」
彼女によれば、騎士学校とやらは名前のとおり騎士を養成するための学校。
近衛特科の他に通常の近衛科もあり、戦場に立つことを前提にした科や、将校を目指す科等も存在する。
近衛特科では貴族の護衛、その中でも筆頭、お付の護衛を目指すべく、護衛としての能力の他、貴族的な教養も叩き込まれるらしい。
在籍帰還は学科によりまちまちで、近衛特科では5年だ。
入学には試験の合格が必要だが、彼女は既に通過しているらしい。
試験内容は主に実技。
さすがに毎日訓練しているだけあって、最低限の技術は持っているようで、試験は難なく突破したらしい。
「5年間、エルゲン様の立派な騎士になれるように頑張りますね!」
既にわかっていたことだが、卒業後は俺に仕えるらしい。
「せいぜい努力するがいい。今のままでは、俺の護衛には到底見合わんからな」
「・・・・・・やはり私はエルゲン様に相応しくないのでしょうか?」
一瞬でその表情が落ち込む。
「今のままではな。だからこそ学校に入るのだろうが。既に俺に見合う力量を兼ね備えているならば学校など、行く必要はない」
実際、リジェンダは俺からみて強いとは言えない。
俺は現代においてはそれなりに、格闘術というものを嗜んでいた。
武器の有無を考慮しても、現代の俺と戦えばリジェンダが敗北の苦渋を舐めることになる。
それはリジェンダが女であり、まだ10歳手前と考えればしかたないのない事ではあるが。
「はい!」
俺のフォローに、落ち込んでいたはずの彼女は満面の笑みを浮かべて応えた。
この扱いやすさも美点だ。
「貴様、俺の護衛になるつもりだが。本当に俺などに忠義立てしてもいいのか?」
ここまで悪辣な言動をする3歳児など、そうはいまい。
普通なら忌避しようものだが、彼女は迷うことなく答える。
「はい、エルゲン様はご立派です。それに、私も父のようになりたいんです」
父、護衛の男か。
彼女は自身の親とはうまくいっているらしい。
護衛の男が彼女を鍛えているが、それに彼女は不満の1つも漏らさない。
そして、このように純粋な父親への尊敬の念を持っている。
その父の護衛対象の息子、それだけで彼女にとっては仕える意味があるのかもしれない。
そして俺を立派と謳う理由は魔法か。
俺は魔法の力量をメキメキと上げていた。
彼女は魔法が使えず、護衛の男が魔法を使っている事も見たことがない。
俺が魔法を使うたびに、彼女はキラキラとした表情を浮かべていた。
子供故か、彼女は自身にできない事を幼少の俺ができることに、純粋な尊敬の念を抱いているらしい。
護衛の男も俺の魔法の力量は認めていた。
俺は自身の魔法の技量がどのぐらいのものなか、正確には理解できていない。
術力等級的には熟段にはなっているはずだが、それが世間でどのような評価をされているかがわからないのだ。
だが彼女にとって、俺は立派な魔法使いなのだろう。
「そうか、ならばいい」
仕えると、忠誠を尽くすというのならあえて拒むこともない。
護衛の男とリジェンダから武器屋に行くことを提案されたのは、そんな雑談をしてから少し経ったある日の事だった。