表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪党転生  作者: えこーと
プロローグ
2/26

2-魔法

 言語をある程度習得してからも、エルゲンは書斎にこもっていた。

 今度は言語目的ではなく、今俺がおかれている世界について理解するためだ。

 この世界は司央がもといた地球ではない。

 いわゆる異世界という奴だ。


 この世界は3つの大陸で構成されている。

 西の大陸、東の大陸、南の大陸だ。

 俺がいるのは西の大陸のベイス王国という国。

 西の大陸には国家が4つあるが、ベイス王国は国土は最も小さい。

 しかし国の発達は、西の大陸最大の国家である帝国に引けをとらないらしい。


 文明レベルは中世地球に近いが厳密には違う。

 それは地球にはない技術、魔法がるからだ。

 この魔法がなす技術は、現代の地球ですら再現できないものもある。

 例えば転移系の魔法がこれにあたる。


 次に種族。この世界には人間以外の知的生命体が存在する。

 それもかなりの種類にがあり、種族間の差異も大きい。

 例えば樹添種は大まかな見た目こそ人に近いが、寿命が長く、光合成が可能。

 さらに緑葉翼という器官を持っており、耳が尖っているという特徴がある。

 他にも水人族や、貴晶族など、あきらかに人間とは異質な存在もいる。これら人型の知的生命体はまとめて人族と称される。後述の魔族を除いて、だが。


 実のところ魔族については本を読んでもよくわからない。

 魔族は主に東の大陸に生息しており、他の種族に対して敵対的な種族らしい。この魔族も人族と同じく、知的生命体であり、人型をしている。一方で人族とは明確に区分わけがなされているのだ。

 魔族とそれ以外の知的生命体、この世界で人族と言われる者達との明確な差異は分からない。

 魔族と人族、その差は一体なんなのだろうか?

 最も、エルゲンはまだ言語が完璧という分けではない。

 魔族に対して理解しきれていないのも、それが原因という可能性もある。


 そして、今のところエルゲンが最も興味を持っているのは魔法だ。

 魔法は体内の魔力を使い、超自然的な現象をおこす術。

 いわゆるファンタジーの魔法とほとんど相違ない。

 火をだす、水を凍らす、風を起こし、大地を隆起させる、などなど。

 魔法技術は意外と詳しく体系化されており、魔術師のランク付けも存在する。


 魔法使いの階級分類は魔力、導力、術力の三要素で別個に行われる。

 魔力はどれだけ魔法を使えるか、導力は一度の魔法に込められる力の大きさ、術力は魔法の熟練具合を示す。

 RPG的にいってしまえば魔力とはMPであり、導力はINT、術力はどれだけ高度な魔法を使えるかである。つまり魔法の技術の度合いだ。

 これら3つを全て、場合によっては一部を使って魔法使いの階級が決められる。

 この時、魔力は位、導力は級、術力は段によって分類される。

 3つ全て使って表す場合は○位○級○段と表現され、例えば子位低級未段といった感じになる。

 ちなみにこの例の位低級未段は、全てにおいて最低の魔法使い――より正確には魔法使いの資質が最低な一般人である。

 これにより魔力は多いが高威力の魔法が使えないものや、魔力は強いが高位魔法が使えない者も分類できる。

 ちなみに、魔法が使えない人族は存在しないらしい。

 また記述的にやっかいな事柄が存在する。既に気づいているかもしれないが、魔力には二つの意味が存在するのだ。

 一つは魔法使いの等級わけでも使われている。魔法をどれぐらい多く使えるかの度合い。そして魔法に使われるある種のエネルギーを指し示す意味での魔力だ。

 さきほど、魔力をMPとして例えた。この問題は人の能力としての最大MPも、人が現在蓄えている現在MPも、同じMPと呼称するのによく似ている。


--------------------


 一通りこの世界の基本を学んだエルゲンは、やはり魔法を学ぶことを選んだ。

 その理由には興味もあるが、単純に便利であったからだ。

 特に治癒の魔法などは現代社会においてもそれだけで食っていけるだろう。

 職業としての魔法使いをするかはわからない、だが使えて損になることはないはずだ。


 まずは書斎にある魔法の文献を漁り、頭に叩き込む。

 そして一通り魔法の知識を得たエルゲンは、実践のために場所を移していた。

 最初に目標とする魔法は火を起こす魔法だからだ。

 書斎で練習するわけにはいかない。

 家に迷惑がかかろうが構いはしないが、本という今のエルゲンに必要なものが消滅しては困るのだ。


 ボッ


 手のひらから小さな火がおこり、すぐに消える。


「たわいないな」


 最初は成果はさほど期待していなかった。

 その理由は、魔法などというものがそうやすやすとは使えないだろうという思い込み、そして魔法の補助となる道具を一切使っていないという不安要素だ。

 その道具とは杖であり、なければ魔法の威力が大幅に下がり、使用できる術も制限されるらしい。

 だが魔法の詠唱をすること5回。あっけなく魔法は発動した。

 それが今使った初歩中の初歩の魔法、《接発火》だ。


 魔法の詠唱はファンタジーでよくある意味のある呪文ではない。

 この世界の詠唱の目的は呼吸と発声によって魔力をコントロールすることだ。

 ちょっとした裏技みたいなもので、魔力の操作を身体の動作を使って行う。

 そのために詠唱は、呼吸やイントネーションまで細かく決められている。

 そして長い。4回の失敗も単純な詠唱ミスが原因だ。

 実践的ではないが、初心者が魔法の感覚を掴むのには良い方法。

 それがこの世界での詠唱魔法だった。

 例えるならば腹式呼吸を行ないたいならば、過度に息を吐くと自然と複式呼吸になっている事に似ているだろうか。


 決められたとおりの発声をしただけでいともたやすく魔法が発動した。

 その事実に達成感よりは、こんなに簡単に・・・・・・といった具合に肩透かしを食らっていた。


「エルゲン様!今のって魔法ですよね、調べているのは知っていましたが、こんなに早く習得するなんて!すごいです!」


 リジェンダが駆け寄ってくる。

 庭にでて初めて知ったことだが、リジェンダはエルゲンを看ていない時は庭で訓練をしていたらしい。

 そしてその訓練相手が、護衛の男だった。

 彼はリジェンダのように明るい雰囲気をまとってはおらず、ただただこの事態に驚愕していた。


「杖もなしで、この歳で魔法を習得とはさすがは・・・・・・」


 自身の感想としては大したものではなかった。

 しかし考えてみればエルゲンはまだ1歳とそこら。

 たしかにこの年齢では、詠唱は難しいのだろう。


「あまり騒ぐな、まだ俺もお前も訓練を始めたばかりだろう」


 修練中にずかずかと入り込むリジェンダを抑える。


「は、はいっ!エルゲン様に相応しい者になるためにも精一杯がんばりますね!」


「ははは、これは訓練にも本腰を入れていかないとな」


 二人は訓練に戻っていく。

 エルゲンの年齢を考えれば時間はたっぷりとあるはずだ。

 だが、だからといって時間を無駄にして良いことはない。


(転生の影響も全くないとは言い切れんしな)


 この世界の人間の平均年齢は80歳らしい。

 つまり転生前、司央の世界の人間と大差ない。

 同時に、エルゲンのように別の世界の人間の記憶を持ち合わせているという話もしらない。

 というかそのような人間がごろごろと言えば、この世界の文明レベルはもっと上のはずだ。

 俺は、俺自身の事もよくわかっていないのだ。


 ボッ


 再び俺は魔法で火を出現させる。

 今度は詠唱を使わず、魔力を練り上げて魔法を発動させる。



 ボッ


 この無詠唱発動もすぐに成功した。


「たわいないな」


 最初に詠唱で魔法を発動させてから時間はほとんど経っていない。

 こうして俺は、あっさりと魔法が使えるようになった。


 魔法使いは魔力、導力、術力の三要素で等級分けされる、というのは前述した通り。

 俺は三要素のうちの魔力と導力を頭から追い出した。

 スタミナや筋力のようにこういうものは日々に積み重ねに過ぎないし、現状では計測のしようがなかった。

 というのも魔力と導力を調べるには熟練の魔法使いが必要なのだ。加えて精密に調べるには機材も用意しなければならない。

 非常に大雑把でいいのならば、全力で魔法を使ってその効果から予測する方法もある。

 しかしそれで万一事故でも発生し、俺自身に降りかかった場合は目もあてられない。


 故に俺は魔法習得にあたり、術力を磨くことにした。

 術力の等級には未段、使段、序段、初段、継段、熟段、練段、至段、究段、頭段、玉段が存在する。

 後ろに行くほどに魔法の練度が高く、練段まではかなり明確でわかりやすい基準がある。

 そのために自身で術力の判断ができるのだ。

 術力等級において未段とは非魔法使いのことを指す、次の使段は魔法が最低限使えることを意味する。

 エルゲンは《接発火》を使用した時点で実力的に使段となっている。

 次は序段を目指すわけだが、序段の条件はさすがに使えれば良しの使段とはわけが違う。

 序段の条件は、主に魔法で遠距離を攻撃するための数種の技法と、火以外に二つの属性の魔法の習得だ。


 序段へ至るまでには予想外に時間が掛かった。

 まず呪文の詠唱だが、序段の魔法からは詠唱というより経となっていた。

 一つ一つ、覚えるのにも唱えるのにも時間がかかる。

 実戦での詠唱はまず不可能だろう。

 それでも一つや二つの詠唱で済めばまだよかった。

 序段に至るための魔法を全て詠唱発動可能になるには二桁に上る詠唱を覚えなければならなかった。

 魔法の簡単な習得は、詠唱発動して魔法の感覚を掴んでから無詠唱発動に移行するというものだ。

 しかし今回は数個の詠唱発動をためしたあとは、無詠唱での習得を試みた。

 序段の詠唱発動は実戦でまるで役立たずであり、そのくせ時間をくうというのが理由の一つ。

 もう一つは、序段で詠唱がこれほど長く複雑ならば無詠唱からの習得は今後必須と考えたからだ。

 だが無詠唱からの魔法習得というのは簡単ではなかった。

 魔力を練って構成するのが無詠唱発動。しかし魔力は粘土のように目に見えるものではない。

 試行錯誤の繰り返しだった。

 エルゲンが序段になるのは1ヶ月ほどかかった。


 しかしここからさらに予想外が続いた。

 先ほどと違い、今度は良いことだ。

 一度無詠唱からの習得を覚えてしまえば、その後の習得は驚くほどに早くなったのだ。

 魔力の構成に対する結果が経験則からわかってしまえば、その後は計算と組み合わせにすぎない。

 現代世界においては計算など腐るほどやってきた。

 あとは正確に魔力を編みこむのみ。


 そこからは特にかく魔法三昧、訓練三昧の日々だ。

 そうして庭で魔法の修練を続け、エルゲンが3歳になった頃、既に彼は熟段レベルの魔法を使えるようになっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ