紅眼の死神
―――俺は気づけば、初期街のポータルゲートにいた。
(どうやら死亡し、蘇生したらしいな…)
周りを見渡し、誰もいないことを確認しながら
「修行って…いきなり不意打ちで刺し殺すことが修行なのかよ…?!」
「…これも君が強くなるためだよ」
すっと麻里奈が現れた。
「んなぁぁぁ?!!」
腰を抜かしたのと同時に、デジャヴした。
(前にも同じようなことあったよな…)
「暗殺するためには、暗殺される側にもなってみた方がわかりやすいでしょう?
いざ戦いになり、顔が知れてしまえばターゲットになる場合もあるの。」
「なるほど…ってそれがいきなり初心者を
ぶち転がしていい理由にはならない気がするんですが?!麻里奈さん?!」
「ふふっ、つい…ね?実践から交えたほうが成長も早いでしょう?」
(…笑顔が怖い。)
「ただ現状ではレベル差もそうだけれど、
裝備や知識の部分でも到底訓練にならない。
まずは最初のクエストを追って
レベルを上げていくことからはじめましょうか。」
『解った、それじゃ早速…」
待って、と呼び止められる
「このゲームは全フィールドがPK可能エリアなの
レベル上げをする際も警戒することを忘れないで」
ああ、チュートリアルでそんなこと言ってたな…と思いながら
「大丈夫だよ、それじゃまた…」
「うん、またね。」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
初心者クエストをほとんど終え、おおまかな情報は得られた。
先ず、クラスに関して言えば盗賊だけのゲームなのだが
使用武器によって習得できるスキルが異なってくる。
武器の種類は大きく分けて4つに分類されているようだ
ダガー(クリティカル重視)・鞭(中距離攻撃)
カタール(速度重視)・鎌(ダメージ重視)
「この中ならダガーだな…」
クエストで貰ったダガーを装着し、使用感を確かめる。
思っていた以上に軽くて使いやすい
「しっくりくるな…これでいくか。
ダガーの場合だとステータスは…」
さっきのクエストで得られた情報をまとめてみる。
ステータスは大きく分けて3つあり
STR(攻撃力・物理防御) AGI(攻撃正確度・攻撃速度・移動速度)
LUCK(クリティカル率・回避率) となるようだ。
このゲームにおけるクリティカルとは
大ダメージに加えて、相手を数秒ダウンさせる効果を持つようだ
「――LUCKに極振りっと」
迷わず得られたステータス分をすべてLUCKに流し込む
ひと通り情報を整理し終えたところで、狩りにいくことにした。
「このあたりが適正レベルみたいだな…」
インビジビルを発動させ
モンスターの背後に回りこみ――不意を突き倒していく
何匹も、何匹も―――
「もうすぐレベルも上がりそうだな、この一匹あたりで――」
――突然動けなくなった。
「バインド」
(――鞭で締め付けられている…?)
相手は…フードを被っているせいで、よく顔は見えないが男のようだ
嬉々とした声で話しかけてきた。
「どうだァ?俺の鞭の味はよぉおおお!!」
(――何やら面倒な奴に絡まれたようだな)
「ビビって何も言えねぇか?ぼくちゃんよぉおおお」
男は高笑いしている
「このままウルフがお前を喰い殺すまで縛り続けてやんよおおお!」
「なぜこんなことをするんだ…!」
そう問い返すと、男は気味の悪い薄ら笑いを浮かべながら
「あァ?弱者が何もできないまま
死にゆく様を拝むってのはたまらなく快感なものだろう?ほらほらほら!
もう少しで死んじゃうよおおお!!必死に逃れて見せろよおおおお!!!」
(――くっ、ここまでか)
そう思った瞬間、バインドが解かれた
「刈薙」
(――誰だ…?)
「ぐあぁあああ!なんで邪魔すんだよおおおお!!!」
「ブラッディークロス」
――男は青ざめた表情で鎌を持った人物を眺めている
「その技…お前はまさか紅眼の死神…」
「消え失せろ」
――男は十字に吹き飛ばされた
「――いばくん、大丈夫?」
(…この声、聞き覚えが…)
「麻里奈…?」
「ここでは麻里奈じゃなくて、鞘って呼んで欲しいかな…刃くん。
他のプレイヤーにまで本名がバレちゃうからね。」
麻里奈…鞘があいつを…?
それにあの男が最後に言い残していった言葉が引っかかる。
「鞘が助けてくれたのか…?ありがとう。
あいつが最後に言ってたことって…?」
鞘は少し照れたような顔をして
「ただの通名だよ、気にしないで大丈夫だよ。」
(敵に回したら十字に切り裂かれるんだろうなと想像し、ゾッとした)
「…どうしたの?」
「なんでもないです!それとその物騒な鎌を
こっちに向けないでくれませんか鞘さん?!!」
鞘は笑顔で
「君が強くなるまで、守り続けるから安心してね」
(――もしかして、襲われる前からの一部始終をずっと見ていたんじゃあ…?)
(そんなわけないか…。)
「ありがとう、早く強くなって協力できるよう善処するよ。」
―――そう言い残して、再び狩りを再開した。
俺も可愛い女の子に救われるぐらいLUCK極振りしたい人生だった