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チャット 1

 メニュー画面で今までのストーリーを確認しながら、首都の一角で個人商店を開いて座る。商品はレオナとレモン、アカネから提供されたスクラッチのハズレ品だ。

 男物黒ビキニが時々売れて行くのは何故だろうか・・・。

 現在の時間は夜の1時、ネトゲ廃人からすればゴールデンタイムに突入した位の時間だが、個人商店周りの人口密度はかなり低い。何故なら、廃人は狩に行っているか、インスタントダンジョンに行っているかのどちらかだから。

 インスタントダンジョンのボスが強化されていると言うのに、パーティー募集掲示板には倒そうって募集内容がズラリと並んでいる。

 最大で9人までパーティーが組めるシステムなんだけど、廃人達は物凄く細かくて、火力5ヒラ2バフ1盾1なんて言う呪文みたいな募集文句。とりあえず9人集まったら行きましょーなんて事は絶対にしないんだ。

 と、そんな訳でストーリー確認をしている最中だと言うのに暇だったりする。

 放置や寝オチしてない個人商店出店者は、たまたま隣にいる人との雑談に花を咲かせている。その話題はこの世界には全く関係のない事である場合が多く、今現在右隣から聞こえて来る話題も学生特有の話題だった。

 「後3日でテストだぁ~」

 そんな嘆くんならゲームを止めてテスト勉強しろと心の中で思いながらストーリー確認をするが、もう耳には隣から聞こえて来る会話しか受け付けなくなった。

 まぁ、周囲チャットで喋ってるんだから聞いてたって問題はないんだし、聞いとこう。

 「3日後って日曜じゃね?」

 最近の学校は日曜日にも登校しなきゃならないのか?それとも追試かなにか・・・にしたって日曜じゃあ休みじゃないの?

 「塾のです、塾の」

 塾に行ってるのか!って事は~中学生位かな?夜の1時にゲームにログインしてるんだから1人部屋とかあるんだろう。なら余計に勉強しろっ!じゃなくて寝ろよ!

 「へぇ~。で、なんのテストよ?」

 全教科がある訳ではないのか・・・私の頃とは学業も変わったんだなぁ。とは言った所で私は塾に行った事がないんだから語れるような過去がある訳でもなし。

 「英単語」

 あぁ~・・・苦手だったわ。

 「暗記すれば余裕やろ」

 私の左隣にいた男が行き成り会話に参加したようだ。しかも暗記って・・・それが出来れば苦労しないんですけど。

 「15個あるんですよ~」

 ん?15個ならどうにかなりそうじゃないか?3日あるなら只管書いてれば覚えられるだろ。まさにゲームする暇があるなら単語を書けよと。

 「書いて書いて、書くべし!」

 テストがあると嘆く子の隣にいた友達?が何かアドバイスになっているのかどうなのか分からない事を力説している。

 いや、けど結局は暗記の基本って言えば書く事!私も教科書を丸々10回程書いてテスト勉強をすると言う方法を実践していた。もう、無駄に全部覚えたよ!テスト終わったら全部忘れたけどね!でも、語呂で覚えるのが性に合ってなかったんだからしょうがない。

 有名な語呂と言えば「すいへーりーベー僕の船」と言う周期表を覚える為のがあるけど、アレは最後の「しっぷすくらーくか」までしっかり覚えたものの、「ぼくのふね」のくが炭素だっけ?それとも「くらーくか」のくが炭素だっけ?になってしまったのさ。

 「あ、じゃなくて25個でした」

 おっと、単語が一気に10個も増えた。

 「どっちにしたって余裕やん」

 左隣のお兄さん、アンタは天才ですか!?25個の英単語って言ったら結構なボリュームですよ?いや、適当に話を流してるだけとも取れるような・・・。

 「英語苦手なんだけど」

 少しムッとした表情をした子は、膝を抱えて座り、私の左隣に向かって恨みの篭った視線を向けている。

 放置者の振りをしようとして失敗し、思いっきり目が合ったので愛想笑いなんか浮かべてみたが、話題が話題なだけにクスリともしてくれない。じゃあ私が実践していた暗記方法でも軽く教えてあげれば良いのだろうか?

 「英語ならカタカナに直さずに、そのまま単語で書いたりして慣れてけば良いと・・・いや、もう黙ります、すいません・・・」

 くそ、喋らなきゃ良かった。

 このピタリと止まってしまった会話をどうしたら良いんだぁ~~~気まずいぞ、これは物凄く気まずい。

 「はぁ~、どうしよう」

 大きな溜息と共に私から視線を外した子は、顔を伏せてもう1度深く溜息を吐いた。なんとなくだけど、2回目のは安堵からくるハァ~~~だったような気がする。

 普段社交的じゃないから、こう言う悲惨な事態になった時の対処法が全く分からない。だったら初めから喋らなきゃ良いんだろうけど、目が合ったのに無言ってのは、ソレはソレで気まずいし・・・。

 「脳ってのは繰り返す事で覚えるんだから、繰り返さなきゃ駄目だ」

 個人商店を見て回っていた1人の男が、顔を伏せた子の前に立ってなにやら熱く語り始めた。

 話の内容を完璧に理解している風だから、かなり初期の頃から立ち聞きしていたようだ。

 「それは分かってますけど~」

 また変なのが出た、みたいな表情で見られていると言うにも拘わらず、男はその子の前にしゃがみ込んで更に熱い眼差しを全力で注ぎ、挙句の果てには、

 「俺の知っている暗記方法を教えよう」

 とか言いながらその子の手を握った。

 これがもしリアルなら痴漢やらなにやらで訴えられている所だろう。まぁ、あの子がキャラの通り女の子だったらの話だけど。あ、でも画面上ではただ目の前に立っているか、座り込んでいるかにしか見えてない筈だから、まさかあんな至近距離で手を握られてるなんて知る由もないか。あれ?じゃああの男はどうやって手を握ってるんだ?

 あ、そうだ。魂の半分はこっちの住人な訳だから、そこの部分が作用しての事か。

 「え!?あ、はい・・・」

 かなり強引な押しに負けた女の子が頷くと、しばらくの沈黙が続いた。

 この長い沈黙は、次に来るだろう長文を予想させる。

 「覚えられていない単語だけを暗記帳に書く。それを何度も繰り返して声に出すんだ。そこで20個の単語を覚えられたとしても、次の日には5個しか覚えていない。だからまた何度も繰り返す。そうやってくうちに5個を10個に増やし、15個に増やし、25個にするんだ」

 おぉ、思ったよりも長い。それなのに言ってる事は最初っから女の子の隣にいる友達が言っていた事と相違ない。熱く語った分だけなんか格好悪いぞオッサン。

 「は、はい・・・」

 呆れられているぞオッサン!!

 「繰り返す事が大事なんだ」

 いや、熱いのはもう分かったから・・・見てる方が恥ずかしくなって来るからそろそろ黙ろうよ。

 けど、人の為にこんなにも熱くなれるってのは一種の才能なのかも知れない。

 「次は俺の暗記方法を教えようかな」

 なんかまた変なのが増えた!?

 次はって事はオッサンの長台詞を聞いただけじゃなく、どんな話の流れなのかってのも分かった上での・・・暇なのだろうか?だったら睡眠をとる事をお勧めしたい所なんだけど、私が喋るとまた場が凍りそうだし、黙っておこう。

 「えぇ!?」

 違ったタイプの熱い男を前に、女の子は甲高い声をあげる。もう英単語どころの騒ぎじゃなさそうだ。

 「その覚える25個の単語だけど、まずはグループ分けをするんだ」

 なんか行き成り喋り始めたぞ?しかもグループ分けってなんだ?

 「グループって言われましても・・・」

 そうなるよな、うん。私もそう思ったもん。

 「例えば野菜、果物、食べ物かそうじゃないか。日本語で見た時、その覚える単語を知らないって物はないかな?」

 後半の意味がよく分かりませんです。

 日本語で見た時、覚える単語を知らないって物・・・見た事のない物はないかって解釈で良いのだろうか?

 暗記術をどうこう言う前に、国語力をどうにかしてこい!

 「はい?」

 かなり困った顔されてるぞ若者よ!

 「全部知っている物の名前かな?」

 初めからそう言え。

 頭で考えた事を言葉にして説明するってのが苦手なのだろうか?それなのに良く暗記術を伝授しようって気になったな。

 「あ、はい」

 全部知っている物で、25個の英単語、それを野菜やら果物やらに仕分けして、その後どうするんだろうか?

 「じゃあ次はイメージして。例えばオムライスならケチャップでオムライスの上に単語を書く感じ。味なんかも想像しながらだと思い出しやすくなるよ」

 暗記術ってより記憶術に近い感じかな?けど、なんでオムライスなんだろう・・・好物なのかな?

 もし私が3日後にテストがあったとしたら、もうオムライスしか出て来ない可能性がある位のインパクトだ。

 「えっと・・・有難うございました。私、早速勉強してきます」

 かなりハッキリとした愛想笑いを浮かべた女の子は、隣にいる友達にだけ手を振るとログアウトし、間もなく友達もログアウトした・・・。

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