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人生初のモテ期はゲームの中  作者: SIN


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復活

 いよいよメンテが始まる。

 私は特に拘束される事もなく、後数分後に迫ったメンテの時間を召還したバイクの上で迎えようとしている。

 レオナとアカネに挨拶はしたかったんだけど、やっぱりアオリでもない私はただの不振人物だから、遠くから眺めるだけで満足する事にした。

 こうして今はアオリも、マーヤも、オッサンも傍にはいない狩場の真ん中。

 後数分。

 一体、何を思えば良いのだろう?

 生まれて、育って、今に至る人生を振り返ってみれば良いのだろうか?後数分しかないのに?

 やり残した事を後悔すれば良いのだろうか?でも、2次転職までちゃんと終わらせたから、結構満足してるんだよね。

 だったら、ここまで出来た自分を称える?1人で?寂し過ぎるわ。

 特になにもないのよね・・・。しいて言うなら、この綺麗な夜空を見上げながら酒の1杯でも飲めれば最高。

 こう言う時だから、飲むとしたらシャンパン?グイッといけるチューハイでも良いわね。それとも、普段は決して飲めないような・・・ドンペリ!でも口に合わなかったら悲惨よね・・・1番好きな日本酒にしようかしら。にごり酒でも良いわね・・・。

 はっ!最後の瞬間にお酒の事を考えてどうするのよ!

 どうせ考えるなら・・・そうだな・・・。

 アカネとマーヤの中の人?

 絶対にオッサンだよね!

 ふぇぇ!?は可愛かったけど、あざといもん。普通の女性ならまず言わないでしょ、あんな言葉。

 待て待て、最後の瞬間に見た事もないようなオッサンの想像をしていて良いのか?

 良い訳がない!

 そもそも、ジッと考え込んでいるのが私らしくないのかも知れない。

 引き篭もりニートなのに可笑しいんだけど、こっちに来てからは動いている方が好きだった。少しでも多くの経験値が欲しくて・・・2次転職と言わずに3次転職もしたかったし、もう1度だけ短剣二刀流で戦いたかった。

 「アサシンになりたい!」

 2次転職が終わったばかりなんだから、3次転職のアサシンになんか何をどうやってもなれる訳がない。それでも、短剣二刀流が大好きなんだ。短剣二刀流が使いたいから、職はアサシン一択だったんだ。

 「メンテナンス開始まで10秒、ログイン中のプレーヤーの方はログアウトして下さい」

 後、10秒で私が終わってしまったとしても、このアサシンにかける思い。短剣二刀流にかける思いは消える事はないだろう!

 「アサシンになるんだ!」

 強く心に刻み、10秒数える。

 5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・0。

 メンテの始まりを告げるように地面が鳴る。今回のメンテでは光の女神による時代が終わりを告げ、闇の女神が復活する。と言うとてつもなく大きなメンテ内容。

 ここからは、何が起きたって不思議じゃないんだ。

 「サヤさん聞こえていますか?光の神殿に来てください」

 ふっ・・・今からきっととんでもない事が!とか気合を入れていたというのに、至って普通に通信機で話しかけられるとはな。

 「分かった。スグに行く」

 返事をしてバイクのエンジンをかける。

 地面は耳に五月蝿いほどの轟音をたてているけど、揺れている訳ではないからいつもと同じように運転して、いつもよりも早めに目的地に着いた。

 その理由は、1匹も敵がいなかったから。

 敵ですらこの大きなメンテを異常と感知したのだろう。

 光の神殿前にはアオリと、マーヤと、オッサンと、その他大勢のソウルテイカーが集結していた。

 光の女神の時代が終わった事で隠れなくても良くなり、街中を堂々と歩いているソウルテイカー達に、冒険者達は目を見開いてしまっている。

 あれだけ探し回っても出てこなかったソウルテイカーが、実はこんなにも大勢いたんだから、驚くのも無理はない。

 ゴゴゴゴゴ・・・。

 少しも揺れない地面からの轟音は激しさを増す。地面は少しも揺れていないのに、光の神殿だけが崩れていく。

 立派な柱が、いとも簡単に折れて、ガラガラと崩れ、その瓦礫は地面の中へと吸い込まれていく。

 どういう原理なのかは分からないが、光の神殿の周りだけ地面が水面にでもなったかのように、際限なく瓦礫を飲み込んでいくのだ。

 こうして広い空き地が出来上がり、その中央にポツンと光の女神像が残った。

 「サヤさん・・・どうぞ・・・」

 どうぞと言われましても、何すりゃ良いのよ!説明不足にも程があるでしょ!?というか、言わせてもらうけど、まだ闇の女神降臨してないからね!?

 落ち着け私、この状況を見る限り、あの光の女神像の近くに行けば良いんでしょ。そうそう、儀式中はあの光の女神像が黒くなって闇の女神像になってたし、あの像に触れる事で何かしらのイベントが起きるようになってるんでしょう。

 なら、ここからあの像までの道のりが最後になる訳ね。だったら!

 「アオリ、その装備している短剣二刀かして」

 「え・・・なにを・・・」

 「女神像を破壊しようなんて思ってないから。ただ、最後に構えたいだけ」

 重量感たっぷりの、超絶イケメンな短剣二刀・・・構えてみると、まだレベルの低い私では重過ぎてちゃんとは構えられないけど、こうして持てただけで満足・・・しないわ!

 「TRIPLE SLASH!!」

 覚えてもいないスキル名を唱えながら、重い短剣二刀を振り上げる。フラリとバランスを崩してこけそうになりながらも、今度は思いっきり振り下ろす。

 ドサッ。

 重さに耐え切れず、短剣二刀を握ったまま地面に倒れ込む。それでもスグに立ち上がって、ブンブンと大きく振り回しながら女神像の前に辿り着いた。

 闇の女神よ、冒険者の志が折れて砕けない世界にしてくれ。そしてアサシンになってくれ。この体で短剣二刀流を使いこなしてくれ!

 「サヤ、早く女神像に触れて」

 あぁ、やっぱり触れば良いのね。

 ガシッ!

 短剣二刀を下ろした右手で女神像の顔面を鷲掴むと、私の触れた場所から徐々に白い女神像が黒く変色を始めた。

 うん、顔面からなんてなんか申し訳ない事をしてしまったわ。でも今更頭とか手に持ち替えても、中途半端に顔面は黒いままだろうし・・・まぁ、黒く染まれば問題ないでしょ。

 ゴゴゴゴゴ・・・。

 女神像が黒に染まりきる頃、地鳴りは揺れを伴う激しいものへと変わり、地面から黒い瓦礫が表れ、まるで逆再生するかのようにキチキチッと積みあがり始めた。

 アッと言う間に私の周りには壁ができ、床ができ、天井ができ。気が付けば黒い女神像と共に広いホールの中央にいた。

 「で、こっからどうなるのさ、闇の女神さんよ」

 あまりにも乗っ取られる気配がないので、私は黒い女神像の額を突きながら次の変化を待つが、特に何も起こらない。だったらオッサンにでも聞こうと思っても、広いホール内は私1人。

 これ、儀式が失敗してるとかじゃないよね?それとも顔面から黒く染められた事に怒って出て来ないとか?まぁ、それは確かに悪いとは思うよ?だけど、それ位の事でいちいちへそを曲げないで欲しいわ。

 「冒険者何人分の魂を費やしていると思ってるんだ?」

 私は元々こっちの人間じゃないから、光の女神だろうが闇の女神だろうが全く興味がない。冒険者にとって闇の女神の方が害になるようなら、喜んで光の女神復活の儀式に参加してやる。分かったな?だったらさっさと出て来い!


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