インスタントダンジョン 1
初心者クエストを終わらせたマーヤに付き添って1次転職をするべく道場に行くと、盾職か攻撃職かで受付がバラバラになっていた。
「ここで攻撃職を選んだ後で盾職になる事って出来るんですか?」
入り口で随分と悩んでいると思ったら、まだ決めてなかったのか。
ファイター系のマーヤなら1次転職で盾職であるナイトか、攻撃職であるウォーリアのどちらかを選べる。そして45までレベルを上げると、2次転職。ナイトはそこで更に防御特化職のパラディンか、防御力は劣るがパーティーメンバーへの防御補助や回復魔法を使う事が出来るテンプラー。ウォーリアなら攻撃力は低くなるが防御が高く、攻撃職の全武器を扱えるウォーロードか、防御が弱く扱える武器が限られているが攻撃力の高いグラディエーターかを選べる。ちなみに私はグラディエーターからの3次転職でアサシン。武器は短剣二刀流なので完全に盾役には向いていない。
と、こんな長々とした説明を初心者のマーヤに言った所でポカンとされるのがオチか。
「レベル1に戻るって課金アイテムを使わない限り無理だから、良く考えてね」
私は初めから攻撃特化にするって決めてたし、短剣二刀流が使いたいって明確な目的があったから転職で迷った事はなかったなぁ・・・ナイトや魔法職になりたいと今までに思った事もないわ。
「アオリさんは、パーティーを組むならどんな職業の人と組みたいですか?」
道場の受付に背を向けたマーヤは、私の手を引いて倉庫の方にまで引っ張り、質問をしてきた。私からじゃなく、マーヤからゲームシステムにはない「手を繋ぐ」と言う行動をとった事に戸惑いはあるが、画面向こうにいる中身の人間は、ただ倉庫に向って歩いただけなんだろう。
それにしても、一緒に組みたい職か・・・敵が倒せるんだったらなんでも良いんだけど、やっぱり自分が火力担当だから他の人と組むんだったら・・・。
「ビショップか、ハイエロファントが良いかなぁ」
アサシンは盾には向いてない防御力だけど、ハイエロファントの補助魔法で防御力を強化されればそれなりに耐える事も出来る。そこにビショップの回復があれば中ボス位になら勝てるだろう。
「わ、私っ!レベル1からやり直してきますっ!」
はいぃ?!
「待て待て待て待て!やっとレベル2桁行った所で、なんでそーなるんですかっ?!」
ちゃんと説明したでしょ?レベル1からやり直すアイテムは課金品なんだってば!どんな高レベルなキャラでも、たちどころに弱体化させてしまう呪いのアイテムが1個500円もするんだからね!
「ビショップもハイエロファントも魔法職じゃないですか!私はアオリさんと狩がしたいですっ!」
なんと言う直球・・・そんな必死な顔でなにを可愛い事を言ってんだろうかこの子は。しかし、水を差すようで申し訳ないが、レベル差が20以上あった場合、レベルの低い人には経験値が入らないので、どんな職業だったとしてもパーティーは組めない。こんな初歩的な事も知らないんだからオンラインゲーム自体が初めてなんじゃないだろうか?
「一緒にパーティー組めるのは、マーヤさんのレベルが69になってからですよ」
とりあえずハッキリと教えてあげた方が今後の為だ。
「ふぇぇ・・・アオリさんと一緒が良いです~~~」
急に1人にされるのは心細いのかな?だったら、そうだ!チームに誘ってみよう。
「俺が入ってるチームに来ますか?」
チームの事も詳しく知らなかったマーヤに簡単な説明をしながら馬移動し、チームルームのある町に戻って来てからチームチャットでリーダーを呼び出す。
「ども始めまして~。チームマスターのレオナです」
恐ろしく面倒臭そうだ・・・レオナってこんな感じだったのか。「欠伸をする」なんてアクションなんてないのに欠伸してるし。新しいチーム員候補に対する興味の欠片もないとは。
「わ、私マーヤです!よろしくお願いしますっ!」
勢い良く頭を下げながらの挨拶に、何事かとチーム員がドヤドヤと外に出てくる。皆スクラッチで今回のコスチュームを手に入れたらしく、水着姿だ。
女物はビキニやワンピースと可愛らしいものが多数あって色も豊富、それにひきかえ男物と来たら・・・黒ビキニ一択。染料があれば染める事も出来るが、ソレは1個100円する課金物だ。それでもビキニと言う形が変わる訳ではなし。
「アオリさぁ~ん、男物余ってるのでどうぞですぅ」
何も答えていないと言うのに飛んでくるトレード申請。
チーム員のアカネは毎回自分の目当ての物が出るまでスクラッチを引き続けると言う課金の鬼。その度に売り物にもならない男物をこうして無料でくれるのだ。それは、確かに有難いんだけど・・・今回ばかりは・・・。
「あ、ありがとう・・・ございます・・・」
受け取ってしまった手前、着ない訳にはいかない。しかし、今まではコスチュームを選んで○ボタンでパッと着替えられていたのだが、今は服を脱ぐ所から始めなければならない。画面の向こうの皆にはパッと着替えたように見える訳なんだが・・・それでも中身は女だからね!上半身裸の男性ビキニ姿になるってのは如何なモンですか!?
「なになに?さっさと着替えろよアオリー」
レオナが急に楽しそうだ。
致し方ない、ここはパパッと着替えてしまおう。外観はアオリなんだからきっとなにを着たって似合うに違いないんだ。恥ずかしい事など何もないさ!けど、着替えるのはチームルームの中の隅の方で良いですか?
「うわ~、なんか、うわぁ~」
着替えて真っ先に声を上げたのはチーム員のブラック。高身長で細マッチョな体付き、さぞや立派な近接職、と思いきや全く敵を殴らないビショップだったりする男。私に向って、うわ~なんて言いながら引いているが、自分もしっかりと黒ビキニを着用している。