廃人神プレーヤー 2
SPの回復を待っている間、緊張で上がっている呼吸を整える。
しかし、何度深呼吸した所で、カシャン、カシャンと敵の歩く音、ウォォォと言う呻き声、そして暗いダンジョン内では一向に落ち着けない。
こんな事じゃ駄目だ!
大丈夫だと自分に渇をいれ、長い通路を見据える。
このダンジョンで脅威となるのは弓使いのみ。その弓使いが沸く範囲は意外と狭いから、そこを一気に通り過ぎてしまうだけで良い。
弓使いはアクティブモンスターだから追いかけて来るだろうが、後ろをアオリに守ってもらえれば安全。前から来る弓攻撃は自力で避けるしかないけど、その攻撃のタイミングは分かっている。
次の階段までにサイドの小部屋は7部屋。その部屋に2体ずつ弓使いが沸く。沸く場所は部屋の奥、冒険者を攻撃するには弓の射程距離になるまで近付かなければならない。そこを全速力で通り過ぎるのだから手前の3部屋辺りまでは安全に勧める。
4部屋目から6部屋辺りまでは横から狙われる事になるんだけど、構えてから弓を射るまでに2秒かかるから、そこも無視して走り抜ければ問題ない。
最後の部屋、そこからは真正面から攻撃をして来る2体の弓使い。
攻撃のタイミングが微妙に違うから、右に避けた後スグに左に避けると攻撃を受けない。そして弓使いは次の攻撃までにかかる時間が2秒。その2秒の間に階段の踊り場まで駆け抜ける事が出来れば私の勝ち。
残る問題は、私がどれだけ早く走れるか・・・元廃人神プレーヤーの運動神経が良い訳ない。だから武器を持って戦うなんて事も出来ない筈なのに、レベルが上がると徐々に出来るようになってきた。
きっと、脚力にもレベル補正がある筈!
アキレス腱を伸ばして準備運動し、呼吸を3回ゆっくりとしてから後ろにいるアオリに合図を出して、飛び出した、
1つ目、2つ目の小部屋を通り過ぎ、3つ目、4つ目、5つ目・・・。
カシャン、カシャンと歩いていた敵の足音が、一瞬だけガシャガシャと聞こえて、嫌な気配。
6つ目、7つ目の部屋から合計4体の弓使いが顔を覗かせていて、内2体か弓を構えている。
ギリギリギリと弓の引く音、後ろにいるアオリがヘイトを唱えるが、この1回目の攻撃の標的は私。
4体からの攻撃を受けてしまうと、確実に戦闘不能になってしまう。耐えられるのは2回が限度、全ての攻撃を避けるのが難しいのなら!
バスッ!
1体目の至近距離からの攻撃を右に避けてかわし、少し左へ避けると、2本目の矢が目の前を通過、バランスを崩しそうになる体を無理矢理走らせて階段に向かうと、真正面から同時に放たれた3体目と4体目の攻撃。
少し右に体を傾けて走り続けると、腕に1本矢が刺さった。
くっそ痛ぇ!
腕を射抜かれてこの程度の痛みなんだから大した事ない!戦闘不能にすら遠いこんなダメージ、ただのかすり傷!
とは言っても、たった1撃で3分の1HPが減ったんだから大怪我の分類?なんにせよ築薬で全回復するんだから便利な世界だわ。
「サヤさん!大丈夫ですか!?」
先に階段で休んでいた私の所にアオリが慌てて走ってきた。その手には開封済みの傷薬が2本。
グッと刺さっていた矢を握ると、腕にギンギンとした痛みと熱。その激痛に一瞬怯みそうになった。
麻痺毒使ってくる敵とか連れて来て欲しいわ。
「ぜっんぜん大丈夫!これぐらい!!」
かなり激しい強がりを大声で言って、その勢いに任せて矢を抜き取ってすぐ、アオリが傷薬を使ってくれた。
「無茶しないでください!次からはちゃんと医者に看てもらってください!」
と、珍しく大声で怒りながら。
でも、申し訳ないけど先に言わせて欲しい。
「病院があるなら先に言っといてよ!」
私は元プレーヤーなんだから、背景となっている街中になにがあるのかなんて知らないし、ヒールとか傷薬で怪我を治してたんだから医者って概念すらないよ!
ともかく、傷が完治したんだから落ち着こう。ここはダンジョンの中だ。
「ごめんなさい・・・」
なにをそんなに大袈裟にシュンとしてんの!?可愛いんですけど!
レベルはアオリの方が遥かに高いのに、何でそんな謝ってんの!?可愛いんですけど!!
「落ち着くんだ私!」
「え!?」
無理にでも頭をリセットしなければ!
このダンジョン1番の難関は突破できたけど、この先にはボスがいる。アオリのヘイトがあれば楽勝ではあるけど、問題は宝箱の中身。
魔法攻撃に耐性のあるネックレスが手に入るまでは、ここをレベリング場所とする!
「SPが回復したら言ってくれ。ボス部屋まで走るぞ」
どうして私って奴は真剣にならなければならない所で気が抜けてしまうんだ?緊張感が長続きしないから、いい加減な人間だと自分で思うわ。
本当に、良い所が1つもない・・・って、だから・・・今はボスを倒す事だけに集中!でもなくて、2次転職に向けて急ぐんだ!
私には廃人神プレーヤーとしての意地と、プライドしかないのだから。
「回復終わりました」
よし、これ以上頭の中がグチャグチャにならない内に行ってしまおう。
「ボス部屋前の雑魚を先に処理する。ヘイト頼んだ!」
「はい!」