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チュートリアル 2

 初期村に着き、馬から飛び降りた所で目の前にいたモンスターを倒してみる。特になにも手応えがなかったにも拘らず、その場に固まっていた3匹が一瞬で消えた。構えた剣に重みは感じず、大きく振り回しても体がぶれる事もない。

 カンスト間際のアオリの体は紛れもなくカンスト間際の近接職、通常攻撃しているだけで消えて行く雑魚相手にならなんの問題もなさそうだ。

 「マーヤさん、初心者クエストは全て終わらせましたか?」

 「あ・・・それが、最後のアイテムが中々集められなくて・・・」

 初心者クエストを終わらせると1次転職が出来る。

 1次転職をすれば新しい技を覚えられたり、HPや攻撃力にボーナスが付いたりするから、なによりも先に初期クエストは終わらせるべき。けど、最後のアイテムは初期村の近くにある「森の遺跡」と言うダンジョン内に出る敵からドロップする品々で、その遺跡に出てくる敵のレベルが15~20と結構強い。初心者はここで心を折られて卒業してしまうケースがほとんどだったりする。

 「なら今日終わらせましょう。俺がヘイトするので安心してください」

 森の遺跡に来てみると、入り口に1人の女が座っていた。

 メニューで確認すると女のレベルは60台の近接職。名前はミューと言って、現在は個人商店を開いて座り込んでいるみたいだ。

 こんな所で個人商店と言う事は、クエストアイテムでも売っているのだろうか?けど確か初期クエストのアイテムは売買出来なかった筈・・・。

 「あー、いらっしゃ~い。この中の敵強いよぉ~そんな時は傷薬☆」

 私達を見つけたミューは嬉しそうにニカリと笑い、大きく手を振って店の宣伝を始めた。

 商品のラインナップは傷薬と高級傷薬、そして強力傷薬の3種類。初期村には普通の傷薬しか売っていないから、特に高級傷薬はかなり有難い商品ではあるのだが、こんな高価な薬を買える初心者は早々いない。

 「ここより、2次転職で行く塔の入り口にいた方が良いんじゃない?」

 そうなんだけどねーと遠い目をしたミューは私達がお客ではないと感じ取ったのだろう、元いた場所に戻って行くと、つまらなそうに溜息を吐き、このゲーム内には「頬杖を突く」なんてアクションはないのに頬杖を突いた。

 そんなミューに軽く手を振ってやって来た森の遺跡ダンジョン中。もう新しくゲームを始める人が少ないんだろう、ガランとしている。だから余計に聞こえて来るのは敵が発する呻き声や雄叫びで、妙にリアルなその音に恐怖を感じる。

 敵が出て来た所でレベル15やそこらなんだから、ダメージを受けても1あれば良い方。怖い事なんて何もないと言うのに・・・。

 カシャンカシャンと近付いて来る音、これは骨系の敵の足音。こっちに向かって来るという事はアクティブである弓使いか。なら敵の姿を確認するより先にヘイトをしておかないと危険だ。弓の攻撃は思った以上に強力、まだレベルが1桁であるマーヤが狙われたら数秒だって生きている事は出来ないだろう。

 メニューからスキルを選んでみると、なんとか発動できそうで安心しつつ、それっぽく手をかざしながら一定空間内の敵全部に有効なヘイトスキルを発動させてマーヤよりも5歩程前を歩く。するとワラワラと出てきた骨系の敵。それに混じって2匹オークがいる。

 クエストアイテムはこのオークからドロップするのだが、トドメをマーヤが刺す必要があるので手出しが出来ない。

 「アオリさんお願いしました!オーク攻撃します!」

 短剣を持っているマーヤは、オークの真後ろに立ってからスキルを使って攻撃を開始させたのだが、15回程殴ってやっと1匹倒すと言うスローペース。本来ならもう少しレベルを上げ、もうちょっとは良い武器を手に入れてから挑むべきダンジョンなんだから仕方ないと言われたらそうだ。

 周りにオークがいなくなると集まっていた骨を私がスキルで一掃し、再びヘイトスキルを唱えて奥に進んで。それを繰り返す事5回、クエストアイテムが集まったようだ。

 「どうせですしダンジョン攻略もしましょう。ボスまでは先行しますね」

 ダンジョンを攻略すれば宝箱がもらえる。中に入っているのはゴミからアクセまで色々あって、ここでは確か魔法攻撃に耐性のあるネックレスがもらえた筈だ。

 初期から2次転職辺りまで使える良品、個人商店で買えば結構な値段するし、運試しとして攻略して損はない。

 「はい!お願いします」

 さてと、先行するとは言ってもあまり離れ過ぎても危険だし、骨系の弓が出た時点で私がヘイトを取っていないとなぁ。だからと言ってヘイトスキルを唱え続けながら進むのにも限界がある。もう5回唱えた後なんだからSPスキルポイントが後半分しかない。回復を待つ為には座り込む必要があるが、こんないつ何処に敵が沸くとも分からない場所での休憩は危険過ぎる。

 ここで脅威なのは弓を持った骨だけ、だったら奴が出て来ない奥地にまで一気に進んでしまえば安全な筈。画面で見たらどう事になるのかは分からないけど、マーヤを守りながら進むには抱いて走るのが1番確実。

 「アオリさん、ここってスピードアップの効果が出るダンジョンなんですか?」

 抱き上げて走り、少し進んだ所で不思議そうに首を傾げながら私を見ているマーヤが声を出した。

 スピードアップ効果の出るダンジョンなんて今までお目にかかった事はないが、なんとなくマーヤがどんな画面を見ているのかと言う想像は出来た。

 「移動速度がいつもより速いです?」

 「はい。それに、クリックしても止まらないんです」

 スピードアップの魔法がない状態で、通常の移動速度よりも速く走れていたようだ。しかも、クリックしても止まらないって事は、私の行動は中身の操作を上書きする事になっているらしい。

 「バグじゃないですか?マーヤさん時々止まってましたよ?」

 マーヤを下ろして立ち止まり、軽く嘘をついてみた。

 「ふぇぇ!?そうなんですか!?」

 この子は、チャットで本当に「ふぇぇ」と打ち込んでいうるのだろうか・・・なんだろう、その掛け声は。なのに声が可愛いから小動物的な・・・って、このゲームにボイスなんてついてたっけ?敵を殴ってる時の「タァ!」とかそんなしかなかっただろ。だったらこの声はどっから・・・中身の人の声?だったらアオリの声が私じゃないのはどうしてだ?いや、今はそんな事は良い。早く弓が出ない2階に行かなきゃ!

 「俺の画面では正常なので、このまま2階まで行きましょう」

 再び抱き上げ走り出すと、立ち止まっていた間に沸き出ていたらしい敵が道を塞いでいる。攻撃するには一旦マーヤを降ろさなければならないが、後ろからはガシャガシャと骨の音。近付いてもいないのにこっちに向かって来るという事は弓を持った奴に違いない。

 遠距離攻撃で後ろにいる弓を倒すにしたってメニューを開くのにはやっぱりマーヤを降ろさなければならない。メニューを開かなくたってゲームパットに4種類までスキルを登録できていた。だったらどうにかすればこのままスキルを使える筈なんだ。

 いやいや、スキルが使えたとしとしたって武器を持つにはやっぱりマーヤを降ろす必要がある。

 そうだ、このゲームにジャンプと言う概念はないが、馬に飛び乗った時の跳躍力を生かせれば敵を飛び越える事なんか簡単な筈。それに、ジャンプのグラフィックがないんだから画面上ではただのバグとしてササッと敵をすり抜けたようにしか見えない筈!

 心の中で思いっきり飛べると念じて飛び上がると、フワッと浮いた体は綺麗な放物線を・・・描き切れずに天井にぶち当たって直角に落ちた。

 かなり激しい衝撃に起き上がると、敵の群れの丁度真ん中に落下したと言う最悪な事態、しかもその中には数匹の弓もいた。

 マズイ、ヤバイ。そう思うよりも早くに体が反応する。

 「ヘイト!!」

 大声で叫びながら両腕を広げると、さっきまで使っていた範囲効果のヘイトがメニューを通さずに発動した。途端に四方から攻撃を受ける事になったのだが、レベル差のお陰で全くHPヒットポイントに影響がない。

 それはそうと、どうしてヘイトが使えたんだろう?ヘイトなんてあまり使わないスキルをゲームパッドに登録した覚えもないし・・・そもそもゲームパッド自体使えないんだからどう言う仕組みで使えたのかが全く分からない。

 「今日は本当に凄いバグですね」

 敵に紛れて姿は見えないが、かなり近くでマーヤのノンビリとした声が聞こえて来る。

 「ダンジョン攻略より1次転職を先にしますか?」

 スキルの出し方が分からないのでメニューから発動させて周りにいる敵を一掃して尋ねると、

 「その方が良さそうですねぇ」

 と、倒れたまま喋るマーヤの姿。その体には数本の矢が刺さっていて、離れた場所に2匹の弓を持った骨がいた。

 守る事が出来なかったのか?こんなレベル差のあるダンジョンで、守れなかったのかよ・・・あんな通常攻撃1発で倒せるような奴に、あんな骨に!!

 「復活スク使うので、少し待って下さい」

 死に戻ってしまうと経験値はかなり減ってしまうが、復活スクロールを使えば多少経験値の減りは少なくなる。

 死に戻った時の減りを100%とすると、普通の復活スクロールで20%減、高級復活スクロールで40%減、最高級になると80%減になる。

 「い、良いですよぉ!?まだレベル1桁ですし。先に1次転職してきますね」

 倒れたまま元気良く喋っているマーヤの体は徐々に薄くなり、そして消えた。メニューを開いてパーティーメンバーを確認してみると、ちゃんと初期村にいると言う表示がされている。

 死に戻りは瞬間移動みたいな感じなんだな。

 さてと、私も早い所村に戻ろう。の前に、あの2匹だけは粉々にしてやらないと気が済まない。よくも私のフレを!絶対に許さない!

 怒りに任せて剣を握ると、また自然と体が動き、馴染みのある構え姿勢になった。このスキルは離れた敵に衝撃を飛ばして攻撃をするスキル。

 「SHOCK WAVE!」

 横に構えた剣を大きく振ると、剣から放たれた衝撃が2匹の骨に向って飛び、アッと言う間に粉々にした。

 メニューを使わずにスキルを出す方法、それはもしかしてスキルの名前を大声で叫ぶ事なのだろうか?それとも同じ構えをする事?

 試しに剣を振り上げて構え、SHOCK WAVEと叫びながら振り下ろしてみる。本来このスキルは初めに出した時のような横方向のグラフィックしかないのだが、縦方向でも問題なく出た。

 大声で叫ぶとスキルが発動するのは分かったけど・・・物凄く格好悪い・・・緊急時以外ではメニューを通そう。

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