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フードの子 2

 昔話を聞き終え、一通り自分の中で状況を飲み込めた所で腕枕をしているという状況を思い出した。

 「疲れてない?少し眠ると良いよ。私はここにいるから」

 はははと技とらしく笑いながら態勢を何とかしようとしてみても、握られた手がある以上どうにも出来ない。もしかして高さが丁度良いのかな?にしたって女の子でしょ!?男の腕枕で寛いじゃ駄目だからね!?そして「眠ると良い」とか言われても寝ちゃ駄目ですからぁー!

 「大丈夫です」

 私の手を離し、上半身を起こしたフードの子は、たったそれだけの動作にも拘らず頭を押さえている。明らかに立ちくらみ?してる感じなんだけど、上半身起こしただけで!?全然大丈夫じゃないでしょ・・・。

 道具袋の中から物を全て取り出しグルグルと巻いて枕代わりにし、フードの子をゆっくりと寝かせた。

 「ねぇ、名前は?なんて呼んだら良いかな?」

 少しして落ち着いたらしく、寝返りを打ったその背中に尋ねてみた。

 教えてくれないかな?けど好い加減フードの子って呼び続けるのもどうかと思ったから・・・もし教えてくれなかったら勝手にあだ名でも付けよう。

 「・・・シロと呼んでください」

 今かなりの時間考えてたでしょ・・・そんなに本名を知られるのが駄目な世界なのかな?この体のアオリという名前も私が付けたものだし・・・。

 魂の半分がコロコロ変わってしまう世界、プレーヤーが変われば名前も変わる世界では、名前自体に何の意味もないのかも知れない。ならこの子が名乗ったシロと言う偽名も、この世界では立派な本名となるのだろう。

 よし、名前を教えてもらったんだから話しやすくなったかな?無言にならないようにとにかく話しかけよう。闇の女神関係の話ならばシロも答えてくれそうだし。

 「シロ、闇の女神が復活した世界で、またソウルテイカーとしてレベルを上げてくの?」

 カンストのない世界、プレーヤーを求めなくても良い世界。体調が良くなりさえすればどこまでも強くなれる。もうレベルを1に戻される事もないから、絶望する冒険者だっていなくなる。

 強い冒険者を見てやる気が失せる冒険者は・・・増えそうだけど。

 「考えていません・・・考える必要も・・・ないですから・・・」

 考える必要がない?闇の女神が復活した後も冒険者登録をしないって事?もしかするとシロの体は思った以上に弱っているのか!?

 「そんなに体が悪いの?」

 具合が悪いなら病院に・・・この世界に病院ってあるのか?ソウルテイカーお断りとか!?でも、今のシロは一般市民なんだよね?それに自分の職を隠す為にレベル1から冒険者登録した訳だし・・・病院に行き辛い理由が他にある?だったら回復専門職のビショップなら治せるかも!

 公の場に出て行き難いんなら、ブラックに頼んで・・・。

 「まだ・・・馴染めてないだけです・・・闇の女神が復活する頃には・・・」

 馴染めてない?

 元はソウルテイカーだったから、他の職に就くと何かしらのペナルティーがあるとか?けど普通の冒険者としてレベルも上げてたんだから考え難いか・・・他の職じゃなくて、一般市民だから?

 レベルを1に戻すって具体的にどうしているのかは分からないけど、元々ある力を押さえ込んでいる状態だよね?カンスト間際の筋肉隆々な冒険者がレベルを1に戻されてたけど、育った筋肉自体に何の変化もなかった。力を生む筋肉に変化がないのに、レベル1になるとそれ相応の攻撃力しか出ないのは、やっぱり何かシールド的なモノがかかっていると考えて良いかも知れない。そんな中で一般市民になると言う事は、最高レベルのシールドがかけられた状態だろう。

 初期村の回りに出てくる大人しい魔物にさえ勝てないように制御された力・・・慣れるのに時間がかかってしまうのは通りかも知れない。

 「早く慣れると良いね」

 プレーヤーを求めるこの世界のやり方に絶望しているみたいだけど、そんなに辛いなら冒険者登録だけでもすれば良いのに。は思うけど・・・声には出さない方が良いんだよね?プレーヤー側の私が何を言っても嫌味にしか聞こえないだろう。

 「・・・アオリさんは・・・どうするんですか?」

 私?

 闇の女神が復活して、全てが終わった後は自動的に元の世界にも戻されるんだと思ってたけど、そうじゃないの?

 闇の女神に捧げられた魂は、闇の女神から開放する事で元あった場所に戻るんだよね?だったらアオリの魂はこの体に戻って来る筈。だから私の魂はきっとこの体を出る事になるだろう。そして自分の体・・・じゃない。

 私の体には今アオリの魂が半分入っている状態だから、どうなるんだろう?

 この体と、私の体に半分ずつの魂が宿る?

 「元の世界に戻る・・・かな」

 半分ずつの状態なら、プレーヤーの魂をこの世界に引き入れる時と同じ手法でアオリを連れ戻す事が出来るだろう、そして私は元の世界に帰る。

 「・・・戻れなかったら・・・どうしますか?」

 「え?」

 シロは今体調不良だから冗談なんて言える程の余裕なんかない筈。なのに何を不吉な事を言ってんの!?無言にならない為の話題作りだったとしても性質が悪いわ・・・。

 「例えばの話しです・・・」

 戻れないって未来も有り得るって意味なんだよね?

 光の女神の時代が長く続いたこの世界、急に闇の女神復活となった時、この世界のシステムがどう変化するのかは予測不可能・・・。

 プレーヤーをこっちの世界に引き入れる方法でアオリを連れ戻すとしたって、システムが書き換えられたプログラムじゃあ技が発動しない可能性がある・・・そうなった時の心構えをしろって遠回しに警告している?

 考え過ぎかな?

 「それでも全力で元の体に戻る方法を探すよ」

 もし、私の考えている最悪な事態が起きたとしても、ここには元ソウルテイカーのシロと、現ソウルテイカーのオッサンもいる。それに元マエストロの子もいるんだよね?だったら書き換わったシステムの対処法を調べられると思う。もし無理だって言うなら私がソウルテイカーかマエストロになって、自分でどうにかして帰る。

 「・・・元の世界に戻れなくても、貴方はその体をアオリに返しますか?」

 シロは、私が考えていた最悪の事態よりも、更に最悪な事態を予測しているらしい。

 「それも例えばの話?」

 私に背を向けたままの頭が縦に動くのを見る。

 私の体に入っているアオリの魂と、闇の女神から開放されたアオリの魂が元の場所に戻ろうとするなら、私の魂は必然的に弾き出される事になるのだろう。だから体を返さないと私がいくら思った所で無駄だ。

 弾き出された後、元の世界に帰れない私がどうなるのか分からないが、元の世界にある私の体は魂が抜けた状態になる事は確か。魂が戻らなければ消滅してしまう。そして体が消滅すれば、きっと魂も消滅するんだろう。

 「返すよ」

 追加質問がない事から、結局初めからこれを聞きたかったんじゃないかなって思う。体調が悪いのに長々とした昔話風の話までする位だ、相当言い辛かったんだろう。だけど、私はこの死の宣告とも言える質問に、案外落ち着いて答えられていた。

 生きる事を諦めたんじゃない。

 闇の女神が復活した後の事なんか誰も分からないんだから、最悪過ぎる予測として頭に入れておくけど、それで悲観するなんて時間が勿体無い。それならまだブラックの猫耳姿を想像してニヤニヤしている方がいくらか有意義だ。

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