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光と闇 2

 光と闇の女神がそれぞれに目指す世界、まずはそれを聞いてくれと男は言った。そして、その後に私の意見を聞きたい、と付け加えた。

 両女神の考え方には興味がある。

 今、王や兵士がしている行動は、光の女神の考えに沿ったものだろう。その兵士の行動が許せない・・・大会イベントの時に見たPKキャラへの制裁方法、あれは今でも思い出すと気分が悪くなる。

 闇の女神なら、どうやってPKキャラの対処をするのだろう・・・。

 「分かった、話してくれ」

 話を聞く姿勢を見せると、男は下に向かって手をかざした。すると椅子とテーブル、そしてテーブルの上には3人分のお茶が出て来て、更に壁や床までもが次々と現れ、真っ白だった空間は落ち着きのある部屋へと変化した。

 元々こういう部屋だったのか?

 入り口に術か何かが施されていて、真っ白な空間に見せていただけなのかも知れない。なら、私が通ってきたあの白い空間とは別物だったのか・・・それとも、私が通った場所もここと同じ術がかけられていた?

 いや、今は先に男の話を聞こう。

 「光の女神は、全ての人間が平等であるべきだと考えている。1人では越えられない壁に直面した時、皆の力を合わせ、協力し合って乗り越える。人と人の繋がりを大切にする世界だ」

 まるで小学校の道徳の教科書に載ってそうな言葉だ。

 まさに綺麗事。けど、大事な事。

 私がいた世界だって人との繋がりを大事にしている世界と言われたらそうだし、光の女神の思想はどんな世界においても正義・・・。

 だったら、だったらあのPKの・・・PKする方が悪いんだから当然の罰?レベルを1に戻されプレーヤーを奪ったとは言っても、処刑になった訳じゃない。プレーヤーが悪いから追い出した。じゃあ残ったこっちの人はどうするのか?新しいプレーヤーを探す必要がある。新しいプレーヤーが見付かったらどの道レベルは1からだ。

 光の女神は、何も悪い事をしていない。

 「闇の女神は、弱い者を無理矢理に鍛えたり、強い者に歯止めをかけたりしない。越えられない壁に直面した時は、自分に何が出来るのか、それを人自身に考えさせる。1人1人の個性を大事にしてくださるお方なのだ」

 2人の女神の考え方は大きく見ると「団体」か「個人」かって事かな。

 個性を大事にしてくれるのは良い事だよね・・・皆が平等ってのとは全く違った考え方だけど、両方可笑しな事は考えてなさそうだ。それなのに闇の女神は封印された。思想の違いで争いでも起きた?それとも、昔に起きたソウルテイカーの攻城戦が関係して?けど、その攻城戦の前から闇の女神は封印されてたんじゃないのか?

 「光の女神は、全ての人は平等であるべきだと言い、冒険者にカンストと言う枷を付けた。しかし、城や光の神殿を守る兵士にカンストはない。平等だと言いながら、身内だけは強くしている」

 身内と言うか、監視役?でしょ。秩序を守らせるにはやっぱり強さってのは必要になるんだろうし、どのPKキャラよりも強くないと大規模な暴動が起きた時どうにも出来ない。学校で言う先生、社会で言う警察。そんな役割なんだろうからしょうがないと思う。

 「闇の女神は、個性を大事にしているが故になんの枷も付けない。人は自分に合った分野で活躍できるようになるが、色んな考え方がぶつかり合い、争いが耐えなくなる」

 争って勝った方の意見に従う、か。それは結局強い者が支配する世界と言う事。光も闇も根っこの部分では同じ考え方・・・いや、光の女神は自分を中心とした世界に対して、闇の女神は個々に任せる世界。

 自分が1番強くなければならない光の女神は、自分の威厳を守る為に冒険者にカンストを付けたとも考えられる。平等であるべきだと言うのは後付けか?

 個々の個性を伸ばす為に何の枷も付けない闇の女神は、自分がトップにあろうとせずに強い者に任せるという、悪く言えば放任主義。

 なんだろうな、なんだか2人共ろくでもない女神のような気がしてきた。それでもこうやって復活させようって人がいるんだから、少なくともソウルテイカーにとっては闇の女神の世界でなければ都合が悪いのだろう。

 まぁ、光の女神からは迫害され、ソウルテイカーと言う職種自体がなかったものとして扱われているんだから仕方ないんだろうけど。いや、だからって魂を半分抜いて良い理由にはならない。

 あれ?魂を抜く行為と言うのは闇の女神復活の為だから、元は闇の女神を封印し、ソウルテイカーの居場所を奪った光の女神が悪いのか?それとも封印されるほどの何かをやらかした闇の女神が・・・もう良い、喧嘩両成敗って事で。

 「どっちかを選ぶのじゃなくて、両方の良い所を取り合った世界にすれば良いんじゃないの?」

 方針を1つにして、そこからより良い世界にする為に話し合う。これが普通の形だと思う。片方を封印している間に強引に自分のやり方を推し進めるようじゃあ暴君だと言われるのもしょうがない。

 「世界はランプと同じ。点いているか、消えているか。点いたり消えたりしている状態は酷く落ち着きがなく、人を不安に陥れる」

 どちらかが封印されている状態を安定って呼ぶの?

 「いや、だから、そんな女神達に世界を任せていて良いのか?って事よ」

 2つの良い所取りをして1つの方針にする。それは同時に2人の女神が無職になると言う意味だ。そもそも独裁政治的なのが駄目なんだから、各地の王様も一緒になっての会議とか定期的にやっていけば良いし、それをこのハイテクメニューから観覧出来るようにすれば、透明度の高い世界統一が出来るんじゃないだろうか?

 間違っても魂を奪う、奪わないと言う問題は起きないだろう。

 「答えになっていない。私達ソウルテイカーを、光の連中はどう言っているのか知らないのか?」

 それは、確かに酷いよ。見付け次第討伐だって言われてる。でも、それは先にソウルテイカー達が起こした攻城戦だったり、魂の事だったり、そんな理由があってこその対応だ。

 よく、命の次に大事な物。と言うフレーズを聞くが、その命を半分奪われてるんだから冒険者達が怒るのも無理はない。そのせいでプレーヤーを見付けなければならなくなったし、プレーヤーが引退するとレベルが1に戻されてしまう。何をしても、何か功績を残したとしても、全てがなかった事にされるんだ。

 本人も辛いだろうし、その周りにいる冒険者も辛い思いをしている・・・その元凶はソウルテイカー。この世界にいる冒険者の中で闇の女神に対して良い印象を持っている者なんて存在していないだろう。

 だから、魂だけはなんとしても返してもらう。2人の女神をどうするのかを考えられるのはその後だ。

 「闇の女神を倒して魂を開放すれば、奪われた魂は元の場所に帰ると聞いている」

 そうだ、そもそもソウルテイカーのやり方が可笑しくないか?

 闇の女神復活の為に魂を集めている。それはさぞや立派な目的だとは思う。けど、封印したのは光の女神なんだよね?だったら魂どうこう言う前に光の女神に直談判すりゃー良いだけなんじゃ・・・もしかして、攻城戦を起こした理由って・・・。

 「誤解がないように言っておくが、魂を奪っているのは私達だけではない」

 男は誰も手を付けないお茶を飲むと、私とフードの子にもお茶を進めてきた。

 しかし、それどころじゃない。なんだって?魂を奪ったのはソウルテイカーだけじゃない?そんなのは初耳過ぎるぞ!?

 「オッサン!どういう意味だよ!」

 魂を奪うというスキルはソウルテイカーしか使えないんだよな?違うのか?

 「プレーヤーの魂は半分こちらの人間の中に入り、そこで魂が完全となって1つのキャラクターとして生きる・・・プレーヤーの魂など、私達は奪っていないぞ?」

 それはそうだけど、今はプレーヤーの話しをしてるんじゃない。

 「それは元々アンタ達が冒険者の魂を半分取ったのが原因だろ?」

 それがなければプレーヤーなんて求めずに済んだんだから、辻褄合わせの為だけにレベルを1に戻されるなんて事も起きずに済んでいた筈だし、面白半分でPKをするような冒険者だって今よりも確実に少なかっただろう。

 やっぱり、全ての元凶はこいつらじゃないか。

 「もっと分かりやすく言う必要があるようだな」

 何をどんな言い方をされようとも、お前らが完全な悪者だって所は変わらない。

 お前最初に言ったよな?話を聞いてくれって、それでも私の意思が変わらなければ好きにして良いって。だったら私は意見を変えない。そうするだけで2人ものソウルテイカーを倒せるのだから。

 「良く考えてみるんだ。プレーヤーの魂を半分こちらに招いているのは、何処の誰だ?」

 考えろと言われても、そんなのはゲームを作ったマエストロにしか不可能な筈だ。どんな原理でこの世界をゲームにしたのかは分からないし、体を共有していると言う感じもなく、プレーヤーは本当に普通にゲームをしている感覚だった。

 ん・・・なんだろう、酷い違和感がある。

 「光の者達の手によってプレーヤーの魂は半分体から抜かれ、こちらに連れて来られている。そしてこちらの冒険者の中に入り、冒険をしているんだ。光の女神が正しいと言うストーリーを見ながらな」

 抜かれて、連れて来られ・・・じゃあ私は!?抜かれ具合を間違われたとでも言うのか?いや、違う。私はログインし、あのフードの子に話しかけた瞬間こっちに連れて来られたんだ。話しかけた切欠は新しく追加されたストーリーを見る為のクエスト受注。

 光の女神が正しくないとするなら、何故ソウルテイカーであるコイツがストーリーを見せる為のクエストを・・・いや、それも違った。

 レオナやアカネはこいつの存在を知らなかったじゃないか。

 私にだけ見えていた?待て、そもそもこのフードの子があの時のフードと同一人物なのかが分からない。同じローブ姿で、顔が見えない位まで深くフードを被っていると言う共通点はあるが、それだけで同一人物と決めてかかるのは危険だ。

 もしかすると、ここには3人目や4人目のソウルテイカーが潜んでいる可能性がある。

 下手にこの2人に危害を加えると、そんな仲間が一気に押し寄せて来る可能性があるな・・・しかも私達のチームルームの場所は確実に知られている。

 「しかし、そのストーリーに圧倒的な間違いがある」

 くそ、次から次へと新情報を喋るなよ!こっちはまだ頭の中の整理が出来てないんだぞ!?

 一旦オッサンの話しを全部聞いてから考える事にしたって、情報量が多過ぎてなにをどう思って良いのかがもう既に分からない。

 結論が分からない?

 しっかりしろ私、最終的に悪いのはソウルテイカー、それで良いじゃないか。他に何を考える事があるんだよ。

 私をこっちに引き摺り込んだのもコイツら、アオリの魂を奪ったのもコイツら、それだけの事実があれば充分だ。

 「魂が半分になった所で、徐々に存在が薄れるなんて事はありえない」

 な・・・なに?

 そこが嘘なら何の為にプレーヤーを必要としたんだよ・・・こんな大掛かりなゲームを作ってまで一体何をしようとしてるんだ?

 「生き残りをかけてプレーヤーを求めるようになったんじゃないのか?」

 冒険者は皆そうだと信じている。だからこそ嫌な思いをしてまでレベルを1に戻したり、意に反する行動だとしてもプレーヤーに従っている。

 もし、そこからが嘘なら、なんの為に・・・ソウルテイカーの撲滅か?

 大会の時、PKをしていた冒険者のレベルを無理矢理1に戻していたあの兵士は、私に全ての怒りをソウルテイカーにぶつけろと助言した。全ての元凶はソウルテイカーだと、そう言っていた。もし、それが兵士の行動を正当化させる為の言葉だったとしたら?

 カンストを迎え、PKをしている冒険者はいつか光の神殿に向けても攻撃を開始させる可能性があった、だからまとめてレベルを1に戻したかったと言う光の女神の思惑があったんだとしたら・・・けど光の神殿にはカンストが存在しない強者である兵士が大勢いるだろうし、光の女神自身がその兵士よりも強いんだろうから、レベルがたったの100程の冒険者が何人攻めてこようとも怖い事なんか1つもないだろう。

 魂が半分抜かれると存在が消滅すると信じさせ、ソウルテイカーに全ての怒りをぶつけさせるのは、より冒険者がソウルテイカーを撲滅しやすいようにする為の御膳立てか?

 「闇の女神を封印するだけに留まらず、存在を消そうと言う光の女神の策だ」

 あぁ・・・そっちか。

 なんにせよ、とんでもなく好戦的な女神だな。しかもやり方がかなり気に入らない。封印した奴をそのまま消そうとするなんて非道だ。そもそも私は光の女神のやり方が最初から嫌いだったんだ。確かに秩序を保つためにカンストと言う枷は必要だったのかも知れない。でも、嫌がる子を追い回してまで飲ませるあの薬、そして魂についての嘘。

 冒険者に付けられている枷は、一体いくつ存在しているんだろうか?

 まいったな・・・これじゃあ私はフードの子どころか、オッサンにさえ攻撃が出来ないじゃないか・・・。

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