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合成 2

 皮が比較的出易いと言う事で猟師村の平原に移動し、ヘイトで集めまくって狩を始める。

 ここの敵のレベルは60程度、レオナの盾がなくても各自余裕で倒せるレベルだ。そんな訳でレオナも盾を置いて両手剣で戦っている。

 戦いにはあまり適していないビショップのブラックもペットを呼び出し、ペットに攻撃させているので問題はなさそうだ。アカネはそんなチームメンバーへのエンチャで彼方此方動き回っている。

 MPやSPが切れたら休憩しよう、そう皆が思っていたのだろうが、この場所の敵は本当にカンスト間際の私達では弱過ぎて、MPもSPも半分以上は減らない。これは誰かが率先してMPかSPを空にしないと駄目な感じだ。だったら、私が!

 自分よりも弱い敵に向かって、全力でTRIPLE SLASHを発動させ、最後の1発にSHOCK WAVEの効果も上乗せ、さらに通常攻撃を挟む事無く今度はDOUBLE SLASH。それが終わると次はMOVEMENT。これは短剣と短剣二刀流を装備している時にだけ使えるスキルで、ターゲットにした敵の真後ろまで瞬時に移動すると言うスキルだ。

 こうして敵の真後ろに立った後はBACK SLASH。目の前にいる敵を倒した後は只管周囲の敵に向かってのSHOCK WAVE。こうして3分もたたない内に目出度くSPが0になった。

 「よっし、休憩!」

 近くにあった木の下に座り込むと、隣にアカネが来て同じように座り込んできだ。すると少し離れた場所にいたレオナも歩いてきて座り、遠くの方からブラックが走ってきて大の字になって寝転がった。

 休憩を開始させて数分、やっと私達が休憩している事に気が付いたレモンが合流。

 「そう言えば、ソウルテイカーツアーはどうだったんです?」

 なんとなく無言のままだったので、少し気になっていた事を誰にと言う訳でもなく聞いてみた。

 「私は神殿跡捜索したよ~。何もなかったけど」

 真っ先に答えてくれたのはアカネ。

 神殿跡の探索って事は、狩場を回ってソウルテイカー探しをしていたのか。

 何も掲示板に書き込みがないから大した事はなかったんだろうとは思っていたが、実際そうだったのか。まぁ、ソウルテイカーの隠れ家が見付かったとなれば、大会に参加していた私達にも緊急通知が来たんだろうし、隠れ住んでいるんだろうソウルテイカーがそのまま狩場にいるとも考えにくい。

 もし私がソウルテイカーで、何処かに隠れなきゃならないとしたら・・・下手に人のいない場所に行くんじゃなくて、市民の振りをして堂々と町に住んだりしてね。

 あぁ、何気にかなり恐ろしい事を考えてしまった。

 冒険者はいつの間にか魂を抜かれているんだよね、だったら本当に身近にいる可能性が高いんじゃないだろうか?

 魂が半分抜けるというのはどんな感じがするんだろう?いつの間にか抜かれているんなら、抜かれている最中に傷みや違和感はなさそうだ。それに、抜けたと言うなにか分かりやすい感じがあるのなら抜かれている最中に気付く筈。寝ている間?それとも戦闘不能になった時か・・・どちらにしたって冒険者に近い場所にいない限り無理だ。

 魂を抜くと言う術が遠距離攻撃なら別だと思っていたけど、寝てる時や戦闘不能の間に術を使っているなら、その冒険者が見える場所にはいなければならないよね。それとも、戦闘不能になった時に発動するように術を仕込まれている?

 「地下迷宮に入ったパーティーが何か見たらしいが」

 そう言えば、と顔を上げたレモンが意味深な情報を口にした。

 ソウルテイカーでも闇の女神でもなく、何かを見た、か。場所は地下迷宮、9人のフルパーティーで行っても少し辛い高レベルダンジョンだ。そんな所で何を見たと言うんだ?

 「なになに?初耳なんだけど?」

 楽しそうに身を乗り出したのは半裸男のブラック。

 同じソウルテイカーツアー参加者の間にも情報が出ていないのは本当に大した事じゃないのか、それとも冒険者が混乱する事を避ける為に情報を出さないのか・・・って、考え過ぎかな。

 「アタシも詳しくは知らないよ」

 レモンですら詳しい事を知らないとなると、その見たって言ってる本人でさえ何を見たのかは分かってない可能性が高いぞ?まぁ、大体他の冒険者か、それともダンジョン内に時々沸くレアモンスターか、その辺だろう。

 「パーティーならアオリのドロップ運のなさは関係ないな」

 どうやらレオナには興味のない話だったようで、サラッと話を流してしまった。

 「影響出なくて良かったですよ」

 私は何もドロップしていないんだけど、皆にはわんさか出ている。もし私の影響が出ているのなら皆も素材すら出なくなると言う不思議な時間を送る事になるんだから、この運のなさはパーティーを組もうとも私個人の問題だったらしい。

 良かったとは思うんだけど、複雑だわ。

 「そんなにドロップ運ないのか?」

 自分の話が流された事に対して何も感じなかったらしいレモンは、私の道具袋に手を伸ばし、かなり雑に中身をあさり出した。

 こんな強盗染みたグラフィックなんかは存在しないから、この行動はプレーヤーの関係ないレモン個人の行動だ。

 「あぁ、そっか。レモンとブラックは知らないんだな」

 どうだろう?でも、レオナとアカネは嫌と言う程見た筈だ。私が何も引き当てられなかった現場に毎日居合わせていたのだから。

 「なになに?初耳なんだけど?」

 再び興味深そうに、今度はレオナに向かって身を乗り出したブラック。

 「アオリが毎日毎日霧の沼地の毒蜘蛛討伐募集かけてたのは知ってるか?」

 やっぱりその時の事か。

 アレは本当に酷かった・・・1ヶ月近く毎日毒蜘蛛退治してんのに、素材が3個しか手に入らなくて、それで心が折れてレモンからブロードナイフ買ったんだ。

 なにを隠そう現在使っているこの立派な短剣二刀流も、精錬強化済みの物を個人商店から買ったのさ!

 「あー、うん。知ってる知ってる」

 当時はなんの面識もなかったブラックが知っているとは。

 「あの時も言ったと思うけど、当時の首都では有名人だったんだって」

 そうでした。

 個人商店してたレモンに声をかけられたんだっけ、本物だ、って。

 討伐募集掲示板には名前とクラスしか表示されないから、顔は知られていなくても名前だけは広く知られていたんだ。

 「募集がかかった瞬間、周囲チャットでキターって叫ぶ奴がいたりな」

 そんな奴がいたのか!?

 「いたいた~」

 短剣なんて中途半端な武器を本気で狙ってる奴がいる。って?確かそんな感じだった筈、それで有名人と言われても、ただの笑い者扱いだ。しかも、出なさ過ぎて心を折られた挙句、個人商店から買ったブロードナイフを装備した所で落ち着いたって後日談も、笑い話として語り継がれるレベルになっている。

 今更ながら、かなり恥ずかしい。

 「今じゃマーヤがアオリ再来として有名だけどな」

 確かに今はほとんど毎日マーヤが毒蜘蛛退治に行っているが、え?アオリの再来って、何故そこにまた私の名前が使われているんでしょうか・・・。

 「アオクンそんな顔しな~い。毒蜘蛛=アオリって世代よ?俺ら」

 どんな世代だ!

 なんか、恥ずかしさが増してきた。ここはさっさと話題を変えてしまおう。

 「道具整理は大丈夫ですか?」

 私は全然大丈夫なんだけど、皆の道具袋は結構パンパンになっている。それなら一旦町に戻って倉庫整理も兼ねた方が良いと思う。

 素材をチーム倉庫に送れば数の確認もしやすくなるし、スウェードが合成出来る位まで集まっているなら私が合成しよう。

 狩に行っても素材集めの役に立てないから。とかそう言うのじゃなくて、私は合成の腕だけは確かなのだ。なんと言っても脅威の成功率!始めの頃なんか合成が失敗する物だとは知らなかった位なんだから、その成功率はほぼ100%と言って良い。

 ドロップ運がない分、合成運が強化されでもしたのだろうか?けど、こんな特定のクエストにしか使わない運が飛び抜けていても役には立たないか・・・。

 「アオリ、合成頼めるか?」

 こうして皆から素材をトレードし、それを合成すべく神経を集中させる。

 いくら私の合成成功率が良いとは言え、それはまだ私がプレーヤーとして○ボタンを連打していた時の話。こうやって自分の手を使ってするのは初めてだ。

 どうか、ドロップ運同様、合成運にも変化はありませんように!

 合成と言うスキルを発動させて強化糸と数種類の皮を10個ずつ手に持って合わせると、少しの煙が上がった。ここはグラフィックそのままなんだな、とか思いながらゆっくりと手を広げてみる。

 成功していればスウェードが、失敗していたら炭が出来ている筈だ。

 「流石アオクン!」

 なんとか、1枚成功した・・・。

 それにしても、この状況はかなり緊張する。出来る事ならチームルームの、エントランス辺りで静かに1人きりで集中したい。

 「チームルームで合成していますね」

 「あぁ、分かった。チーム倉庫に素材送っておくから、ドンドン合成してくれ」

 レオナの許しが出た所でチームルームまで戻り、チーム倉庫の中からありったけの強化糸と数種類の皮を取り出してエントランスに降た所で、どうしても気になったアオリの特等席。

 椅子に座って早速合成を始めてみると、何故か懐かしい感じがした。

 私はここで合成をするのはもちろん初めてだ。なら、この気分はアオリ?アオリの感情がまだ、どこかに残っているのか?

 集中しないと失敗する、不意に横切るそんな言葉。確かにその通りだ、この素材は私が集めたのではなく、皆が集めた物、1個だって無駄にする訳にはいかない。

 チーム倉庫から取り出した素材を余す事無くスゥェードにした今回の合成成功率は、脅威の100%それでも猫耳4個分には届かない。

 さて、どうするかな・・・チーム倉庫の中には合成に必要な素材が集まっていないようだし、だからって私が素材集めに行った所で意味がないだろう。だったら首都にでも行って足りない素材の相場でも見に行くかな?それとも手に入れ損ねたドラゴンアクセサリーを見に行ってみようか・・・どっちにしろ首都の個人商店まで行かないと駄目だし、移動するか。

 チームルームを出てテレポートまで歩いている最中、何気なく見た防具屋の裏。磨かれた盾が乱雑に置かれているそこに、ローブを頭から被った人影が見えた。その姿には見覚えがある。アイツだ、アイツだ!

 逃がさないように全力で走って近付き、腕を掴もうと手を伸ばした瞬間、ガンッと言う金属音がした。

 「おい、何やってんだ?」

 防具屋の主人が呆れた風に私を見てるが、それ所ではない。さっきまでここに立っていた奴は何処に行った!?確かにここに立っていた・・・いや、違うのか?

 私は試しにチームルームの方へ5歩程戻り、ゆっくりと防具屋の、あの盾が置かれた場所を見た。すると、そこにはあのローブ姿の人がいた。顔は見えないが、アイツも私を見ているのだろう、体の向きが少し変わっている。

 あの磨かれた盾に映り込んでいるんだな。この角度で私からアイツが見えるとしたら、同じ反射角の・・・光の神殿前、そこにいる筈だ。

 盾に映り込まないように路地に入って光の神殿前に行くと、そこにはあのローブ姿の人がいた。ソイツはまだ防具屋の盾の方向を見つめている。

 「やっと、捕まえたぞ!」

 ローブの人と同じ場所に立って見えた盾の中の景色には、私達のチームルーム入り口が映っていた。

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