合成 1
私は今、チームの皆と共に首都の個人商店が並ぶ中央広場にいます。そんな私の頭には、大会イベントで手に入れた猫耳が装備されております・・・。
特にパラメータ変化もなく、なんの役にも立たないユニークアクセサリーです。
「アオクンは、それが欲しかったんだもんねー」
隣にはニヤニヤしつつ肩なんかを組んでくる黒ビキニ姿のブラックがいるもんだから、私達は揃って笑いのネタにされている。しかも、アオクンって呼ぶな~!
あぁ、恥ずかしい・・・穴がなくても掘って入りたい。
「良いなー猫耳、可愛いな~」
真っ直ぐな視線を私よりも少しだけ上に向けているマーヤは、現在猫耳を熱心に見詰めている最中のようだ。
そんなに欲しいのならあげようかな・・・2次転職が終わったらお祝いとしてプレゼントしよう。
「マーヤちゃん欲しいの?だったら個人商店にあるんじゃないかな?」
確かに個人商店でアクセサリーを見に行こうってチーム員総出で首都に来た訳なんだけど、ユニークの方で良いのかよ!アカネもユニークアクセサリーを進めるような発言は控えろ!なんの効果もない癖に目立つもんだから、個性を出したいプレーヤーには大人気の品、買えば結構な値段するんだ。始めたばかりのマーヤにそんな大金が出せる訳ないだろ?
「ウサギの耳しかなかったんですよー」
そしてもう下調べ済みですか!?
マーヤはどうやら本気で猫耳が欲しいようだ。
「お前ビキニだし、ウサギ行っとけよ」
物凄い悪乗りをしたレモンが、個人商店に出品されているウサ耳を指差しながらブラックの腕を掴んだ。
「ビキニだし、の意味が分からん」
いや、黒ビキニでウサ耳って言ったら男性バージョンのバニーさんじゃないか。それに蝶ネクタイがあれば完璧なんだけど、生憎蝶ネクタイはユニークアクセサリーとしても実装されていない。
「そう言えば、私も猫耳は持ってなかったなぁ」
あれ?それは意外だ。
アカネの事だから耳系は全部コンプリートしてるんだと思ってた。
確か全部揃えるとアニマルイヤーコレクターかなんか言う称号がもらえた筈・・・日本語にするとなんか怖い称号だけど。
「2人共買うのか?」
完全にユニークではないアクセサリーを物色していたレオナが、軽く聞き流していただけの癖に無理に話に入って来た。
「だからウサギしかないって。話は聞こうよ」
呆れ顔のレモンがブラックから手を離し、レオナの横に並んで立つ。
この2人はリア友ではないらしいが、もうリア友と言った方が良いんじゃないのか?って程仲が良い。
メール交換でお互いの顔を知っている上に、盆休みにはオフ会をしたって話を聞いた事がある。
どうやらレオナの中身もちゃんと女性と言うんだからネカマのキャピキャピした感じの痛々しさが目に染みて直視出来ない。
全ての女性がそうであるとは言い切れないが、リアルな女性は至って自然体である。
えぇ~?そぉなんですかぁ~?すごぉ~い。なんて事は・・・って事は、アカネはネカマなのだろうか・・・。
「だって、欲しいよ猫耳~」
そう思うとなんだかマーヤまで怪しく・・・。
「ね~、欲しいよね~。アオリさんだって猫耳可愛いと思うでしょ?」
えぇい、しっかりするんだ私!プレーヤーの性別がどうあれ、アカネもマーヤも女の子じゃないか!ここで男なのは私とブラックだけだ。
その男が2人して珍妙な装いになっている訳なのだが・・・。
「女性が付けていれば可愛いと思いますよ」
猫耳は意外とどんな服にも合うから、水着だって良いし、浴衣でも絶対に相性は良い。ドレス系と合わせてる人は多いけど、やっぱり和服に合わせるのが1番良いと・・・なんの話をしているんだ私!
「・・・ユニークアクセを作ろうってクエストなかったか?」
メニューのクエスト一覧を見ているらしいレオナから、そんな独り言のような小声が聞こえてきた。それに反応をしたのはアカネだったのだが、
「あれは1人1回までしか受けられないんですー。私はもう作って売っちゃいました・・・もう、激しく後悔ですよ・・・」
と、本当に悔しそうに項垂れてしまっている。
1人1回のクエストだったのか、道理で猫耳の値段が下がらない訳だ。
私は1度受けたのだが、クリアーせずに途中となっている。理由は簡単、素材が手に入らないだけの話で、かれこれ2ヶ月は放置しているわ。
「クリアーしてない奴挙手」
何でこんな急にやる気満々ですか?まぁ、クリアーしてないから手は上げますけど、私はもう猫耳付けてますからね?今更素材集めに行くなんてしたくないんですが・・・。
「アカネ以外全員か。よし、今日はソレをやろうか」
言うと思いました。
リーダーであるレオナが決定した事は、余程の異論がない限りはそれをやる。こうして今までやってきたんだから、今日も全員が猫耳を作る所までやる事になるんだろう。だけど私の場合はどうなるんだ?
「アオクンに至っては、もう装備してるくせにもう1個作ると言うね」
そう言う事。
猫耳を装備しながら猫耳を作るなんて、どれだけ猫耳好きなんだ?って思われるに違いない。いや、それよりもブラックの中で私はアオクンで定着したのだろうか?今、かなり自然に呼ばれた。
「アタシはアカネのを作るから、お前はアタシのを作れ」
ん?私が直接アカネのを作れば良いんじゃ・・・あ、そっか。今すぐ欲しいのはアカネやマーヤ、私を待ってたらいつになるか分からないもんな・・・だったらレオナにはかなり気長に待ってもらわなきゃならない。1ヶ月か、2ヶ月か、下手をすれば半年?いやいや、私の事だ、本当にいつ出来上がるのか想像もつかない。
「・・・何年かかっても良いですか?」
仕上げるには本当にソレ位はみていた方が良さそうだけど、流石にそこまで待たせるのも悪いから、1ヶ月経っても出来なさそうなら、今装備してるのをレオナに渡そう。
「ドロップ運、相変わらずか」
とてもとても深刻そうな表情をするレオナとアカネ。
そうか、この2人は私がとんでもなくドロップ運がない事を知っているんだった。
武器や防具の素材だけじゃなく、普通の素材すら、イベント用アイテムですら中々ドロップしないと言う逆に物凄い運を。
「わ、私レベルがまだ足りないです・・・」
メニューでクエスト一覧を確認したマーヤが、この世の終わり、みたいな大袈裟な表情で膝を折り、それを見たブラックがマーヤの肩を叩きながら一言。
「どん☆まい」
うん、励まし方下手糞だわ。
とは言うものの、ユニークアクセを作ろうクエストは2次転職が終われば受けられるようになるから、きっと私よりも先に猫耳を完成させられると思うよ。なんて、酷い自虐ネタだ。
「とりあえず、クエスト受けに行くぞー。マーヤは2次転職に向けてレベリングだ」
サクッとサッパリこの場を仕切ったレオナは、私達にだけじゃなく、どうしたら良いのか悩んでいたマーヤにも次の行動を示し、なんでもない顔してユニークアクセを作ろうクエストを受注する為倉庫に向かって行った。
人によっては指示厨が、って文句言ったりするかも知れないんだけど、私は頼りになるリーダーだと思ってる。
廃人ネトゲプレーヤーである中身を考えるとちょっと複雑な部分も多少はあったり、なかったり・・・ううん、この世界では、廃人ネトゲプレーヤーは神様なのだ!!だから、この世界をソウルテイカーから救うまでは一緒に戦ってください。
こうしてアカネとマーヤを除いたメンバーでユニークアクセを作ろうクエストを受け、私のドロップ運のなさを誤魔化そうと言う事でパーティー狩をする事になった。
マーヤは霧の沼地で毒蜘蛛討伐募集をするらしく、パーティー募集掲示板に書き込んでいる。
猫耳を1個作るのに必要な素材は強化糸と数種類の皮。それらが100個ずつ必要になるのだが、それで終わりと言う訳ではなくて、その集めた素材を更に合成してスウェードを作らなければならない。その合成が全て成功して100個ずつ。失敗すればその分また集めに行かなければならないのだ。それを4人分だから少なくても400個。
果てしないなぁ・・・。