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イベント 2

 テレポートでやって来た初心者村、中央広場には簡単な作りの受付があり、結構な人数が列を作って順番を待っている。

 待つ事数分、受け付けを終えて手渡された数枚の紙。人のあまりいない所まで移動して読んでみると、それは大会の詳しい説明と、いくつかのクエスト内容が書かれていた。

 今日のメンテナンスで運営は初心者冒険者を増やす為、初心者クエストや転職時のクエスト内容を緩和したらしい。そのテストプレイを3次転職終わりの冒険者にさせる為、簡単な確認クエストとし、それを如何に早くクリアーしてくるか、という大会形式にしたようだ。

 大会と言うんだから順位に応じた追加報酬もあって、総合1位の人にはアクセサリーボックスの他に完全復活スクロールが5枚贈られるようだ。

 完全復活スクロールとは、戦闘不能になった時の経験値減少を100%なかった事にしてくれる夢のアイテム。

 とは言え、私はアクセサリーボックスさえもらえればなんだって良いんだから、無理せずノンビリと参加しようっと。

 じゃ、1つ目のクエストの内容確認をするか。

 初心者クエストをクリアーせよ、か。ザックリとした内容だな・・・けど、緩和されたんならそんなに時間はかからないと思う。

 なんにせよ始めるか。

 初心者クエストの受注って誰から受けるんだっけ?えっと・・・お?ファイター系とメイジ系で分けたのか。

 えっと、私が任されたのはファイター系だから道場に行けば良いのか。

 「初心者クエストの確認クエスト受けに来ましたー」

 こうして手渡される小箱と、酒瓶と、手紙。

 小箱は道具屋の主人に、酒瓶は防具屋の主人、手紙を武器屋の主人に渡してくると言う内容。順番は特に決められていないようなので近い順から周り、最後の道具屋で小箱を渡すと、今度は折れた剣、と言うアイテムを受け取った。それを持って鍛冶屋に行く。

 なるほど、これで村の中にどんな店があるのかと言う確認になる訳だ。

 折れた剣を持って鍛冶屋に行くと、打ち直しするのに材料が足りないと狩に行く事になる。ここで初心者は狩をすると素材が手に入る事を学ぶんだな。

 しかし・・・親切になったなぁ。

 私の時は真っ先に武器屋でソードを買って来いって言われて、そのソードを買う為の金稼ぎに延々初期村周りの敵を倒すと言う作業が1時間ばかり必要だったんだぞ!

 村を出て素材を集める為に敵を倒そうとして、回りにあまり人がいない事に気付く。

 そうか、3つあるクエストのどれからやっても良いのか。それともクエストをクリアーするまでの時間を競っていると言うのに人によって内容が違っているか・・・まぁ、アクセサリーボックスがもらえたら以下同文。

 スキルでパパッと敵を倒して素材を集めて鍛冶屋に行くと鍛冶屋の剣、と言う剣を手に入れた。それを持って今度は初期村から少し北に行った所にある見張り台の周囲に出てくる敵を鍛冶屋の剣で10匹倒す。倒し終えて鍛冶屋に戻ると、本当ならこの次に森の遺跡ダンジョンにいるオークを倒して素材を手に入れて来いとなる筈なのだが、なんと、鍛冶屋に行って鍛冶屋の剣を渡した所で道場に行けと言われ、行ったら初心者クエストが終わった。

 森の遺跡ダンジョンの部分がバッサリ切られたのか・・・色々と思い出深い場所だったんだけどなぁ。なんか、ちょっと寂しい気がするよ。

 感傷に浸ってる場合じゃない、1個目のクエストが終わったんだから次は2個目だ。

 次の手紙を広げて読んでみると、次はどうやら3次転職での緩和部分の確認みたいだった。あの町長イベントの面倒な部分が少しは簡単になるのか、と思いきやそこではなく、1000体ずつ倒さなければならなかった敵を500体ずつにした、と言う事だった。つまり、私は今から火、水、土、風の敵を500体ずつ倒して回らなければならないと言う訳だ。

 こういう時、ヘイトで集めるだけ集めた敵を一瞬で一掃できる槍使いを羨ましく思うよ。もう1度言っておくけど、こういう時だけね。

 そうだ、折角敵を500体倒せってクエストなんだからスキルの繋げ方練習も兼ねよう。私の意思だけで動くこの体は、他の冒険者よりも身軽、その上こっちの世界にいるんだからグラフィックにない動作もやりたい放題だ。だから敵の攻撃を避ける事だって可能。いや、でも待てよ・・・これは運営が用意したクエスト。どこかできっと私達に不正がないか見張っている監視役がいる筈だ。なら目立った行動はしない方が良いのかも知れない。下手に目立ってソウルテイカー扱いされたら一大事だしね。なら、無心に。ただただ無心に敵を倒そう。

 流石に狩場は冒険者達でひしめき合っているが、それよりも問題なのはPKキャラの存在だ。確かにミューが言っていたようにそこら中にカンストしたPKキャラがいる。しかも達の悪い事にPKキャラはパーティーを組んで、複数で1人を攻撃しているんだ。

 どうするかな・・・1対1なら勝算はあるけど、1対2とかになると流石に厳しい・・・だからってこの大会は個人戦、パーティーを組む事は禁止されている。

 同盟ならどうだろう?説明にはどこにも同盟は禁止なんて書いてないし、多分グレーゾーンだ。なら禁止だって明言されるよりも早くに組んでPKキャラの排除をしてしまった方が今度の為でもある。

 対PKキャラの同盟を組みましょう。そう周囲に向かって叫ぶだけの勇気が出なかった私は、掲示板にそう書き込んでみた。するとワラワラと集まってきた冒険者達。そして彼方此方から飛んでくる同盟申請。どうやら言い出した私がリーダーになってしまっているようだ・・・当たり前か。

 「タンカーの方を1番外にして円を描いて下さい。その中心にレベルの低い人や魔法職。近接職は遠距離攻撃をしてタンカーの人よりも前に出ないように。徐々に外に向かって進んで、この狩場にいる敵もPKキャラも絶滅させる気で行きましょう!」

 こんな感じで良いのだろうか?うぅ、手が震える・・・。

 「敵の弓攻撃や魔法攻撃はアイスシールドで防ぐ」

 向こうの方から声がした。

 そうか、弓攻撃とかは上からの攻撃だもんね!アイスシールドは確かアークメイジのスキル、中央部の防御は彼らに任せていれば安心か。

 彼方此方から聞こえ始めるエンチャの声、よし・・・討伐開始だ。

 中央から外に向かって進軍する私達の動きは、確実にPKキャラを外に外に追いやっていく。外を固めるのはカンストタンカー、そう簡単にダメージは入らない。そうしている間にも中央からの攻撃が飛んでくるんだからPKキャラは逃げるしか道はなかった。それでも中には攻撃をし続けてくるキャラもいて、そう言う人は本当に集中攻撃を浴びてしまっていた・・・。

 戦闘不能となったPKキャラは、死に戻りせずに倒れたままになっている。普通ならは最寄りの町に戻る筈だから、これはきっと運営の仕業だろう。

 そして兵士が大きな道具袋を手に歩いてくる。何をするのかと見ていると、戦闘不能になったPKキャラの口に道具袋から取り出した薬を放り込んでいた。

 あれは・・・なんて事だ!?あれはレベルを1に戻す薬じゃないか!

 レベルが1に戻ったPKキャラは死に戻りをしていき、途端その場にいた数名のPKキャラが大声をあげながら逃げ始めた。

 画面越しだとあの薬を飲まされているグラフィックは見えない筈、だったらこの叫んでいるのは倒される事を嫌がったプレーヤーが瞬時にログアウトしてしまったこちら側の人間だ。

 「嫌だぁぁぁ!もう戻りたくないっ!誰かっ、誰かぁぁ!!」

 腰を抜かしたように這って逃げ惑う冒険者を兵士は追い回し、捕まえると無理矢理に薬を飲ませている。そしてなにか、頭に向かって手をかざして呪文を唱えている。

 「い、いや・・・いやだぁああぁぁ」

 あぁ・・・そうか、プレーヤーのパソコンからこの世界をアンインストールしたのか。

 運営はこの狩場がPKキャラの住処になっている事を知っていた。だから今日ここに3次転職済みの高レベル冒険者を集めたんじゃないか?初めから、これが目的だったんだ。

 確かにPKする事は褒められた行為じゃない・・・だからってこんな、泣いて嫌がる子を追い回してまであの薬を飲ませるなんて、やり過ぎじゃないのか!?

 PKを好きでやってた訳じゃない子だっているだろう、それなのにこんなやり方で排除するのは間違ってるんじゃないか?

 説得したって聞き入れない弱い者虐め好きはプレーヤーだ、だったらPKする要素がありそうなプレーヤーのパソコンにゲームを入れなきゃ良いだけの話だろ!?

 自分の人選ミスをこんな方法でナシにしようなんて・・・。

 「あ・・・あぁ・・・」

 さっきまで目の前で戦っていたPKキャラが、急に怯えた表情で蹲った。負けると感じたプレーヤーがログアウトした瞬間だろう。

 プレーヤーがいなくなったこの子が見えなくなった周りの冒険者は進軍を再開し、蹲る子はポツンとその場に残された。あのままにしていれば確実に兵士によって薬を飲まされ、プレーヤーが強制引退させられてしまうのだろう。それは可哀想だし、兵士に対して怒りが込み上げてくる。でも、だからってあの子を助けたところで・・・プレーヤーがログインした瞬間にPK行為を始めてしまうんだ。そうしたらレベルの低い、2次転職前の子達がPKされる事になって、心を折られ、ミューのプレーヤーみたいに引退してしまう。

 どちらかしか助ける事が出来ないのなら、私は・・・ごめん、本当に・・・。

 「く、来るな・・・来るなぁあああああああああああ」

 ごめん・・・。

 馬に乗って走り去ったPKキャラは数名いたが、ほぼ全てのPKキャラ駆除に成功したと兵士は言った。で、それを私達に聞かせてどうしろって言うんだ?やったぞって喜んで欲しいのか?

 「・・・その怒りはソウルテイカーに向けるべきだ。奴等が魂を奪いさえしなければ、こんな事にはならなかったんだからな」

 隣にいた兵士は、俯いている私の頭をガシガシと撫ぜて来る。それで分かったのは、ここにいる皆が嫌な思いをしているんだって事。兵士ですらこのやり方に納得出来ていないって事。

 「ソウルテイカーがいなくならない限り、ここはズットこーいう世界だ。それは、お前も分かってんだろ?」

 また別の兵士が、今度は私の背中をバシバシと叩きながら言った。

 全ての怒りと苦しみをソウルテイカーに向ける、これはこれで違う気がするのに、他に怒りをぶつける所がない。

 「俺達はこれからここを訪れる冒険者の命を救ったんだ、もっと誇れ、誇れ!」

 うん・・・少なくともこの場所にいたPKキャラはいなくなった・・・心を折られる冒険者を減らす事が出来たんなら、それは良い事でしかない。

 「そうですね・・・俺達は最高ですよね?」

 今日、レベルを戻された冒険者達が2次転職でここを訪れる時まで、この場所が穏やかでありますように。

 その後、ただイベントをこなす事だけを考えながら500体ずつ倒すクエストを終わらせ、3つ目のクエスト内容を確認する。それは3次転職で今まで行っていたボス討伐クエストを排除し、代わりにアイテム収集クエストにしたというもの。

 ドロップ運の全くない私は、この3つ目のクエストを終わらせる事が出来ないままイベント期間は終了してしまった。

 倉庫に戻り、送られていたアクセサリーボックスを取り出して眺める。

 これが欲しいが為にこのイベントに参加して、嫌な現場に遭遇してしまった。この精神に響くダメージを少しでも癒せるのなら、今すぐに開けよう。

 ドラゴンアクセサリー来い!

 心の底から願って開けたアクセサリーボックスの中には、何故か猫耳が入っている。

 「・・・え?」

 いやいや、これ、確かにアクセサリーだけど、特に何の効果もないユニークの方ですよ!?え?報酬を間違われた?開けた後でも返品ってきくのだろうか?

 その前に・・・少し、確認をしよう・・・。

 イベントが始まる前に皆がこのアクセサリーボックスをかなり軽視していた態度は、今から思うと可笑し過ぎる。もしかしたら、私はとんでもない勘違いをしている可能性が出てきた。

 怖いけど、確認しなければならない。この大会イベントの報酬が本当にアクセサリーボックスだったのかを・・・。

 こうして数日前まで掲示板を遡って見付けた記事、そこにはこう書いてあった。

 大会イベント開催!参加賞はユニークアクセサリーボックスだよ☆

 なんて事っ!!

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