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メンテナンス 1

 ソロとパーティーのインスタントダンジョンをこなし、チームの貢献度を上げる為のデイリークエストをして、自分なりにソウルテイカーを探し、プレーヤーでは決して出来ないような戦い方を模索しながらスキル流れを考えて特訓する日々は、思いの外充実している。

 毎日同じ事をしていれば徐々に作業になってしまいがちなゲームと違って、私の場合は現実なんだから作業なんかにはなり得ない。むしろこうやって戦い方が体に染み付くまで繰り返して訓練しておかないとイザって時に動けない。

 プレーヤーがロクアウトした後は皆も剣の素振りとか、チームメンバー同士で手合わせとかしたりしている。それなら高レベルの狩場に行った方が何かと効率的だって思ったんだけど、矛盾が発生しない為にプレーヤーのいない間の狩場の出入りは禁止になっているらしい。

 確かにログアウトしてるのに経験値や所持金が増えていたらアレ?って思うもんな。

 そんな感じでこっちの世界にも何とか慣れてきた所で、皆から少し可笑しな目で見られ始めている事に気が付いた。

 あいつ、いつもログインしてないか?と言う廃人扱いだ。

 こっちの世界の皆からは廃人様と崇められているんだけど、それももしかしたら今日までになるかも知れない。なぜなら後1時間でこの世界は・・・。

 「アオリさぁ~ん、チームランキング結果出ましたよ~」

 パタパタと走って来たアカネは私の隣に座り込んでメニューを開き、その小さな画面を私の前に出した。

 2人で小さな画面を見ると、かなり顔を近付けなければならないのだが・・・こんなグラフィックはないから、画面向こうのプレーヤーはただ隣同士で各自メニューを開いて確認していると思っているんだろう。

 「今回もしっかりランク外」

 「先週に比べると5位も上昇してるんですよ?もっと喜びましょうよ~」

 そんな事を言ってもランク外はランク外でしょーに。それにランクが5位上昇した理由はマーヤを新しくチーム員に迎えた事によるボーナス効果があったからだ。それでも、喜ぼうかと思えてきたので、インスタントダンジョン報酬シールで交換した宝箱から出てきたパーティークラッカーを倉庫から引っ張り出してきて使ってみた。

 パンッ!と言う音と共にデロンと出た数本のリボンテープと、ヒラヒラと散る紙切れ数枚。これは・・・かなりしょぼい。

 「皆で一斉に鳴らしゃー、ちょっとは豪華に見えないか?」

 そんなレモンの提案で全員が倉庫に走り、パーティークラッカーを引っ張り出してきた。なんとなく店売りするには勿体無いけど、使い場面があまりないという倉庫圧迫アイテム、皆ここぞとばかりに取り出して、レオナなんか両手で抱え込む程持ってきている。

 「ランク5位上昇おめでとぉ~」

 「おめでとー」

 パン!パン!パパン!パン!

 ・・・さ、寂しい・・・。全員が一丸となった分静けさが倍増した。

 「えぇい!もっと鳴らせ鳴らせ!」

 そんなレオナの号令に皆は次々鳴らし、パーティークラッカーを持っていないマーヤは拍手で応戦し始めた。

 大量に用意したパーティークラッカーの全てを使い果たし、それなりに盛り上がった所でチームルーム内に響く運営と名乗る者からの放送。

 この世界は、後10分もすれば定期メンテナンスが行われ、全てのプレーヤーが強制的に5時間ばかりログイン出来ない状況になる。

 私はその間どんな事になるのだろうか?もしかしたら元の世界に戻れるのだろうか?もしそうだとしたら、魂のないこの体はどうなる?消滅、なんて事になったら、私はどうしたら・・・。

 「じゃあそろそろ落ちとくかなっと」

 相当黒ビキニが気に入っているらしいブラックは、腰に手を当てながらのキメポーズと共にログアウトし、プレーヤーのいなくなったブラックはそそくさとエントランスに降りて行った。

 着替えるという行為をしていない事から、ブラック自身も黒ビキニを気に入っている可能性が高い。

 「メンテ明け、ログインした者からソロのインスタントダンジョン行っとけ。全員揃ったらパーティーの方行くからな」

 バシッと今度の方針を発表したレオナの長台詞、ブラックはレオナがこの文章を打ち込んでいる間に落ちたと思われる。

 「ブラックにはアタシからメール打っとく。諸君、夕方にまた会おう!」

 礼をするアクションを使ったレモンのプレーヤーがログアウトして行った後、その場に腰を下ろしたレモンは、道具袋整理を始めたようだ。

 レモンとブラックのプレーヤーはこの世界を通じて知り合い、オフ会をしてリア友になったと言うインドア派には有るまじき行動力の持ち主だったりする。

 聞く所によるとレモンのプレーヤーはちゃんと女性だとか。

 こうやってちょくちょくメールでやり取りをしている事を聞くと、もしかして付き合ってるのでは?とか野次馬根性が出て来てしまう。

 じゃない、メンテナンスまでそう時間がないんだ。

 「くっそ、爆発してしまえ!」

 物騒な台詞と共にログアウトしたレオナ。今はドカリと床に座り込み、不機嫌そうに私を見上げて凝視している。

 「アオリさん、またね!」

 そう言いながらログアウトしたアカネまでもがしゃがみ込んでから私を見上げてくる。

 この2人は、私がプレーヤーのいない人まで見えている事を知っている。だからメンテナンスでなにかが起きるんじゃないかと感じているんだろう。レモンはそんな事はお構い無しといった風で熱心に道具袋をあさり、

 「あ~、やっぱり蜂蜜漏れてるわ」

 と、声を上げた。

 それが気になったからプレーヤーがログアウトした瞬間に整理を始めたのか、なるほど・・・そりゃ蜂蜜が漏れてんなら一大事。一緒に入れていた物がもれなく蜂蜜まみれって事になっている筈だ。これはメンテナンス時間を道具袋内洗浄に費やす事になったな。

 「アオリさん、あの」

 チームルーム内にいる皆の姿が見えなくなった事で、私と2人きりだと思っているらしいマーヤが、かなり真剣な表情で話しかけてきた。

 メンテナンスまでの時間がもうそんなにないから長話は出来ない。そんな状況を狙っての話なんだとしたら・・・まさか、引退するなんて言わないよな?

 「なんでしょう?」

 ミューのプレーヤーは引き止める事が出来なかった。けど、マーヤは・・・何とかしてやりたい。

 魂の為、生き残りの為だって言ってもレベルが1に戻されるんだ。そんな振り出しに戻る、を繰り返せば、やがては生き残ろうと言う意志すら薄れてしまうんじゃないか?だから、マーヤのプレーヤーが引退するのは、この世界が救われてからだ!マーヤだけじゃない、レオナも、アカネも、レモンも、ブラックもだ!

 せめて同じチームの皆だけは、皆のレベルだけは守りたい。

 「わ、私、もっとアオリさんと仲良くなりたいですっ!変な意味じゃないですよ!?そうじゃなくてですね・・・もっと普通にお話出来たらなって・・・アオリさん、私には敬語じゃないですか、それが、なんだか嫌で・・・」

 ん?あれ?引退の話じゃない。

 なんだー仲良くなりたいって、そんな・・・え?

 「えぇ!?ゴ、ゴメン。俺、その、人見知りだから」

 まさかそんな喋り方を気にされてるなんて!

 私は本当に人見知りで、慣れるまで時間がかかる上に極度のあがり症なんだ。霧の沼地の毒蜘蛛退治のパーティー募集をした時なんかどれ程手が震えた事か。

 1回慣れればもうタメ口だろうとなんだろうと平気なんだけど、どうしたってそれまでは丁寧に喋ってしまう。悪い事じゃないし、辺り触りもないだろうと思ってたんだけど・・・嫌われていたなんて、なんて事なのっ!

 「ふぇぇ!?そ、そうなんですか?」

 あ、久しぶりにそれ聞けた。

 ビックリした時とかに言うのかな?だったら・・・もし、メンテナンスが明けても私がこの世界に存在し続ける事が出来ていたら・・・その時は毎日1回はビックリさせよう。

 「マーヤさんだって敬語ですよ?」

 丁寧な言葉使いが嫌なんだったら、お互いタメ口でいかないとね!

 こうして、はい今から無しですよって区切りがないと出来ないんだから人見知りと言うよりもコミュ障なのかも知れない。

 「あ・・・じゃあ私の事はマーヤと呼び捨てにしてください。その代わり、私もアオリさんの事を・・・えっと・・・」

 呼び捨てね、分かったよ。で、その代わり私をなんて呼ぶんだろうか・・・アオっちだったら爆笑出来る自信がある!けど、アオリは呼びやすいし、そのままかな?

 「メンテナンス開始まで10秒、ログイン中のプレーヤーの方はログアウトして下さい」

 もう10秒しかないのか・・・メンテナンスまでにはなんて呼ばれるのか聞きたかったな。

 メンテナンスで私がどうなるのかは分からない。でも、緊張したってどうしようもないんだ。怖いけど、後10秒。

 「あぅ・・・じゃあ、また夕方に・・・アオクン」

 小さく手を振ってマーヤのプレーヤーはログアウトしていった。

 こうして残ったのはこっちの世界の人だけ、どうなる?どうなるんだ?くそ・・・。

 「来い!メンテ!!」

 思いっきり身構えていたと言うのに、メンテナンス開始から数秒、特に何も起こらずに過ぎている。私を見上げているレオナとアカネの様子も変わらず。レモンもまだ道具袋の中身と格闘中、マーヤは部屋の隅の方に座ってメニューを確認しているようだ。

 なにも起きないのだろうか?

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