冒険者 3
目一杯遊んでしまった後、空を見上げてみると綺麗な夕焼け色。ミューと2人並んでズブ濡れになったまま座っていると、これはどこのリア充ですか?と自分で思う程の絵図らになっていた。
「ソウルテイカーに魂を奪われたのは冒険者だけってのは、知ってた?」
え?そうなの?いや、でもストーリーには確かこの世界の人々は魂を奪われーって・・・冒険者だけなんだ?
「メニューで見られるストーリー内容。それが俺の知識の全部」
私だけじゃなく、プレーヤー全員がそうだ。
「うん。けどね、実際はちょっとだけ違うんだよ」
そうみたいだな・・・冒険者だけってのも今始めて聞いた事だし。もしかしたら今日、ストーリー確認で知る事が出来なかった事の全てを聞けるんじゃないだろうか?
全部教えて欲しい、そう頼むとそのつもりだと答えてくれたミューは、ゆっくりとした口調で細かく魂について話し始めた。
「冒険者登録をした時点ではまだ魂は抜かれてないから、そのまま冒険を始められるんだけどね、ある時急に魂が抜かれるの。それがいつなのかは気付かない事が多くて、私も知らないうちに魂が半分になってた」
知らないうちに抜かれる・・・ソウルテイカーは、もしかしたらかなり身近な所にいるのか?それとも魂を抜くと言う行為は、傍にいなくても出来る作業だとか?
「抜かれた人はプレーヤーを見付けるんですよね?」
そして足りない魂を補って生きるんだってストーリーで説明されていた。これはレオナやレモンも説明してくれた事だから確かな筈だ。
「うん。魂が抜けましたって申請をした後、もう1回冒険者登録をし直すんだよ。そこでプレーヤーが見付かるとレベルを1に戻す為のアイテムを使われる」
あの1個500円もする極悪非道なアイテムか!?
「けど、それって課金アイテムで・・・ん・・・課金システムって、なんだろう」
スクラッチの原理もどうなってんだ?仮想マネーが使えると言うのも良く考えると可笑しくないか?
「アオっち・・・この世界の入り口がなんだったのか、もう1回考えてみようか?」
入り口って、それはゲームでしょ?それは分かってるよ。
「オンラインゲーム・・・」
「うん。この世界をゲームとしてプログラムできるマエストロがいるって事はよ?あっちの世界の電子マネーをこっちの通貨に変換して運用資金に回せる技術があるって事!」
あぁ、そっか。こっちの世界の方が色々技術は凄いんだった。このメニュー1つにしたってホログラム的で、タッチパネルで、マイクやスピーカー内臓で、しかも完全防水ときたもんだ。しかもコレで冒険者1人1人把握して、HP0になった冒険者を最寄りの町に送還までしてしまうと言う・・・どんな事になってんだ?この世界は。
まぁ、これで電子マネーの謎は解けたとしてだ。今ちょっとだけ疑問に思った事がある。
「ここは新しいスクラッチが出ない事には、新しい服も買えない世界なのか?」
「冒険者用の服はそうだよ。普通の布で作る訳にはいかないでしょ?だから強化糸とか、皮とか、防具と同じ素材で作るから時間とコストがかかるんだよ」
ちょっとした疑問だったのに、全力の解答をありがとう。
なんだか魂の話から随分と逸れてしまった。
「話の腰折ってゴメン。えっと、レベルを1に戻されて・・・それから?」
プレーヤーがログインしている間だけ魂が100%になるんだよな?だから考え方とか、思考がどちらかに似て来るってのはアカネから聞いた。だから知りたいのはその先の事で、今のミューのようにプレーヤーが引退した後は?どうなるんだ?
「魂が半分の間は、なにをしたってゲームのキャラ扱い。プレーヤーがいなくなったらまた魂が半分になったって申請して冒険者登録をし直すだけだよ」
溜息混じりに呟くミューは続けて、名前も変わるし、と付け加えた。
そっか、冒険者登録している人に似たキャラメイクしか出来ないようになっていても、名前だけはプレーヤーが決めたものになるんだ。
今までやって来たレベリングも、何もかもをリセットされて、新しいキャラとして冒険者を始めなきゃならない・・・チームも抜けなきゃならないし知り合いに会ってもプレーヤーがログイン状態なら話しかける事も出来ない。
「そんな無駄な時間・・・俺達の目的はソウルテイカーを見付けて倒す事だろ?何でそんなゲームの設定を気にしてレベル下げたりしなきゃならないんだよ!」
そもそも何でこんな形にしたんだよ!なんかもっと方法があっただろ!レベル表示がプレーヤーに見えない仕様とか・・・いや、それは無理があるか・・・だったらゲームじゃなくて映画みたいな感じにしておいて、見ている間だけ魂半分借りますよーみたいな・・・見終わった時点でログアウトだな・・・。
「廃人級の神プレーヤーが選んでくれれば安泰なんだよねー」
あぁ、この世界では廃人ネトゲーマーが神として崇められている・・・。
「けど、思考はどちらかに似るんだよな?」
廃人思考の女の子キャラ・・・なんだろう、そこらじゅうにいるような気がする。
「プレーヤーの行動を理解しようとするから似るんだと思うよ?不思議な力が作用してる訳じゃないから、理解しようとしなければ似る事なんかないし」
そこは完全に別物なのか。
アオリは、私がログアウトした時、何をして、何を考えていたんだろう?私を理解しようとしてくれたのだろうか?廃人プレーヤーとして崇めてくれていたんなら、まぁ・・・嬉しい、かな・・・。
「魂が全部抜かれた人って、いるの?」
もしいるんなら紹介して欲しい。そしたらもっと詳しい話が聞けると思うから。
「ん?消滅って事?」
いや、そうじゃなくて・・・あれ?けど、体から魂が全部抜ける状態ってのは、それは消滅するって事だ。
いやいや、私はここにいますけど!この体だって生きてますけど!だったら私の状態はなんなのだろう?
「消滅1歩手前・・・みたいな?」
自分で言っていてなんだけど、この、消滅は可愛そうだから少しだけ残しておいてあげたぜ☆的な軽いノリはないわ~。
「それは分からない。でも、魂が半分のままじゃあ徐々に存在が薄れていっちゃうみたいだから、そんな感じなのかも?」
薄れていっちゃうみたい?誰かから聞いた話か。それを一般常識ですと言う風に説明しているから、こーなりますよーと教えてくれる教科書みたいなのがある?けど、生き残りをかけてプレーヤーを求めた結果がオンラインゲームのキャラになる事。存在が薄れていくと言うのは本当なんだろう。ただ、その先に消滅があるのかどうかは確かめようがない。
まぁ、私のこの状態ってのはかなり珍しいみたいだから一般常識では解決出来ない何か不思議な力が作用したんだろう。
「じゃあもう1個。奪われた魂を取り戻す方法は?」
結局の所、最初っからこれを聞きたかったんだよね。
「ソウルテイカーを見付ける事だよ。闇の女神に捧げられた魂を開放すれば、その魂は元あった場所に帰る」
元あった場所に・・・って事は、闇の女神から魂を開放すればアオリはこの体に戻り、私も元の世界に帰れるのか!なんと言うスッキリとした答えだろう!私の目的も目標も、アオリの目的だった事まで全てひっくるめて全部ソウルテイカーの撲滅だったとは。
悩みもなくなった所で、実は少し引っかかっていた事を最後に聞こう。
「プレーヤーが引退して、新しく冒険者登録したとするぞ?で、新しいプレーヤーが見付かった後、前のプレーヤーがログインした時はどんな事になるんだ?」
魂150%の無敵状態とかになるんじゃないだろうか?そうなったらソウルテイカーなんか楽に倒せるような気がする。
「それはないよ~。ないない」
分からないだろ?
「ないって、なんで言い切れるんだよ」
ここまで高度な技術があるのに、そう言う事を想定出来ていない訳じゃないんだろ?だったら、なにか無敵状態―とか・・・。
「アオっちにしつもーん!」
私の質問には答えてくれないんですか!?
「な、なに?」
人差し指を立てながら顔を近付けてくるミューは、楽しそうに笑ってるんだけど、何故か見てると寂しい気分になってきた。
新しいプレーヤーが現れて、レベルが1になって、名前が変わろうともミューと言う人物が変わる訳じゃないのにな。この世界の仕組みに慣れてないからそう思うんだろうけど。
「アオっちは、このゲームのタイトル、覚えてますかぁ~?」
え・・・?ちょっと待て、今ちょっとログイン画面思い出してみるからっ!えっと、パソコン起動させて、ショートカットをダブルクリックして・・・IDとパスワードを入れ・・・あ、あれ?タイトル画面が出て来ない!?そうだ、これタイトル画面なくて、そのままキャラ選択画面のエントランスだ!いやいや、それでも可笑しい。こんな長い事やってるゲームのタイトルが分からないなんてありえない。
私は、このゲームをいつからしていたんだ?
今年の正月にはもうしてたし、クリスマスもこの世界で過ごした。盆も部屋にひきこもってレベリングしてたし・・・ゴールデンウィーク?そうだ、去年のゴールデンウィークからだ。
インストールした覚えもないゲームのショートカットがパソコンの画面にあったんだ。それを何の疑いもなくダブルクリックした・・・怖っ!悪質なウイルスだったらどーすんだよ私!まぁ、悪質なウイルスと似たようなもんだった訳だけれども。
「適用可能な人間にゲームを送りつけてプレイさせている、か。引退したらパソコンからゲームをアンインストール。二度とログイン出来ない訳だな」
私の解答に大きく頷くミューは、最後に親指を立てて見せた。
本当に、物凄い技術だな。そんな連中ならスグにソウルテイカーなんか見付け出して退治してしまえるんじゃないかって率直な感想文が頭に浮かんで来たよ。けど、ソウルテイカーはこっちの住人、技術力じゃあどーにも出来ないおっそろしい力を使っているんだろう。それが魂の半分を奪うと言う行動なのかも知れない。この世界のお偉いさんからしたら全ての冒険者が人質に取られているようなもんだもんね。
「じゃあ私そろそろ冒険者登録してくるね。アオっちありがとう!話せてちょっと元気になったよ。どこかで会った時は投げキッスするね~!」
勢い良く立ち上がったミューは、大きく手を振りながら走って行ってしまった。
元気になったんなら、それはそれは良い事なんだろうし、どこかで会った時に挨拶をしてくれるのは私も嬉しい。んだけど、どうして投げキッスなんだろう?
その質問は、次に会った時にしよう。