冒険者 2
少し前までPKキャラは首都から2次転職で行く塔までの道なりに多く存在していた。テレポーターが使えない何処のチームにも属していないキャラを狙ってPKしていたのは知っているが、今は3次転職の場所か。
PKしてる奴もきっと暇なんだろう。より強いキャラを相手にし始めたのか・・・だったらソウルテイカーをだな・・・。
「今、小芝居とかしてくるから気をつけなよ?」
え?PKキャラがなにをするって?
「小芝居?」
演劇めいた事をするのか?それは個人的に見てみたいかも知れない。画面越しだと台詞位しか見えないんだろうけど、私はこっちにいるから細かい表情までしっかり見る事が出来るんだ。もし芝居をしてるんなら本当に見たいし、そのクオリティーによってはチップも出そうではないか!て、私は何を・・・そんな暇があるならソウルテイカーとアオリの魂を探さなければならないってのに。
「PKキャラに追われてる子がいてね、その子が助けてーって言いながら走って来るの。そしたら大体は皆その子を庇うようにして立つでしょ?んで後から来たPKキャラとにらみ合い。してる所を助けるつもりの子から攻撃されて死に戻り」
あ、なんだ。そんな感じか。
そんな不意打ち攻撃でPKして何が楽しいんだ?普通はもっと・・・1対1のギリギリの攻防って言うか・・・あ、そう言うのが楽しい人は闘技場か。じゃあPKキャラってのはただただ弱い者虐めが好きな、かなり物凄い性格の悪い人なのかな?それとも、人の事を考える余裕のないギリギリな精神力の持ち主か・・・。そんなプレーヤーに体を使われている冒険者は今、何を思っているんだろう?
「転職、手伝いますよ!2人でいればPKされ難いですし」
私は、自分で言うのもなんだけど、良い事を言ったつもりだ。だからミューが困った表情をするなんて想像もしてなかった。
本当に商売が好きになっていたとしたって、PKキャラを恐れてこんな客も来ない場所にいたって楽しくない筈。それなら首都とかに行って、もっと良い商品を取り揃えた個人商店を開いた方が何倍だって楽しい。それにはレベルを上げて、あちこちの狩場に行って、素材や武器、防具、アクセサリーを仕入れなければならない。だったら、やっぱり転職はした方が良いんだ。なのに、どうしてそんな困った顔をするんだよ・・・。
「アオっちありがとう。そうだ、お礼にこの強力傷薬をあげるよ!」
申し込まれるトレード申請、大量に買い取れって意味なのかと思って1度拒否すると、今度は1000だけくれたらその分送るからとの説明が追加された。だから1000だけならと受け入れて先に1000支払うと、ミューからかなり大きな宝箱が送られてきた。
「これ、本当に1000分?」
しかもかなり重い。
「そうだよ~。私今からお買い物行って来るから。アオっち、じゃね♪」
じゃあとログアウトしたミューの中の人。しかし私の目の前にはミューがいる。これで、本音が聞ける訳だ。
「この中身の意味はなんですか?」
宝箱を開けてみると、さっきまで商品として売られていた全ての傷薬、高級傷薬、強力傷薬が入っていた。明らかに1000では足りない商品をトレードした意味はなんだ?
「えぇ!?み、見えて?」
「見えてますよ。で、この宝箱の意味は?」
始めは何か色々と言い訳を考えているかのようにあたふたとしていたミューだが、そのうち諦めたのか大人しくなり、真正面から私を見つめて来た。
私は、ネトゲ暦は長いし、結構色んな種類のをやった。だからこんな雰囲気が何を意味しているのかも知っているつもりだ。
PKによって心を折られ、こんな暇な場所で個人商店。そして最近では放置が多くなったと言っていた。その上商品だった物を全てトレードするこの行動。何故私に?と思うけど、こんな所じゃ他に人も来なかったんだろう・・・。
「もう、私のプレーヤーはこの世界には来ません。それだけの事」
やっぱりか。
PKが他の場所に移動したと言う情報が出ない限りログインしないつもりか、それとも長期休止か・・・。
「引退したって事なのか?」
しまった、激しく言葉を間違えた!?
引退してない限りまたちょくちょくログインしますよ~とか言って元気付けようと思ってたのに、言葉が途中で止まってしまった!
重苦しい沈黙が続く。
これは、やってしまった・・・久しぶりにやらかした。
「こっちの世界が見えているプレーヤー・・・アオっちは珍しいね」
あれ?思ったより声が軽い。しかもかなり気になる事を言われてしまったぞ?こっちの世界にとっては、プレーヤーが引退すると言う事はさしてそう珍しい事ではないのだろうか?でも、プレーヤーに引退された人は魂が半分に戻るんだよな?どうなるんだよ・・・。
ストーリーの確認でどんな事が起きているのかは分かったし、スキルの出し方だって完璧。だけど、こう言う魂がどーとか、プレーヤーがどうとかってのは分からない。レオナやレモンに聞けば教えてくれたんだろうから、コレはただ私が知ろうとしてなかっただけなんだ。大事な事なのに、どうしてここまで興味を持とうとしなかったんだろう?アオリの魂を見付けると言う目標には、1番大事である筈なのに。
「魂の事、この世界の事。教えてくれませんか?」
頼むと笑顔で了承してくれたミューは、場所を変えたいと言った。だから馬で海岸線にまで出て来たのだが、ここはれっきとした狩場でもあるので後ろにはアクティブではない敵がかなりいる。
「海だぁ~~~」
喜んでくれてるみたいだから良いけど。
こうして海で遊んでるのを見てると、元の世界もここもそんな大差ないんじゃないか、なんて・・・そりゃ後ろには敵がウロウロしてるんだけど、そうじゃなくて・・・海を見た時の人の反応ってのかな、裸足になってバシャバシャ歩いて、そして楽しそうに笑いながら海水を人にかけて来るんだ!
「くぉらぁ~~~!」
「アハハ!逃げろ~アハハハ☆」