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レア運 3

 HPとMP、SPの回復が終わり、パーティーリーダーである私を先頭にして毒蜘蛛に向けて走り出す。一応初心者の2人が雑魚敵を叩いた時の為に最後尾をレオナに任せた。こうして走リ続けて毒蜘蛛が見えてきた所で比較的雑魚敵の少ない場所で立ち止まる。

 「大丈夫ですか?では、まだ着いて来てる敵を殲滅します」

 雑魚殲滅が終わると、新たな雑魚が湧き出てくる前に毒蜘蛛の傍に行く。そこには雑魚敵が湧かない上に毒蜘蛛事態がアクティブじゃないから、休憩するには1番安全な場所となっている。

 じゃあこの時間の間にサラッと倒し方の説明をしとかないと。

 「まずはタンカーのレオナがヘイト使いながら叩き始めるから、俺達はそこから10秒位してから蜘蛛のケツに向かって攻撃する。それだけです」

 倒し方のコツはたったコレだけ。けど、守らないと全滅する可能性を秘めた恐ろしい決まりでもある。

 まず、始めに10秒おく理由は、毒蜘蛛が確実にレオナをターゲットにするまでの時間。ナイトだと言ってもまだレベルの低いうちは効果の薄いヘイトスキルしか覚える事が出来ない。そこへ高火力のケントだ。せーので一斉に攻撃するとアッと言う間にケントがターゲットにされる。それを防ぐ為の10秒だ。そして次にケツに向かって攻撃をする理由、それは毒蜘蛛の攻撃方法にある。毒蜘蛛は前方方向に向けての範囲攻撃を使って来る。だからターゲットになっているレオナの近くにいると攻撃を食らってしまうのだ。それを防ぐ為の後ろから攻撃。それに、後ろから攻撃した方がダメージが出るので一石二鳥。その上、これは不確かなんだけど、後ろから攻撃して倒すと素材ドロップ率が上がると言う情報が掲示板にあったんだから一石三鳥だ。

 「エンチャかけますよぉ」

 アカネがレオナにだけ防御アップのエンチャをかけ、レオナが毒蜘蛛を攻撃し始める。そこから数える事10秒、残ったメンバーで背後から攻撃を開始させた。

 タゲが彼方此方に飛んだり、雑魚が寄ってきたりと、そんなトラブルがない限り危な気もなく倒せるこの毒蜘蛛は、今日もちゃんと倒す事が出来た。

 さぁ!お待ち兼ねの宝箱開封の儀式!の前に抽選だ。

 ボスを倒した後に出る宝箱は、何人で討伐しようとも1つしか出ない。だから開ける前に宝箱から物を取る順番を抽選で決めなければならない。別にランダムにしたって良いんだけど、それだと後から文句を言われやすいって経験談。

 そうか、私はドロップ運と言うよりもこの抽選が弱い・・・ならソロで行った時の宝箱の中身の残念さはなんなんだ。

 あぁ~、どっちも悪いのか~。な~んだ~アハハ・・・。

 抽選は2個のサイコロで決める。1番数の多かった者から順番に宝箱の中身を取れると言う仕組みだ。

 よし、呻れサイコロ!私に1番の権利を!!

 出た数字は11.しかしそれでも1番にはなれなかった。

 「お?今日は2番か、素材があったら取って良いからな」

 3番目のレオナがそう言ってくれた。初心者の2人は倒し終わった後の経験値とお金だけで良いですと帰還している。と言う事は、本当に素材があったらもらうから!

 では、開けます!

 カチャっと開けた宝箱の中には、信じられない物が入っていた。スパイダガーの素材も勿論だし、他にも貴重なオリハルコンなる素材もあったのだが、そんなモノとは比べ物にもならない物・・・それは、スパイダガーそのものだった。

 まさか、現物がこうして見られるなんて思ってもみなかっ・・・。

 「今日は運が良いですね。では、これをもらいますね」

え?あ、う、うん・・・そりゃ1番に好きな物が取れる権利があるのはケントだし、うん、そうだよな・・・。

 「じゃあ俺は本当に素材もらいますよ」

 こうして私が選んだのはスパイダガーの素材3個セット。1個作るのに12個いるから、後9個か・・・集めてる間にレベルが上がりそうだわ。

 「・・・アタシはオリハルコンをもらうよ」

 「じゃあ私はアクセサリー素材ね」

 いつものように現地解散して戻って来た町の中、手に入れたばかりの素材を倉庫に入れる為に歩き出すと、後ろから歩いて来たケントが話しかけてきた。

 「今からスパイダガーの合成に行くんですが、見に来るんですよね?」

 あ、そう言えばそんな約束してたっけ。

 現物が手に入ったのに、合成・・・あ、そっか属性を付けるには同じ武器がもう1個要るんだっけ。属性が追加された武器は、その属性によって光り方が変わる。闇なら紫、火なら赤、水なら青。どんな属性になろうとも、きっとこの武器は綺麗なんだろうな・・・それは見たいかも知れない。

 「はい、行きましょう!」

 一緒に鍛冶屋に向かっていると、何故かレオナとアカネも合流し、結局は4人でスパイダガーの完成を待つ事になった

 カーンカーンと軽快打ち込まれる金鎚の音。

 「出来たぞぃ、持って行くがいい」

 そんな台詞が聞こえた後、ケントがスパイダガーを装備して見せてくる・・・やっぱり、格好良いなぁ。

 短剣には片手剣や両手剣のような攻撃力はないし、弓のような遠距離なんか無理だし、槍のように範囲攻撃なんてどうやっても出来ないんだけど、どんな武器にも勝るロマンがあるよな!

 武器が出来たんだから後は首都にある鍛冶屋で精錬すれば完成、属性も付けるんだろうし、どんな感じになるんだろう・・・。

 「今から首都に行きますが、来ますよね」

 勿論ですよ!あ、でもテレポーター料金ないから徒歩移動になるな・・・ここから首都だと・・・道中1回も敵に遭遇しないと仮定したって1時間はかかりそうだ。

 「1時間位待ってもらって良いですか?走りますので!」

 良いですよとの快い言葉を聞き、急いで町の出口に向かうと、突然レオナからの申請が届いた。フレ申請でも、トレード申請でも、パーティー申請でもなく、チーム申請だった。 

 「たった今チームを作る事に決めたんだ。マネージャーとして入ってくれ」

 唐突過ぎる申し出にどうして良いのかが分からずにいると、

 「チームだとテレポーター代安いでしょ?だからだよ」

 と、アカネによる分かりやすい説明があった。

 そういう事かとテレポーターで首都までの手数料を見て驚愕する、なんだよこれ・・・10分の1以下になってるじゃないか!これはゲームシステムがどっかのチームに所属しろって言ってるようなもんだな・・・。

 レオナのお陰で安く首都に行ける事になったんだから、ここはテレポーターを使おう。ケントを1時間待たせずに済むんなら安いもんだ。

 「テレポーターで来たんですね。まぁ、良いです・・・こっちに来てください」

 ん?なんだろう、早く来ない方が都合良かったのだろうか?もしかして精錬用の素材が足りなくて、今から個人商店で素材を物色しようとしていたとかだったり?まぁ、こっちに来いって言われてるんだから着いてけば良いんだろうけど。

 連れて来られたのは倉庫でも、鍛冶屋でもなく、個人商店が並ぶ中央部。やっぱり今から精錬用の素材を買うんだ、そう思っていたのだが、少し違ったようで、ケントは個人商店で売られている武器を1本残らずチェックし、私の目の前で個人商店を開いた。商品は勿論スパイダガー2本のセット販売。価格は2本で550万だ。

 えっと・・・?

 「スパイダガー1番安く売っている人が300万でしたので、2本で550万にしました」

 あ、いや、そうじゃなくて・・・。

 「ちょっと!300万で売ってる人精錬済みのじゃないですか!やだー」

 個人商店を見て回っていたアカネが言うと、

 「属性を付けるとまた精錬する必要があるから、同じ事でしょう?」

 と、ケントは用意していたかのような完璧な受け答えをした。

 確かにその通りだから2本で550万ってのはお買い得なのかも知れない。けど、けどさ・・・。

 「悪い、今550万なんて大金持ってないんだ・・・だから、それは他の人に売ってくれよ。じゃ・・・ゴメンな」

 ケントに背を向け、倉庫の中に入れようと思っていた3個のスパイダガーの素材を握り締めながら道具屋に駆け込み、

 「3つで30になりまーす」

 店売りした。

 なんであんなにこの短剣が欲しいと思ってたんだっけ?なんでこんな必死になって毎日毎日蜘蛛退治してたんだっけ?

 何度行った所でレア運のない私じゃなにも手に入れる事なんて出来なかった。それが結論だ。だったらインスタントダンジョンにだけ行っていれば良い。新しく武器が欲しくなれば手持ちで足りる金を払って個人商店の商品を買えば良いんだ。

 「アオリ?」

 倉庫整理も兼ねて倉庫に入っていた全ての素材を道具屋に持ち込んで売っていると、レオナが道具屋に入って来た。

 「全部売っても100万もありませんでした」

 クエストのオーダー品まで全て売ったと言うのに、本当にドロップ運は最悪だ。倉庫の拡張なんて課金アイテムは私には一生必要のない物だと思う。

 この際だから短剣なんか止めて槍を使ってみようかな・・・範囲攻撃職だから集めて一気に狩ると言うスタイル。今よりもきっと何倍も狩の効率は良くなるだろう。だったら、今持ってる短剣も売ってしまおう。

 「750になりまーす」

 やっす。

 こんな安い物で今まで戦ってたんだな・・・よし、心機一転、この全財産80万で買える最高の武器を買おうじゃないか!

 「あ、本物だ」

 何か良い武器がないかと個人商店を見て回っていると、思いがけずに話しかけられた。名前を見るとレモンと言う女性キャラ。前に1度パーティーを組んだ事があるのだろうか?それにしても本物ってどういう事なんだ?私の偽者が出回っているのかな?

 「えっと・・・なんでしょう?」

 「毎日毎日毒蜘蛛討伐部屋立ててる人だろ?短剣なんて中途半端な武器を使う人がいるんだなってここらじゃ有名人だよ?」

 なっ!有名人だって?しかも短剣が中途半端だとぅ!?そりゃ攻撃力も距離も範囲もないよ!けど、だけど短剣には・・・ロマンがあるんだ。戦う楽しさがあるんだ。これは他の武器にはないものだ。そして将来、3次転職したら短剣二刀流を使うのが私の目標。

 そっか、私ってばこんなにも短剣が好きだったんだ。

 「レモンさん、その精錬済みブロードナイフを売ってください」

 こうして手に入れたブロードナイフを私は大事に、大事に使った・・・。そりゃもぅ2次転職が終わるまで使い続けた。

 2次転職が終わって、グラディエーターになって「サムライノワキサシ」って言うこれまた一見すると冗談みたいな名前の短剣を手に入れるまでズット。

 懐かしい事を思い出してしまったな。

 「マーヤさん、そのブロードナイフはチーム倉庫の中にあった物ですか?」

 尋ねてみるとレオナが使えと出してくれた物だとの返事が返ってきた。じゃあ、それは私が使っていた物に違いない。

 「使いたい武器を聞かれたので、スパイダガーと答えたんですが、コレを使いなさいって言われました・・・どういう意味なんでしょう?」

 どうやらマーヤとは好みが似ているようだ。

 それにしてもレオナ・・・スパイダガーを諦めた私が選んだ武器を、これからスパイダガーを目指そうと言う子に託してどうするんだよ。けど、あんな昔の事を覚えててくれたんだな・・・。

 チーム設立する切欠にもなったから色々と思い出深いんだろうけど・・・。それを思うと、あの日々ってのは無駄じゃなかったんだなってちょっと救われる。

 私が毒蜘蛛からドロップしたのは、武器でも素材でもなくて、このチームだったのかな?なんてね。

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