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スキル 2

 良い感じに緊張感が抜けた所でレモンが戻ってきて、そのままインスタントダンジョンの中にワープする。中にはいつもと変わらず中央に鎮座しているボスが1匹。

 「エンチャかけますよぉ」

 杖を大きく振り上げたアカネは、1人1人に補助魔法をかけていき、フルエンチャになったレオナがボスに向かってヘイトを発動させながら攻撃をする。今日は初めから防御を意識しているのだろう、片手剣ではなくシールドアタックで突っ込んで行った。そんなレオナに着いて中央に向かったブラックは、ボスの攻撃が届かない場所で立ち止まり、ヒールを唱えていない間は座ってMPの回復に努めている。今まではMPが半分程まで減らない限り座る事はなかったと言うのにだ。全員のエンチャを終えたアカネもその場に座ってMPの回復を優先させ、残ったレモンと私。

 「一気にカタを付けるよ!アオリ!」

 声を上げて気合十分なレモンが走り出し、私も遅れないようにと走る。

 よし、やるか!

 短剣二刀流、基本の構えをとって通常攻撃を繰り出す。隣にいるレモンは初めからスキルを連発して入れているようだ。

 ここがゲームではないと言うなら、ゲームパッドを持たない私にだってスキルを連発する事が出来る筈。息継ぎもなく絶えずスキル名を叫び続ければ出せるのか?いや、そんな事をしなくなってレモンのように戦える筈なんだ。

 「DOUBLE SLASH」

 試しに小声で呟いてみるが、スキルは出ない。次に大声でスキル名を叫びながら、全く違う構えをしてみた。

 DOUBLE SLASHは、横と縦の2段攻撃。だから最初は二刀とも横に構えて、敵を横に斬り付けた後、右の短剣で縦の攻撃、その後は通常攻撃の構えに戻る。と言う一連の流れがある。だから、二刀共斜めに構えてみたのだ。

 メニューに視線を向けてみるとDOUBLE SLASH分のSPは減っているが、攻撃が出ない。不発になったのだろうと通常攻撃に戻ると、普通の攻撃にも拘わらずスキルを当てた時の手応えがした。それも2発分。

 通常攻撃なのに、2段攻撃になったと言うのか?

 「TRIPLE SLASH!」

 そう叫びながら通常攻撃を続けると、今度は3回分の通常攻撃にSPの威力が追加された。

 これは・・・そうか、なんとなくスキルの仕組みが分かったぞ!

 「TRIPLE SLASH!」

 そう叫びながらDOUBLE SLASHの動きをして通常攻撃をすると、1回分だけ通常攻撃にSP威力が追加されている。

 やっぱり、そういう事か。

 どんな攻撃であろうと、DOUBLEを唱えると2回分の攻撃にSP威力が乗るようになる訳だ。TRIPLEなら3回分。だから通常攻撃をしながらSHOCK WAVEを唱えると、通常攻撃した剣先からショック効果のある衝撃波が飛んで行く筈だ。

 「SHOCK WAVE!」

 少しだけ間合いを開けて叫び、通常攻撃と同じ様に剣を素振りすると、そこからかなり小規模な衝撃波が飛び、敵の足に当たった。なるほど、SHOCK WAVEのモーションがかなり大振りなのは、飛んで行った衝撃波の幅を少しでも広げる為だったんだな。

 スキルの名前を叫んで発動させると、次の攻撃にその効果が乗ると言うのは分かった。けど、それ以前に最大の問題が解決していない。

 叫ばずにスキルを発動させたいんですが・・・。

 「DOUBLE スラ・・・あ」

 もう1度小声で言って発動するかを試そうとした所で、強化も何もされてなかったボスが倒れた。

 「アオリよー、その叫ぶのってなんなんだ?気になるんだけど」

 武器を納めたレモンが、本当に迷惑そうな顔をしている。表情はプレーヤーがどうこう出来る場所じゃないから、コレは確実にこっちにいるレモンの感情だ。

 「見てみ、ログお前のスキル名で流れちまってんぞ」

 メニューを開いているレオナも同様の表情。ログ流れを気にしている発言だが、こっちにいるレオナは確実にレモンと同意見なのだろう。

 「ショートカット登録してんだろうけど、チャットは消しててくれよ」

 ショートカットじゃないんだけどな・・・。

 これは、明日のインスタントダンジョンまでに叫ばずにスキルを発動させられるようにならないと怒られるパターンだ!

 とは言っても、どうすれば良いんだ?

 最悪、明日はメニューからの発動で乗り切るしかない。

 「で、でも!気合は入りますよ!」

 アカネ・・・。

 インスタントダンジョン攻略報酬のシールを受け取り、町に戻って行くレオナとレモン。ブラックも戻った所でアカネの頭をポンポンと撫ぜる。画面向こうにいるプレーヤーには見えてないんだろうけど、嬉しかったからさ。

 「フォロ-、ありがとな」

 例を言うと、アカネの頭に乗せていた手を掴まれる。こんなグラフィックは存在しないから、コレはこっちのアカネの行動だ。

 「ううん。本当の事言っただけだもん」

 エンチャ役のアカネが気合入ってどうすんだよ。嘘が下手だな、本当に。なのにどうしてそう笑顔なんだろう。

 「明日からは別の事で気合入れてくれな?」

 「うん!」

 さて、こう約束したんだ、なんとしても今日中に叫ばなくてもスキルが発動出来るようにしなければならない。

 森の遺跡ダンジョン、あそこで少し特訓をしよう。

 インスタントダンジョンを出て、目の前に座っていたマーヤを連れて初期村まで馬移動し、傷薬を買おうとして思い出す。

 そう言えば森の遺跡ダンジョン前に傷薬売ってる商人がいたっけ・・・今もまだいるのだろうか?まぁ、いたら高級傷薬の1個でも買おう。

 「あ、いらっしゃ~い・・・って、あれ?昨日にも見た名前だ」

 見た顔だ、じゃなくて名前ですか。画面越しの名前表示でしか人を見てないのか。そりゃそうか、画面で見たら1人1人の顔なんかかなり小さいし、そこに被る様に名前の表示があったりするもんなぁ。じゃあ名前を覚えてもらえていたのは光栄な事なのかも知れない。

 「高級傷薬、2個もらおうかな」

 店で売ってる値段とほとんど同じなんだから損をする事もないし、丁度高級傷薬切れてたし。

 「えぇ!?ホント?やった、ありがとー!」

 高級傷薬2個でこんなに喜ばれるとは・・・ここでの商売は相当儲からないようだ。だったら本当に2次転職で行く塔の前とかにいた方が良いと思うんだけど・・・まぁ、先にマーヤのアクセサリーだな。

 森の遺跡ダンジョンに入り、メニューからヘイトを発動させながら2階への階段を目指す。すると当然敵に囲まれる訳だが、レベル15そこそこの敵に囲まれたって何ともないからそのまま2階を目指し、階段が見えてきた所で立ち止まってもう1回ヘイトを発動させておく。

 「マーヤさん、良いですよ。攻撃してください」

 ウジャウジャといる敵のせいでマーヤの姿は見えないが、メニューを見る限りでは死に戻ってないし、HPゲージも満タンだから近くにはいる筈だ。

 「はい!」

 気合の篭った声と共にバシバシと攻撃を開始させた音が聞こえて来る。短剣を使いたいと言っていたが・・・範囲攻撃をしているっぽいから今使ってるのは多分槍。なら10秒に1回位はヘイトを発動させていた方が良いかな。

 スキルの出し方を練習するにはもってこいだ。

 まずはメニューから1回ヘイトを発動させ、10秒後にヘイトと叫んだ。

 何の問題もなく発動したようだが、叫ばないで出す方法を見付けなければならないんだからこれじゃあ駄目だ。

 小声で呟くように言った所で何にもならないと言うのは、さっきのインスタントダンジョンで実証済みだから、スキル名で発動している訳ではなさそうだ。だったらなんだろう?コレを使うぞって言う明確な目的?そもそもSPってなんだ?そりゃスキルポイントだってのは分かってるんだけど、それを消費するってメカニズムの問題だ。明確に分かってないからスキルが出せないんじゃないか・・・いや、それでもメニューからならなんの問題もなく出せるし、大声を出せばスキル名を言うだけで出る。

 「ハァ!」

 頭の中でヘイトと思いながら思いっきり息を吐いてみた。もちろんヘイトを出す時のモーションを取りながら。すると、ちゃんとヘイトが発動した。そして10秒後、今度は頭の中でヘイトと思いながら腹に力を入れて気合を込めた。

 なんだ、こういう事か・・・。

 MPやSPと言うのは分かりやすく言うと気力なんだな。さあやるぞ!って気合を入れない事にはスキルもなにもないって訳だ。だから小声では出なかったのに大声では発動したんだ。

 メニューからの発動の時は気合とか意識してなかったけど、コレを出そうって自分で選んでたんだから気は篭ったんだろう。

 これでなんとか明日は叫ばずにインスタントダンジョンに望めそうだ。

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