Explanation
[ショ'ーリィ・ファ'ヴド]02・Explanation
【あなたのSFコンテスト・参加作品】
翌日の企画二課は、もの凄い人の数でごった返していた。それは、牧博美を一目見ようと他のフロアからも、全く企画二課に全く用がないのにも関わらず男性社員が詰め掛けていたからだ。
社内ではもう既に『誰が最初に牧博美のハートを射るか?』という話題でもちきりだった。
我々の課には「スケコマシ野郎」と陰口を叩かれている『自称・キャバクラの帝王』と名乗る男が居る。スケコマシだけが本当に取り柄で、毎日キャバクラに通っているらしい。よくもまぁ金が続くものだと思うけれども。
ナンパには誰にも負けたことがないと自負するそのスケコマシ野郎が、一番最初に牧博美へと、もう昨日のアフターファイブの段階でアタックしたらしい。しかしながら、そのスケコマシ野郎が昨日の成果の話もせずに黙々と仕事に打ち込んでいるということは、あえなく玉砕したのだろうと推測出来る。あのスケコマシ野郎をここまで仕事に向かわせるなんて、牧博美はいったいどんなに強烈な『お断り』をしたのだろうか。逆にそちらの方に興味がそそられているところなのだ。
『スケコマシ野郎が玉砕された』の噂はたちまち広がり、彼女のガードは意外に硬いのだという認識が広まって、恐れを生した男性社員は高嶺の花を決め込んだのか、その翌日にはもう牧博美を閲覧する男性社員の数もめっきり少なくなっていた。
そんな出来事があって「身持ちが硬い」と思われ始めていた牧博美だったが、一週間後に意外な噂が女性社員の間から広まり始めた。それは、営業一課に「女好きだが仕事はやり手でそこそこにイケメンの独身男」が居るのだが、牧博美はそのやり手イケメン男に落ちたという噂だった。その噂は、二週間後には誰も口には出さないけれども、社内の誰もが知っているという公然の秘密と化していた。しかし、彼女と出来ているという噂が広まってから三週間くらいして、やり手イケメン男は会社に姿を見せなくなった。そして会社を辞めたらしいという噂が広がり始めた。ただし、牧博美は毎日会社に出勤している。しかも、いつもと変わらない様子で、入社した時の雰囲気と全く変わらない様子だった。
しかし、牧博美に「やり手イケメン男のこと」について誰一人とも訊こうとはしなかったようだ。それは、やり手イケメン男にはいろいろと悪い話や黒い噂があったからだ。だから「スケコマシ野郎」の時と同じように、何か強烈な『お断り』をされてショックで会社を辞めたのだろうというのが、大方の見方だった。
ところが、牧博美に対する噂は衰えるどころか、益々勢いが付いている様子だった。
すぐに、企画三課の白木課長が彼女と恋仲になったという噂が瞬く間に広がったからだ。そして、噂が広まって同じく三週間ほどが過ぎると白木課長も会社に姿を見せなくなった。
さすがに白木課長の場合は少々問題があった。白木課長には奥様もお子さんもいらっしゃる。伝え聞く話によると、白木課長は大変に家庭を大事にし、家族想いであったという。
そんな白木課長が浮気をすることもそうだが、浮気ごときで簡単に会社を辞めるなどとは考えないだろうと思えたし、浮気でいきなり会社に来なくなることも考えられなかった。
たとえ浮気が原因だったとしても、会社を辞めるとか来なくなるとかの前に奥様との痴話喧嘩とか三角関係の修羅場とかがあってもよさそうなものだし。そんな噂さえもなければ、だいたい浮気相手と噂されている牧博美は、全くその様子が変わらずに今まで通りに会社へ出勤しているのだ。
案の定、白木課長の奥様から会社に相談があり、それがキッカケで白木課長の失踪が明るみに出たのだった。当然の如く、白木課長との噂があった牧博美も事情を訊かれたようだ。だが、牧博美は調査部の社員に表情を変えずに平然と答えたらしい。
「えぇ、一カ月くらい前に白木課長にお食事を誘われました。それから指折り数えられる回数だけど、白木課長とご一緒にお食事をしました。けれども、それだけの関係ですし、それ以上のことなんて一切、何も有りません。本当にそれだけなんです。信じてください、お願いします!」
それ以上の詳しい話はなく、これを繰り返し訴える牧博美。確かに牧博美の、あの微笑みで無実を訴えられたら、調査部の社員も追撃の言葉が鈍くなってしまうのだろう。結局、彼女は推定無罪の判定が下り、白木課長の行方は依然として分からず、警察に捜索願を出すという落としどころで沈静化してしまった。
遂に、牧博美の噂は我が企画部の部長である尾崎部長にまで及んだのだった。
尾崎部長と牧博美のことは「尾崎部長はいい歳をして、娘のような牧博美に入れ込んでいる」と尾崎部長を卑下し、なぜか牧博美に対する援護、擁護、支援をする噂だった。
そして、やり手イケメン男、白木課長の前例と全く同じように、尾崎部長も三週間で会社からも家庭からも姿を消したのだった。
ここまでお読みいただきまして、感謝申し上げます。